シンデレラ乙女に恋をしてー後編(ガールズラブ表現あり)
隣の村も寝静まっていて物音一つしない。しまった。夜のほうがばれずに抜け出しやすいと思って夜に出て行ったけどそういえばどうやって彼女の家を訪ねよう。わざわざメアリーの家族を起こすわけにもいかない。私の都合で家の人を起こすなんてそんな失礼なことが出来るわけがない。そんなことを思いながら歩いていたが、寝静まって光のない家の集落に一つだけかすかな明かりがついている家があった。そこは、メアリーの家だった。私は驚いた。こんな夜遅くなのに、明かりがどうしてついているのだろう。メアリーの家に着き、そっとドアをノックする。しばらくしてメアリーが出てくる。彼女は私を見ると驚いた顔でこちらを見ていたが、すぐにいつもの顔に戻って言った。
「また貴女ですか。こんな夜遅くに何しに来たんですか」
「あなたに会いに来たの。やっぱり恋しくなって」
私はそういうが、彼女は小さく嘆息をついて言う。
「前も言いましたが、ダメなものはダメです。私はただの貧乏な村娘で貴女はお姫様。私たちは交われない運命なのですよ。わかってくださいよ」
彼女はそう言い扉を閉めようとした。このままじゃまた締め出される。そう思い私は必死に抵抗をした。
「そんなことは関係ない。私はあなたが好きなの」
「メアリー何をそんなに騒いでるの」
玄関の前でそのようなやり取りをしていると家の中から彼女の母親が出てきた。
……あれ、なんで今メアリーの母親ってわかったのだろう。そんな疑問をよそに私とメアリーを交互に見て嬉しそうにニコニコと笑っていた。
「あらあら、メアリーのお友達かしら。嬉しいわね。この子のことを訪ねて来てくれる友達は少ないから。さあさあ、上がって頂戴な」
有無を言わせずメアリーの母親は私の事を家にあげてくれた。何故だろう。私はここを懐かしいと感じてしまっていた。私のことを居間らしき場所に座らせると言う。
「わざわざこんな夜遅くに訪ねて来てくれたのに何も出せなくてごめんね」
「いえ、そんな」
「見てもらえばだいたいわかると思うけど、この村のほかの住民と比べて私達家族は貧乏なのよ。だからこうして夜遅くまで働かないといけない。なさけない話よね」
そういい苦笑する母親。でも不思議だ。どうしてこの家だけとびぬけて貧乏なんだろうか。この村はネックレスなどのアクセサリー店が充実していて小さい村ながらなかなか経済が回っている。見たところこの家もアクセサリーを作っているようだし、そこまで経済
が追いやられるなんて何か理由があると考えたのだ。しかし、そのことを直接聞くわけにもいかない。デリケートな問題だからだ。
「ところでこの村では見かけない顔だけど他の所から来てくれたの?」
「隣町から来ました」
隣町の城の王女です。なんて言ったらひっくり返るかな。
「あらあら、わざわざ隣町からメアリーに会いに来てくれてありがとうね」
嬉しそうにメアリーの母親はそう言った。話していて私はあることに気づきそのことを聞こうとした。
「そういえばお父さんは」
しかし、聞き終わる前に玄関からの声に遮られてしまう。
「おーいただいま。今帰ったぞ」
「おかえりーこんな夜遅くまで何をしていたの」
メアリーの母親が聞くと急にその男は怒鳴りだした。
「うるせー! 俺が何をしていようが俺の勝手だろ」
「お父さん。また酔っ払ってるのね。だからお酒はほどほどにしろって言っているのに」
「ああ? 文句あるのか。ここの大黒柱は誰なんだ。誰が住ませてやっていると思っているんだ。言ってみろ」
怒鳴りながら男は酒瓶をメアリーの母親に投げつけた。どうやらこの男は相当な酒乱らしい。そして口答えするなとメアリーの母親を殴り始める。私とメアリーは流石にこれ以上は危ないと思い止めに入った。しかし、私達がいくら止めても暴れるのをやめなかった。私たちが止めているのを見てメアリーの母親は言った。
「やめて。お父さんは何も悪くないから。私は大丈夫だから」
そしてメアリーの母親は、タンスからお金を取り出すと男に渡した。
「ごめんなさい。私が悪かったです。だから、どうかこれで許してください」
それを見てメアリーは慌てるように言った。
「お母さん。それはお母さんの!」
しかし、その言葉を遮ってメアリーの母親は言う。
「いいの。メアリー。大丈夫だから」
男はそのお金をひったくるように取って歓喜した。
「なんだよ。よく分かっているじゃねえか。こんな所に金があるなら最初から出せよな」
