表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとつ屋根の下 ~It`s happening life~  作者: 建野海
晃一の章
39/40

打ち上げ花火と告白の答え

晃一が悠と久方ぶりの再会を果たしてから数日。陽菜と約束を交わした夏祭りの日がやってきた。

 元々二人で出かけると約束をしていたのだが、特に予定がなかった千沙都が『暇だから一緒にいってもいい?』と口にした時の陽菜の嫌がる顔と説得は今思い出しても苦笑してしまう光景だった。

 眉根を寄せて、『絶対に、絶対に今日だけは駄目です!』と力説する陽菜に押し負けてトボトボと部屋に戻って引き下がった千沙都の姿は思い出しても笑えてしまう。

 結局、人ごみの中にわざわざ行くのが嫌だからと千沙都は家で留守番することになり、美咲はバイト先である喫茶店に向かう予定になっていた。

 陽菜と一緒に家を出るつもりでいた晃一であったが、彼女からの強い要望で一足先に祭りの会場の入り口に向かうことになっていた。

 彼女曰く、『待ち合わせから、デートなんです!』とのことであり、その言葉を聞いた晃一はもっともだと同意した。

 デート。そう、デートである。まだ告白の返事をしていない晃一であるが心は既に陽菜に惹かれており、どうせ告白をするのならば雰囲気のいいこの夏祭りで彼女に答えを返そうと決めていた。

 そうして春日家を出てから約一時間。スマホをいじって待っていた彼の元に待ち人は訪れた。


「あの……お待たせしました。お兄さん」


 少し待つのにも飽きはじめていたところだったと晃一が視線をスマホから声のする方へ向けるとそこには幼いながらも精一杯着飾った浴衣姿の陽菜がいた。

 中学生に上がったばかりで、まだまだ成長途中ではあるものの今の彼女は年相応に着飾った姿や、浴衣の覆わないうなじから漂う色気、まだあどけなさの抜けない無垢な少女の精一杯の頑張りが伝わるのか、行きかう同年代の少年たちの人目を自然と引くほど可愛らしかった。

 惚れた弱みもあるのだろうが、晃一から見る彼女はいつも彼女から受けるアピールなど目じゃないほど心臓が高鳴るのを感じた。


「えっと、やっぱり変ですか? その、私まだまだ子供ですし、お兄さんと同じ年の人より全然可愛くないとは思いますけど、精一杯頑張りました」


 何も言わない晃一に不安を感じたのか、陽菜は卑下しながらチラチラと晃一の反応を窺っていた。そんな彼女の反応も晃一には愛おしく感じられ、彼女の不安を解消するような言葉をかける。


「そんなことないよ。陽菜があんまり可愛いもんだから、こんな子と今日一緒に過ごせるんだって嬉しく思ってたところだ」


「もう……お兄さんは。そう言ってまた私ばっかりドキドキさせて」


「本当だって。はぁ、陽菜は俺の言うこと信じてくれないんだな。残念」


「嘘です嘘です! 冗談だなんて思ってないです! でもお兄さんからそう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、その……恥ずかしくって」


 顔を赤くして恥ずかしそうに俯く陽菜。そんな二人のやり取りを祭りを訪れていた他のカップルや夫婦たちが微笑ましそうに横目で流し見る。

 さすがにいつまでもこんな場所でこんなやり取りを続けるわけにもいかないかと思った晃一は陽菜に手を差し伸べる。


「それじゃあ、今日はよろしく陽菜。誘った手前、精一杯楽しんでもらえるように頑張るよ」


 差し伸ばされた晃一の手を陽菜は何度か見た後、オズオズと遠慮がちに小さなその手をそっと重ね、


「その……よろしくお願いします」


 そう言って力強く晃一の手を握り締めるのであった。

 地元の祭りといっても、この街の川辺で毎年打ちあがる花火の数は全国でも有数なほど多く、わざわざ県外から訪れる人もいるほど盛況な祭りであった。

 既に空にはいくつもの打ち上げ花火が上がっており、人々の喧騒をかき消すようにドン、ドンと大きな音が周りに響き渡る。

 大勢の人込みで溢れる祭り会場。色とりどりの出店の数々。行きかう家族連れ、カップル、友人たちの間を縫うように二人は歩いていた。

 はぐれないよう硬く繋がれた二人の手。繋いだ掌からは夏の暑さにも負けないくらい熱い相手の体温が感じられ、ともすれば心の高鳴りすらも伝わっているのではと感じるほどであった。

