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ひとつ屋根の下 ~It`s happening life~  作者: 建野海
晃一の章
37/40

親友の隠された真実

久方ぶりの二人の帰り道は喧嘩別れをしたあの日よりも重苦しい雰囲気が漂っていた。悠は晃一の半歩後ろを沈黙を続けたまま歩き、晃一もまた彼女に対してなんて言葉をかけていいいのかわからず、二人は帰り道を歩き続けた。

 そうして歩くことしばらく。互いの自宅も近づいてきて、このまま何も話をせぬまま分かれてしまうのかと晃一が考えていた時、ふと視線の先にいつもの公園が目に入った。

 悠と出会い、共に多くの時間を過ごした公園。それを視界に納めた時、晃一の口は自然と動いていた。


「なあ、悠。久しぶりに寄っていかないか?」


 悠は言葉を返す代わりにコクリと頷いた。久しぶりに訪れた公園にはまだ設置されたばかりの真新しいベンチが備え付けられており、悠はそこに座った。

 寒いなと思った晃一は公園のすぐ近くに設置されている自販機に向かい、ホットのレモンティーを二つ購入し、一つをベンチで小さくなっている悠に手渡した。


「ほら、寒いだろ」


「……サンキュ」


 蓋を空け、コクコクとレモンティーを飲む悠。その姿は小動物のようにかわいらしかったが、いつかの時のように燃え上がるような思いは今の晃一の内からは湧いてこなかった。

 その代わりに目の前にいる親友のことが心配だという気持ちが次から次へと溢れてくる。


「なあ、悠」


 一体彼女に何があったのか。それを聞く前に晃一にはどうしてもつけなければいけないケジメがあった。


「なんだ、晃一?」


「……ごめん! 俺が馬鹿だった」


 それはずっと伝えそびれていた謝罪を悠に対してしなければならないということだった。突然頭を下げて謝罪する晃一に悠は戸惑い、オロオロとする。


「ど、どうしたんだよ急に……」


「急なんかじゃない。ずっと、ずっと謝らないとって思ってた。でも、中々二人になる機会がなくて……。いや、これは言い訳だ。

 俺、本当はお前に謝りたかったんだ。でも、お前がもう俺のことなんて友達じゃないって思ってたらどうしようって……。

 そう言われるのが怖くってずっとお前に酷いことを言ったのを謝れなかった。

 だから……ごめん!」


 晃一の謝罪の言葉を聞いた悠はしばらくポカンと呆けた表情を見せていた。だが、しばらくしてクツクツとそれまでの暗い表情が嘘のように笑みを浮かべ、


「馬鹿だなぁ、晃一は。ホント……馬鹿。

 ……オレの方こそ悪かった。オレも実はお前と仲直りしたかったんだ。晃一が俺に謝ろうとしてくれてたの、本当は気がついてた。

 でも、オレ馬鹿だから。お前があんな風にオレに言ったの初めてだったから、ムキになって〝もう絶対に許してやらねえ〟って意固地になってたんだ。

 だから……オレの方こそごめん」


 そう口にして頭を下げた。互いに頭を下げて謝り合う光景。しばらくそうして下を向いていた二人であったが、やがてどちらともなく顔を上げ、いつかのように笑いあった。


「あっはっは、ったく。オレたちホント馬鹿だよな。お互いに考えてること一緒だったのに、仲直りするのにこんなに時間がかかるなんてな」


「……そうかもな。似たもの同士ってことかもな」


「かもな。あ~あ、なんか晃一の馬鹿真面目なとこ久しぶりにみたら今日あったことなんてどうでもよくなっちまったな。

 ま、やっちまったことは後悔してねえけど。いい加減我慢の限界だったし」


 屈託ない笑顔を浮かべ、そう口にする悠に晃一はずっと聞こうと思っていた今日の出来事を尋ねた。


「なあ、悠。その……」


「ん? ああ……なるほど。なんでオレがあんなことしたか聞きたいんだよな? いいぜ、話してやるよ。でも、聞いてて気持ちがいいもんじゃねえぞ」


 そう言って悠は今日の出来事に繋がることになるクラスの女子から受けていたいじめについて語り始めた。

 切っ掛けは本当に些細なことからだった。晃一と口喧嘩をした悠は元々男子たちと仲がよかったが、以前にもましてクラスの男子たちと休憩時間などに話をするようになった。

 元々社交的で明るく、距離感の近い悠のことを好ましいと思っても嫌う男子はおらず、また思春期ということもあり、いつかの晃一と同じように悠に対して異性としての好意を抱く男子も少なくなかった。

 だが、男子から好ましいと思われる彼女の行動も一部の女子からは好意的には捉われなかった。元々女子、男子問わず分け隔てなく接するその性格を八方美人と穿った見方をしていた一部の女子は、晃一との一件があって以降、より男子との距離を縮めている彼女に対してこんな感想を抱いたのだ。


『ちょっと、さ。最近山辺の奴調子に乗ってない?』


『わかる。人気取りのつもりか知らないけど男子に媚売っちゃってさ~』


『むかつくよね。大体髪の毛も地毛だって言ってるけどどうせ染めてるんじゃない?』


『そうそう! あたしたちが染めるのは駄目って言われてるのになんであの子はいいのかな?』


『ねえ……ちょっとさ、身の程を弁えさせてあげない?』


 そんなやり取りがあったということを悠が知っているのは、親切なクラスの女子生徒から悠が一部の女子の間でそのように言われていると教えてもらったからだ。

 初めは気にするだけ時間の無駄だと相手にもしていなかった悠だったが、そんな彼女の態度が癪に触ったのか、火に油を注ぐように彼女に抱いていた悪感情は一気に燃え上がり、いじめは始まった。