男はそう言いご機嫌でまた外へ出かけてしまった。
「ごめんね。友達にこんな見苦しい所を見せてしまって」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
でも分かったな。なぜこの家だけ群を抜いて貧乏なのか。ここの男。父親と認めたくないがメアリーの父親がかなりの酒乱で夜遅くまで酒を飲んでどこかで遊んでいるのだろう。それでメアリーとその母親がいくら働いても追いつかないってことか。
「さあさあ、もう夜も遅いしそろそろ帰らないと両親のかたが心配するわよ。この村の夜道はかなり危ないから、メアリーが送ってあげなさい。ありがとね」
とそう言って私を笑顔で送り出してくれた。
城への帰り道メアリーは言う。
「ごめんなさい。見苦しいところを見せてしまって。見ての通りお父さんがあんなんだから、私たち家族だけとびぬけて貧乏なんです。いくら働いても働いてもうちのお父さんが使っちゃうから貯金もたまらないし。今日出してきたお金もお父さんに隠れてお母さんが必死に貯めていたお金なんです」
お母さんが必死に貯めたお金をあんな男に使われるのがよほど忸怩たる思いなのか、悔しそうに歯ぎしりをする。そりゃ悔しいよな。私だって嫌だ。しばらく何を話していいのか分からず気まずい沈黙が流れる。しばらくしてメアリーが訊ねてきた。
「ところで、なんでこんな貧乏で薄汚い僕……いや、私を貴女は何度も訪ねて好きと言ってくれるのですか」
私は今日ボン王子が帰った後、マリアと離したことを思い出した。
「お疲れさまでした。お嬢様」
マリアはそういって部屋の入ってきたが何かを言いたげにもじもじとしていた。
「どうした? マリア」
私が聞くとマリアは話し出す。
「恐れながら言わせていただきますが、お嬢様はボン王子が好きじゃないというのは本当なんでしょうか?」
「聞いていたの? ボン王子と私の話」
「すみません。会話が聞こえてきて悪いと思いながらも聞き耳を立ててしまいました」
そうか、あの会話マリアに聞こえてしまったのか。厄介なことになったな。お父様達に報告をされなければいいが。そう思ったが彼女からは意外な言葉が帰ってきた。彼女は真剣な目つきをこちらに向けてきて言った。
「お嬢様。自分の気持ちに素直になるべきですよ。結婚したくなければ言うべきです。お嬢様がどんな答えを出しても私はお嬢様の味方ですから」
あの時マリアが言った事。私の本音はきっと。
「そんなの。あなたが好きだからに決まっているじゃん。ほかに理由なんているの? それに……それに何故かあなたを見ているとすごいドキドキするのよね。何故か、恋とは別に不思議な気持ちになる」
きっとこれが本音。私が思っている事。 しかし、ふに落ちない顔でメアリーは言った。
「きっとそれは」
「きっとそれは何なの?」
「貴女には分からなくていい事です。じゃあ、そろそろ村から出るのでお別れですね」
私はその先を言及したが、頑なにその先を言おうとはしてくれなかった。メアリーと別れて村から出ると自分の街が明るいのが見えた。
「あれ、何か始まったのかな」
そう思って帰ってみたが、街に帰ると明るかった理由は想像もしない理由だった。
街に帰ると、あちらこちらで私の城の召し使い雇い兵士が目を皿のようにして何かを探しているようだった。兵士の一人が私のことを見つけると驚いて大きな声で叫ぶ。
「お嬢様を見つけたぞー! お嬢様を保護しろ」
そう言われて周りにあっという間に兵士に囲まれて私は城へと担ぎ込まれる。入口の門をくぐると、お父様が真っ青な顔をしておろおろしているのが見える。私は少し申し訳なくなってお父様に言った。
「ただいまお父様。今帰りました」
私を見るとものすごい形相でこちらに来て言った。
「アカユリ。お前、こんな夜遅くに出かけてどこへ行っていたんだ。皆に心配かけて」
「お父さんが勝手に心配してただけでしょ。ちょっと隣村までいって来ただけだよ」
「心配しすぎじゃないだろ。お前は間もなく結婚を控えているんだぞ」
「分かったって。悪かったわよ」
お父様の説教を聞き流し、逃げるように部屋に戻ろうとする。しかし、お父様はさらに聞いてきた。
「お前、隣町って一体何をしに行って来たんだ。お前、まさか」
「まさかって何よ」
私は振り返って聞き返したが、慌ててなんでもないとごまかす。
「とにかく、隣街へは絶対にもう行くな。いいな。お父様との約束だ」