 行きかう中で見たいくつかの出店で焼きそばとラムネ、チョコバナナといった食べ物や飲み物を晃一は購入した。

 陽菜もお金を出そうとしたが、晃一は今日は自分がお金を出すと決めていたため、持ってきた巾着から財布を取り出そうとした彼女を止め、二人分の食べ物を晃一はお金を手渡して店員から受け取った。

 ラムネを買った際、「彼女、かわいいね」とヤンチャそうな店員の一人から声をかけられ、その言葉に恥ずかしそうにしながらも陽菜は否定しようとした。

 だが、陽菜が答えを返す前に晃一は店員に対し、


「はい、俺もそう思います」


 と迷うことなく答えたのだった。店員は「見せ付けてくれるねえ。ほら、これはおまけだ。他の奴らには内緒だぞ。といって二人分のお茶をこっそりと手渡してくれた。

 晃一はそれを受け取ると「あ、あの今のって……」と尋ねようとする陽菜に小さく微笑み、


「それについては後でね。陽菜、そろそろ歩きつかれたろ。どこか休めるところでご飯食べて一休みしようか」


 陽菜の手を引いて少しだけ早足で人込みから抜けて人気の少ない場所へ歩き始めた。

 夏祭りということで臨時に設置されたパイプ椅子。ちょうど、晃一たちと同じように休憩していたカップルが再び喧騒の中へ戻るためにその椅子から席を立ち離れた。

 二人はすぐさまその椅子に座り、先ほど買った焼きそばを晃一が袋から取り出し陽菜に手渡す。だが、陽菜は先ほどの言葉が気になるのか、さっそく焼きそばを食べ始めた晃一をジッと見つめていた。


(う~ん、本当はもっとかっこよく告白したかったんだけどな)


 晃一も男である。ドラマのような雰囲気のある告白を陽菜にしたいと思っていたのだが、どうも状況はそう上手くはいかないらしい。

 ギュッと受け取った焼きそばのパックを膝の上で握り締め、晃一を見つめる陽菜に、晃一は食べかけの焼きそばのパックを袋の中に再び仕舞う。

 先ほど店員からおまけで受け取ったお茶で口の中に残った焼きそばと緊張を胃の中に流し込む。そして、決意と共に長らく待たせた陽菜からの告白の答えを返すことにした。


「陽菜、あのさ」


「は、はい!」


 晃一から告白の答えが返ってくるのを雰囲気から察したのであろう。見ていてかわいそうになるくらいガチガチに緊張した陽菜の姿を見て晃一は苦笑する。

 そんな彼女の緊張を解いてあげるために晃一は優しい手つきで彼女の頭を撫でた。


「そんな緊張しなくても大丈夫だって。でも当然か。ごめん、ずっと告白の答えを返せなくて。

 陽菜とは家族になる前から知り合ってたけれど、母さんと礼次郎さんが再婚して急に家族になって……。新しい家族になった相手から告白されて正直最初はすごい悩んだよ。

 でも、色々考えて……たとえ家族であっても俺は陽菜が好きなんだって気がついた。

 陽菜、俺は君のことが好きだ。だから、こんな俺でよかったら付き合ってもらえないか?」


 晃一に求めていた陽菜から伝えていた告白の返事。その答えが自らが求めていたものであったことに陽菜は一瞬の間を置いて気がついた。

 嬉しさと、もしかしたら求めていた答えがもらえないのではという不安から解消された彼女は顔をくしゃくしゃにして、己の内から湧き出る様々な感情が入り乱れ、知らず涙を流していた。


「ご、ごめんなさい。こんな、あの、見ないでください」


 情けない己の姿を見られるのが恥ずかしいのか、陽菜は浴衣の袖で顔を隠してゴシゴシと流れる涙を拭った。そんな彼女の姿も晃一にはまた愛おしく感じられた。

 先ほどと同じように彼女の頭を何度も、何度も優しく撫でて陽菜の心が落ち着くまで晃一は待った。そうしてしばらくの間二人は打ちあがる花火の音を聞きながらその場に留まった。

