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ひとつ屋根の下 ~It`s happening life~  作者: 建野海
晃一の章
38/40

彼女が〝彼〟になっても変わらない関係

悠から告げられたその言葉を初め晃一は冗談か何かと思っていた。だが、真面目の表情で自分を見つめる彼女の姿にその言葉が決して冗談で言っているのではないのだと気づく。


「……マジ?」


「おう、マジもマジ! さすがに驚いたか?」


「いや、驚いたっていうか。えっ? えっ?」


 あまりの衝撃に驚きのあまり二の句が告げない晃一。そんな彼の様子を見た悠が自分が告げた言葉の意味を説明し始める。


「まあ、なに言ってんだって思うわな。ん~とな、いつからそうだったかっていうのは思い出せないんだけど、オレが今言った言葉について自覚したのが小学校の高学年に上がったころだったかな?

 女子ってさ、よくアイドルとか芸能人をかっこいいとか付き合いたいとか言うだろ?」


「ああ、言われてみれば確かに。でも、それは男子も一緒だろ?」


 女子が男性アイドルや芸能人、俳優といった存在に心惹かれるように男子だっで同じように女性アイドルやグラビア、俳優に夢を見る。それ自体は別に珍しいことじゃない。


「そこだよ。クラスの女子は男性に対してかっこいいとか憧れるねとか言ってた。もちろんオレもそれには同感だったけど付き合いたいっていうのだけは全然共感できなかったんだよ。

 オレがそういったことを思ったのは決まって女性のアイドルや芸能人とかだったんだ。んで、ある時クラスで特に仲がよかった女子の栞っていただろ?」


「ああ、そういえば。お前が小学校の時に一番仲がよかった女子だよな」


「そう。その栞がさ、よりにもよってお前のことが好きだって言ったんだよ」


「え? ええっ!?」


 思いがけず告げられた自分に好意を向けてくれていた女子がいたという出来事を親友を通じて伝えられた晃一は今日何度目かになるかわからない驚きの声を上げた。


「正直オレは嫉妬したね。な~んでよりにもよってオレじゃなくてお前なんだって。オレの方が仲いいし、いっつも一緒にいるのにって」


「それは……」


 悠の言葉にかつて自分が同じ想いを抱いたことがあった晃一はドキリとする。もしかして目の前の親友は自分が抱いている想いについても気がついているのではないのかと。


「でも考えてみれば当たり前なんだよな。オレは〝女〟で普通に考えれば女が好きになる相手は異性である〝男〟なんだって。

 そのことに気がついたら、自分は普通じゃないってことも自覚してさ。オレは〝女〟だけど、好きになるのは決まって〝女〟なんだって」


「そう、だったのか」


「ま、気づいたからってなにかがあったってわけじゃないけどさ。でも、普通じゃないだろ? 

 誰かに言って共感も得られるわけじゃないし、オレもわざわざ話して気味悪がられたくなかったしな。

 あっ! 言っておくけど栞は日直の時お前が手伝いをしてくれて好きになったかもっていってただけで、すぐに他の奴のことが好きになってたからな!」


「お、おう……そうか」


「そういった経緯もあって気づけたんだ。オレは女だけど、男を好きになれない普通じゃない女なんだって。

 言っとくけど、これは親友のお前だから教えるんだぞ? 他の奴にはどんだけ仲がよくったって言えねえよ」


 親友と悠の口から再びその言葉を聞いて晃一は心の底から嬉しかった。だが、同時に彼女から告げられた真実が彼を苦しめた。

 自分は、彼女に……いや、目の前の〝彼〟にとっては恋愛対象にならないのだと。異性の身体を持っていても彼は晃一たち男子と同じ女性を好きになる心を持っているのだと。

 告白をすることなく振られてしまった晃一であったが、その葛藤は短かった。恋人になれないのが何だというのだろう。目の前の彼は親友として心の内に閉まっていた重大な秘密を自分に曝け出してくれたのだ。

 それは、自分が彼から信頼してもらっているという証であり、彼の傍にいられるのは恋人であろうが親友であろうと変わらないのだ。

 なら、自分がすべきことは……そう思った晃一は悠に対して抱いた淡い初恋を心の底に沈めることを決意した。


「そっか……。ありがとうな、そんな秘密をわざわざ俺に話してくれて。〝親友〟として俺も嬉しいよ」


「おう! お前だから話したんだからな! 絶対に誰にも言うんじゃねえぞ?」


「ああ、わかってるよ。絶対、絶対に話さない」


「んじゃ、そろそろ帰るか。どうせ学校から連絡いってるだろうし、親父から色々と話を聞かされそうだと思うとめんどくせー」


「しょうがないだろ。お父さん、絶対に心配してるぞ」


「わかってるって」


 二人はベンチから立ち上がり、公園を後にした。

 結局、後日改めてHRでこの日の出来事の説明がされ、悠に対するいじめは止んだ。その後、仲直りした晃一と悠はそれまで以上に仲良く中学生活を過ごし、高校からはそれぞれ別の学校に通うことになったのだった。


「お~い、晃一、晃一!」


 大きな声で耳元で自分の名を呼ばれた晃一はハッとした。


「な~にボーっとしてんだよ。考え事か?」


 かつての回想から今に引き戻された晃一。目の前には姿こそ多少変わったものの、変わらない関係性の〝親友〟の姿があった。


「いや、ちょっと昔のことを思い出してたんだよ」


「ふ~ん。まあ、いいけど。んで、一通り話は聞かせてもらったけどお前この後どうせ暇だろ? 久々にカラオケでも行かねえか?」


「いいな。よし! 今日はとことん歌うか!」


「おう!」


 いつかのように二人はベンチを立ち上がる。


「晃一!」


「ん?」


 立ち上がってすぐ、名前を呼ばれて悠を見ると彼は晃一に向かって拳を突き出していた。そんな男らしいところも変わらないと思いながら晃一もまた彼の拳に自分の拳を突き合わせる。


「これからもよろしくな、〝親友〟」


「ああ、こちらこそ」


 そうして二人は隣同士並んで歩き出す。傍から見たら恋人同士にも見える彼らの姿は、二人だけが分かり合っている変わることのない〝親友〟という関係性がこれから先も続いてく事を予感させていた。

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