その後お母様にも隣町の事を聞いたが適当にはぐらかされた。そうか、私の意見は聞きいれてくれないが、命令はするんだな。……それならこっちにも考えがある。
結婚式前までに逃げ出して、結婚式を破断させてやる。ボン王子は何も悪くないし、ただの子供みたいな仕返しだし、皆に迷惑をかけるのは分かってはいる。しかし、このまま引き下がりたくないんだ。私はそう思って自分の部屋に戻って行った。明日にでも逃げ出してやる。そう心に誓って就寝したのだった。
次の日、部屋で逃げ出す準備をして、朝ご飯を食べに行こうと部屋から出ようとする。しかし、部屋の扉を開けようとしても全く開く様子がなかった。疑問に思い扉のドアノブをガチャガチャといじってみたがやっぱり開かない。すると、扉の向こうからお父様の声が聞こえてきた。
「無駄だぞ、アカユリ。その扉は外側から出られないように閉じ込めたからな。悪いが結婚式になるまでそこにいて貰うぞ」
「なんで、そんなことをする必要があるの」
私は扉越しに声を荒げて怒鳴るが、お父様は言う。
「すまんな。こうでもしないとアカユリが逆らって逃げ出そうとすると思ったんでな」
なるほど。逃げ出すのも全て予想内というわけね。やられたわ。
閉じ込められたんじゃあもう抵抗のしようもない。ましてや内側から開かないんじゃ。
「ちょっと、マリアはいないの? アンタ達も私をこんな事をしていいと思ってるの!」
「すみません。お嬢様。王様のご命令ですので」
と言ってマリアを含む召し使い達も出してくれる様子はない。一応ご飯は時間になると私が扉から離れるのを確認して召し使いが届けてくれる。お風呂もトイレも私が逃げてしまわぬように召し使い同行で行かせてはくれるようだ。これじゃあ逃げる隙も無い。私はあきらめてボン王子と結婚する必要があるのだろうか。夜になり私はベッドに入った。夜も私が何か悪だくみをしないようにか、召し使いを配置しているらしい。今日はマリアだ。相変わらず手際のいい父親だ。これじゃあ逃げ出す隙すらない。潔く負けを認めて就寝しようとしたが、マリアが言ってきた。
「お嬢様、あなたは本当にこれでいいんですか。このままじゃボン王子と結婚になります」
いいんですかと言われても逃げ出しようがないじゃないか。マリアは続けて言う。
「このままじゃ、メアリーさんに思いは伝わらずに終わってしまいますよ」
「なんで。メアリーのことをアンタが知っているの」
そういうとマリアは笑って言った。
「女の勘ですかね。昨日お嬢様とすれ違った時、なんとなく想い人に会いに行く時の顔をしていましたから」
マリアにはばれていたのか。それを分かっていて私が抜け出すのを見逃してくれてたというわけなのね。私は小さい声で言う。
「でも、そんなことを言われてもどうすればいいの。私が一度抜け出して街の見張りも増やされたみたいだし、何よりこの監禁からは逃げ出せないよ」
すると、マリアは起き上がって私を見ると言った。
「その事なら私に考えがあります。お嬢様。結婚式の前日は私がお風呂の付き添いの担当です。ですのでそこで服を取り換えて私がお嬢様に化けます。お嬢様は私の服を着てフードを被って私に化けて下さい。長くは持たないとは思いますが、お嬢様が逃げ出すくらいまでは騙せると思います」
「でも、そんなことをしたらマリアが。なぜアンタがそこまでするの」
私が聞くと、マリアは笑って言った。
「言いましたでしょ。私はいつでもお嬢様の味方だって」
「マリア……」
私はマリアのことを勘違いしていたようだ。私は彼女のことをお父様が雇ったただの命令に従う召し使いだと思っていた。しかし、彼女は違う。彼女はずっと私のそばで私を見守ってくれたじゃないか。それなのに私はそんなマリアをずっと敵だと勘違いして。
「ゴメン。マリア。そしてありがとう」
私がお礼を言うとマリアは笑って礼には及びませんよというのだった。
作戦決行。そして時は結婚式の前夜となった。お風呂の時間になって出てくると、明日の結婚式の準備に追われて城の中はいつもに増してバタバタとしていた。お風呂を上がると作戦を再確認した。私が入浴をして上がった後、私とマリアは服を入れ替えて、マリアが部屋に戻る。その間に城を駆け抜けて私が城の外に逃げ出す。みんな準備に追われて召し使い一人が多少不審な行動をしていようが気にしないだろうし、次の召し使いが来る時間になるまで気づかれないというわけだ。