 ようやく陽菜の様子が落ちつき、袖に隠した顔を上げた彼女の表情はとても晴れやかなものであった。


「その……さっきの言葉本当ですか? 本当に、本当ですか? 私、まだ信じられなくて」


「本当だよ。俺は陽菜が好きだし、陽菜が迷惑じゃなければ恋人にしてもらいたいと思ってるよ」


「迷惑だなんて! そ、そっかぁ……夢じゃないんだ」


「あのなぁ、陽菜。俺だって、こう見えても結構勇気振り絞って伝えたんだから。夢だなんて言われるとちょっと傷つくぞ」


「あ! いえ! その、変な意味じゃなくって……」


 晃一の言葉にわたわたと慌てた様子を見せる陽菜。そんな彼女に苦笑する。


「冗談だよ。まあ、それだけ喜んでもらえたのなら俺も勇気出して想いを伝えた甲斐があったよ」


 そう言われてようやく陽菜は晃一からからかわれたということに気がつき、


「もう! お兄さん! いじわるです!」


 と、口調は怒りながらも嬉しそうに笑みを浮かべてポカポカと晃一を何度も叩くのであった。

 そうして晃一は先ほどの食べかけの焼きそばを再び袋から取り出し、陽菜もパックの封を開けて焼きそばを食べ始めた。

 しばらくして食事を終えた二人はしばらくその場で休憩した後、再び祭りの会場を共に周った。告白の返事をもらえた陽菜は終始笑顔で、晃一もまた満面の笑みを彼女に向ける。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、祭りが終わる少し前に帰宅する人々の群れに巻き込まれないように二人は帰り道を歩いた。

 自宅まで後僅かといった距離まで近づいたところで、忘れ物を思い出したように「あっ!」と晃一が声を上げた。


「どうかしましたか、お兄さん?」


 そんな晃一の様子を見た陽菜が声をかける。


「ああ、ちょっとね」


 そう口にし、晃一は屈みこみ陽菜に視線を合わせる。そしてそのまま顔を近づけて彼女にキスをした。

 唇と唇が触れるささやかなキス。時間にして一秒にも満たない行為であったが、たったそれだけのことで晃一の顔は真っ赤に染まった。


「忘れ物。家に帰ったらできないから」


「……はい」


 晃一に負けず劣らず顔を真っ赤にした陽菜は先へ進もうとする晃一から手を離して晃一の服の裾を引く。


「陽菜?」


「お兄さん……その、もう一度屈んでもらえないですか?」


 今から陽菜がしようとしている事を察した晃一は先ほどよりも更に顔を赤くして照れくさそうに視線を逸らした。だが、身体は正直なもので陽菜の言葉通り膝を折り、再び陽菜に視線を合わせる。

 先ほど同じく、けれども長い時間触れ合う互いの唇。陽菜は晃一の首に手を回して、晃一も必死に己に唇を押し付ける彼女をギュッと抱きしめた。

 これ以上は歯止めが利かないと思うくらい互いを求める心が強くなり、どうにか残った理性を総動員して晃一は陽菜を引き剥がした。

 晃一から引き離された陽菜はどこか名残惜しそうに先ほどまで晃一と繋がっていた己の唇に指を当てて、まだ足りないといった瞳を晃一に向ける。

 求められれば断れない。でも、次は自分からして欲しいという判断を晃一に委ねた陽菜の甘く、小悪魔な誘惑。心の中ではそれに乗ってしまいたいと思った晃一であったが、これ以上はまだ自分にも陽菜にも早いと苦渋の決断を下して、陽菜の誘惑を振り切った。


「こら……。だめだって、もう帰るぞ」


「……はい」


 心の底から残念そうにしている陽菜に、晃一は仕方ないなと彼女の耳元に顔を寄せて小声で囁く。


「今度は、次のデートでな」


 晃一のその言葉を聞いた陽菜は現金なもので、ションボリとした先ほどの態度がまるで演技だったかのように満面の笑みを浮かべ、


「えへへっ。お兄さん! 大好きです!」


 と口にした。再び繋がれる手と手。祭りの会場で合流した時に繋いだ時とは変わった関係性。だが、それは今の晃一にとってとても心地よいものだった。

 そうして二人は仲良く手を繋いだまま自宅に辿り着く。


――夏が終わる。眩く、様々な出来事を起こした夏が。

 変わらない関係と、変わる関係。これから先、自分には一体どんな日々が待っているのだろうかと晃一はわくわくする気持ちを抑えられなかった。

 きっと、隣にいる少女と共に過ごす日々は楽しいものになるはずだ。そんな未来を予感しながら晃一は陽菜と共に玄関の扉を開いた。


「「ただいま!」」


 笑顔で祭りから帰ってきた二人を留守番していた千沙都。バイトから帰ってきた美咲。二人で出かけていた亮子と礼次郎は明るく出迎えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