 最初は自分の荷物の一部が隠されるようになった。筆箱やノート。そういったものが机の中から消え、教室のどこかに隠されるようになった。

 うっとうしいことをするなと悠は思っていたが、隠された荷物を見つけると何事もなかったかのように過ごしていた。

 次に靴に画鋲が仕込まれた。ドラマの世界かよと思いながら、これもまた悠は無視を決め込んだ。

 次第にクラスの人間関係に影響が起こった。女子と男子で別になる授業でグループを組む際、悠だけ阻害されるようになった。仲のよかった子達も申し訳なさそうにしながら、何かに怯えるように悠から視線を逸らした。

 この辺りから悠は苛立ち始めた。だが、自分のせいで仲がよかった他の子たちが被害を受けてはいけないと思い、我慢をした。

 そうした日々が続き、女子と距離を置いて気の休まるクラスの男子たちと更に話をするようになったのだが、そうした悠の行動はいじめを行っている女子生徒たちから見れば逆効果であった。

 そうして体育の授業。特に、球技を扱っている種目を行っている際、悠に対して教師の目を盗みワザとボールをぶつけたり、足を踏みつけたり、ぶつかって転ばせたりといった行動が度々続くようになった。

 そして、いい加減に我慢するにも限界が近づいていた悠は


『なあ、あんただろ。いい加減にむかつくんだけど。やめろよ』


 今日の体育の授業が終わり、教室に着くといじめの主犯格にそう告げた。だが、当の本人は悠が何をいっているのかわからないと素知らぬ態度を決め込んだ。

 そこが我慢の限界だった。


「あとは、晃一も知っての通りだ。オレ、我慢できなくなって手上げちまった」


 黙って悠の話を聞いていた晃一は、馬鹿だろ? といった口調で話す悠に対して何も言えなかった。自分が距離を置いていた間に悠にそんなことがあったなんて。

 話を聞いて初めて知った数々の出来事に後悔が心に影を落とす。そんな晃一の姿を見た悠は、


「おいおい、お前がそんな顔してどうすんだよ。別にお前は悪くないだろ」


「でも……俺がお前と喧嘩していなかったら」


「んなこといってもしょうがねえし、大体あれがなくったってあいつらは同じことしたに決まってる。

 結局、あいつらはオレをいじめるための理由が欲しかっただけなんだから。その時期が早かったか遅かったかってだけだって。

 それに、どうせもう事態は明るみになるんだ。あいつのこと殴ったオレも悪いけど、それ以上のことをあいつらはオレにしてきたんだ。

 さっき職員室で鬼熊に話を聞かれたんだよ。あいつ、部活の時のシゴキが嘘のように真面目に話し聞いてくれてさ……。オレが受けてきたいじめを話したら『よくがんばったな。後は俺がどうにかしてやる』って言ってくれてさ。

 柄じゃねえのはわかってるんだけど、なんか安心しちまって気がついたら馬鹿みたいに泣いちまった」


 恥ずかしそうに頬を掻きながら話す悠の姿に晃一は益々申し訳なさでいっぱいになる。結局、自分は今回の出来事の最初から最後まで部外者であり、彼女の力に何一つなることができなかったのだ。

 かつて自分が苦しく、辛かった幼少期に彼女に救ってもらったこの公園にいるということも晃一に深い後悔をさせる一因でもあった。

 だが、そんな晃一に悠が放った次の一言が彼を驚かせる。


「でもさ、もっと嬉しかったのが職員室を出てすぐにお前がいてくれたってことなんだよ」


「……えっ?」


「考えても見ろよ? 普通事情を知らないであんな状況だけ見てたら、誰だって当事者のオレには近づきたいと思わないだろ?

 でも、お前は違った。喧嘩して、話もしないって言ってずっと避けてた俺のことを待っててくれた。

 それがさ、オレにはすげえ嬉しかったんだ。

 ああ、俺にも味方がいるんだって。何があったのかわからないのにオレのこと心配して待っててくれる奴がいるんだ。

 そう思ったらすごい嬉しくって、胸の中が温かくなってさ。それまであったいじめとかもうどうでもよくなっちまった。

 だから、晃一。恥ずかしいから一回しか言わないぞ? ありがとうな。今日、あの場所でオレのこと待っててくれて」


 思いもしなかったから悠からの感謝の言葉。それを聞いて晃一の胸は言い知れぬ感情でいっぱいになった。


(……敵わないな)


 絶対に調子に乗るから悠に対して言うことはないだろうが、この時晃一は改めて心の底から悠を尊敬したのだった。


「でも、これでクラスの女子の中からは完全に浮いちまうな~。はぁ、自分がやったことだししょうがねえけど」


「それは……。でも、大丈夫なんじゃないか? 熊川先生がどうにかしてくれるっていってくれたんだし、事態が明るみになればいじめもなくなるだろうし」


「かもな。でも、仲良かった奴らと前みたいに話ができないと思うとなぁ……」


 今まで見たことがなかった悠が人間関係を心配する姿がおかしくって、何の気なしに晃一は問いかけた。それが、自分にとって衝撃を生む彼女の隠された真実を告げられるとも知らずに。


「なんだよ、らしくないな。お前が人間関係を心配するなんて。お前の性格なら今まで見たいに仲良くなれるだろ?」


「いや、男子ならそうかもしれねーけどさ、オレにとって女子はそうも……ってそっか。言ったことなかったか。

 あのさ、晃一。お前にだけ教えるんだけどさ……」


 そう口にして悠が告げた言葉はいじめを受けていたという事実と同じくらい晃一を驚愕させた。


「オレ、女が好きなんだよ」

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