「急いで森を抜けて隣町まで言って追手が来れないところまで逃げてください。これは船のチケットです。そこまで逃げてしまえば追手も追っかけてくることは不可能だと思いますから」
しかし、私には一つ不安があった。
「でも、私にうまくメアリーを説得できるかどうか」
「お嬢様ならやれます。私はそう信じてます。頑張ってください」
そして、マリアはあるものを取り出して言った。
「これ。どうしても困ったときは飲んでください。お嬢様には極秘でしたが、あの城で作られていた一次的に覚醒があり、運動能力が飛躍的にあがるポーションです」
それを私に渡すとマリアはさらに言う。
「メアリーさんと幸せになりたいんですよね。この前の晩、泣くほど悔しがっていたんですから。絶対幸せになってください。これが最後の」
マリアはそういうと髪留めを使い髪の毛をとめた。
「私がお世話をするのもきっとこれが最後ですね……」
寂しそうにそう呟くマリア。そしてマリアが着替えると言う。
「さあ、お嬢様行くのです。メアリーのもとへ」
「さようならお嬢様。*****でしたよ」
後ろでボソッと何かを呟いた声が聞こえた。
私は急いで城を出て森へと出た。森を抜けると隣村が見えてくる。しかし、森の途中で疲れて休憩しようと倒れている木に腰を掛けた。そこを見渡すと地面に赤い血らしきものがついているのが見えた。そういえば、昔にここで狼と猟銃が戦ったって話をしていたな。まあ、本当かどうかは知らないが。しばらくそんなことを考えて休んでいるとまた出発しようと腰を上げた。しかし、馬の走る音らしき物が聞こえてきた。しかし、追手ではないと分かっていたので慌てなかった。なぜかというと、馬の音は逃げてきた方向の逆から聞こえてきたし、気づかれる次の交代時間までもまだ余裕があるからである。
「おや、そこにいるのはアカユリ姫ではないですか。そこで何をしているんです?」
現れたのはボン王子だった。まさかこんな夜からこっちに来るとは、タイミング悪く鉢合わせてしまった。しかしまだ絶望的ではない。適当にごまかしてその場を乗り切ろうとする。
「少し明日に迫っている結婚式のことを考えていたら眠れなくて散歩を」
「アハハ、そうですか。でもそろそろ帰りましょう。ご両親のかたが心配しますよ。ほら、この馬に乗ってくださいよ」
と笑った。このまま帰ったら計画が水の泡になる。帰るわけにはいかない。彼は心配そうにこちらを見ていた。彼ならきっと分かってくれるはず。いままでとても優しかったし、乗り気じゃないなら結婚する必要もないと言ってくれた。私は覚悟を決めて思い切って頭を下げて本音を打ち明けることにした。
「ごめんなさい。やっぱり私はあの子が好きです。申し訳ないですが結婚できないです」
分かってくれたかと思い頭を上げる。しかし、彼は見たことのない形相をして言った。
「やっぱりそうだったか。まあ、うすうす予想はしていたけど」
そして、続けて言った。
「あーあ。本当は結婚して落ち着くまで演技しようと思ったけど、そのつもりなら仕方がないか。こっちも演技をやめるわ」
そういってこれまで見たことのない冷たい目でこちらを見ていた。
「いいから、俺について戻れ。今おとなしく戻れば命は助けてやる。言うことを聞かないなら今ここでお前を殺す」
そうか、こっちがボン王子の本性か。今までの優しいボン王子が演技で私も。
「残念ね。私も一応自衛のために刀の稽古は受けているのよ。そのもやしみたいな体で私を倒せると思っているの」
「調子に乗るな女風情が。男である俺に勝てると思うな」
そういい飛び掛かってきた。
私はそれをかわす。すると大振りだった彼はバランスを崩して大きくよろめいた。私はその隙にポーションを飲んで逃げ出した。運動神経の上昇のおかげか体が軽い。彼も慌てて馬で追いかけて来るが、走ってる私になかなか追いつけないでいる。
「くそ、なんで馬で追いつけない。待て!」
彼は怒鳴って私のことを追いかけてくる。逃げていたが逃げているうちに崖に追い詰められてしまった。彼はにやにやと笑いこちらに近づいてきて言う。
「もう逃げられないぜ。おとなしくこっちにきやがれ」
「あなた。この前本人の尊重だって言っていたじゃないの。私が結婚したくなくても結婚させるつもりなの」
「あんなの嘘っぱちに決まってるじゃねえか、お前には無理やりでも結婚させるぜ」
「本当に最低ね。絶対私はそんなやつとは結婚しないから」
と言って睨みつけた。しかし、彼は
「ここからどうやって逃げようというんだ」
と笑みを浮かべる。じりじりと追い詰められていく。
しかし、こちらまであと三歩というところで突然乗っていたボン王子の馬は暴れだし、そして悲鳴とともにボン王子は落ちていった。一体何があったのだろう。しかし、そんなことを考えている暇はない。今は急いで村に行かないといかない。そろそろ気づかれているころ合いだろう。
「……」
ポーションの副作用のせいだろうか。頭痛がひどくなってきた。それでも走る足は止めなかった。急いで私は隣町へと走っていった。隣町へと着き、暗い店の並んでいるところを抜けると、メアリーの家へたどり着く。乱暴にノックもしないで扉を開くとメアリーとそのお母さんが驚いた表情でこちらを見ていた。
「メアリー向かいに来たよ」
私が言うとメアリーは驚いた表情をする。
「な、なんで来たんですか。明日は結婚式じゃ」
「メアリーに会いたくなってきた。私はやっぱり」
『**リー待って。お願い、いかないで。私はあなたのことが……』
「貴方のことが……」
遠い記憶が頭の痛みとともによみがえっていく。やっぱり約束の人って。
「貴方のことが好き!! 小さいころ忘れていた記憶。なくしていた記憶ってあなたのことなんだよね」
すると、目を見開き驚いてみせたが彼女は悲しそうな顔になると言った。
「でも、あなたと私じゃ性別も同じで地位も違う。あなたと私じゃ」
次の言葉を遮って私は言った。
「そんなことは関係ない」
「私はあなたが好き。愛に地位とか階級とか性別なんて関係ない。昔約束したじゃない。私のことを迎えに来るって。幸せにするって。迎えに来る立場逆になっちゃったけど」
前に覚えた違和感。私が自己紹介していないのにお姫さまってわかってた理由。ここが懐かしいと感じていた理由。それは昔メアリーの家に住んでいたから。そうだ。全部思い出した。私は小さいころ親が事故で亡くなってメアリーの家に引き取られて一緒に過ごしてた。しかし、ある日気に入った隣町の王様が私のことを気に入り養子に欲しいと言い出したのだ。そちらの方がきっと幸せだと思ったメアリーの両親は私のことを養子に出すがいつまでも離れるのを渋る私に引きっとった親は記憶を改ざんする薬を飲ませた。だから、あちらこちらでつぎはぎの記憶があったというわけか。
「思い出してしまったんだね。アカユリ。でももう遅いでしょ。あなた……いや、君はボン王子と結婚するんだ。僕じゃなくて」
「その結婚なら破断してきたよ。断ってきた」
でも、と抵抗を続けるメアリーに後ろで黙って見ていたメアリーのお母さんが言ってくる。
「メアリー。もう、いいでしょう。あなただってそれを望んでいたじゃないの。だって、アカユリちゃんを追い返したあの日あなたは泣いていたじゃない」
メアリーが泣いていた?
「本当はアンタもアカユリちゃんのことが好きなのよね。だったらアカユリちゃんを追い返すたびにそんなつらそうな表情をするの」
「それは……」
必死に何かを言おうとしているが口ごもった。私も言う。
「ねえ、メアリー。正直な思いを教えて。私はさっき言った通りあなたが好き。あなたはどうなの? 遠慮なんていらない。偽りは求めていない。もし本気で嫌なら私は諦めて帰るよ」
私がそういうと、彼女はしばらくうつむいていたが、何かを決意したように顔をあげて言った。
「私も、いや、僕も君が好き。昔から君が好きでした。ずっと自分の気持ちに嘘をついていたけど、やっぱり君じゃないと嫌だ。だから、私をどうか連れ出して」
と言った。メアリーの母親は呆れて言う。
「やれやれ、素直じゃないんだから。やっと本音を言ってくれたわね。じゃあ、あとはお母さんに任せて行きなさい」
「でも、お母さん一人じゃあの人は」
メアリーは言うがお母さんは言った。
「大丈夫だから行きなさい。私の幸せは娘が幸せになることなの。だからもういいの」
「お母さん」
メアリーはそういう振り返って私に言う。
「いこう。アカユリ」
言われた私はアカユリと手をつないで歩き出した。頭痛もすっかりなくなっていた。走ってる途中私は聞く。
「ねえ、メアリーのお父さんってもともとあんなんだったけ」
「いや、違う。ああなったのはアカユリが引き取られた後。多分お父さんもお父さんなりに思うことあったんだろうね」
村を出るとき振り返って言った。
「さよなら、私たちの生まれ育った故郷」
また走り出す。これからいろいろな困難が待ち受けるだろうが超えられる。
きっと二人なら
Fin
後ほどアナザーも上げます