掛け替えない親友
晃一が〝親友〟と再会の約束をした予定の時刻から早十五分。彼は今とある公園のベンチに座って約束相手が来るのを待っていた。
(ったく、相変わらず時間にルーズだな。まあ、変わってないようで安心するとも言えるんだけど)
〝親友〟の変わらない遅刻癖に心の中で悪態をつきながらも、半年程度の月日では何一つ彼と自分の関係が何も変わっていないのだということを再認識してどこか嬉しくも思う晃一。
遅刻といっても、いつも待つのは三十分未満なのだ。手持ち無沙汰ではあるが、ちょっとボーっとしてればすぐに自分の元に来るだろうと思った晃一は暇つぶしのためにポケットに閉まってあるスマホに伸ばしかけた手を引っ込めて周りの光景を眺めていた。
公園の中ではまだ幼い少年少女が遊んでいた。ブランコを漕いだり、追いかけっこをしたり、皆笑顔を浮かべて楽しそうに過ごしている。
(そういえば、最初にあいつに会ったのもここだっけ)
今となっては二人の待ち合わせ場所として定着した公園。思い返せば初めて〝親友〟と出会ってからもう十年の月日が経つ。
十年前とは公園内の光景もかなり様変わりしている。昔はあった遊具がなくなったり、塗装の剥げてささくれ立った遊具には安全面の対策から真新しいペンキが塗られている。
今座っているベンチもここ二、三年で新しく設置されたものだった。
(十年……か。色々あったなぁ)
久しぶりに懐かしい場所に来たからか、それともこの半年の日々がそれまでの過去を少しの間とはいえ忘れさせてしまうほど刺激に満ちた日々だったからか、晃一は珍しく感傷に耽っていた。
「悪い、悪い。待たせたな」
過去の出来事を思い返そうとした時、晃一に元に小走りで近づいてくる一つの人影があった。
「ったく、遅い……って、また思い切ったなぁ」
いつものように他愛ない文句の一言でも口にした後、久しぶりに会う〝親友〟との再会を喜ぼうとした晃一であったが、再会した親友の変貌振りに思わずそんな言葉が口から出た。
元から目立っていた茶色の地毛はキラキラと太陽の光で反射するほど綺麗な金髪に染め上げられ、いくら校則の緩い学校でもさすがに一言くらい注意されると考える左に二つ、そして右耳に一つあけられたピアス。
暑いからか、それともめんどくさかったからかはわからないがタンクトップの上に羽織られた半袖のパーカーから見える露出度の高い肌。
彼の整った容姿と、その格好を見た晃一は今時高校デビューでもここまではしないぞと思わず苦笑した。
「なんだよ、なんか言いたいことあるような顔しやがって」
「お前そんな格好でよくナンパとかされてないか?」
「おう! されるぜ! まあ、速攻で断ってやるけどな。しつこいようなら実力行使でぶっ飛ばすけど」
変わらないなぁと晃一は改めて彼に対する認識を再確認する。
「なんにせよ、久しぶり。格好以外は全然変わっていないようで安心したよ、悠」
「そりゃ、こっちの台詞だ。こんな美少女を前にしてナンパの口上を真っ先に口にしないところがお前らしいぜ、晃一」
久しぶりに再会した〝親友〟山辺悠。晃一が彼と心で呼ぶ少女は爽やかな笑顔で晃一との再会を喜んだ。
「美少女とか、自分で言うところがまたお前らしいというか……。ホントあいっかわらずだなぁ」
「うっせえ、何年オレと付き合ってるんだよ。大体、青春真っ盛りな高校生が夏休みにもなって暇してる時点でお前女っ気なさすぎんだろ。
ほれほれ~。寂しい晃一くんにオレがサービスしてやろうか~。乳揉むか?」
悠はベンチに座る晃一の横に腰掛けると何度か彼を肘で突いて豊かに育った乳房を両手で抱えて晃一に突き出す。
「馬鹿、やめろ。お前、その自分の性別をわかった上での行動ホント誤解を招くぞ。
ったく、そんなんじゃお前と同じクラスの男子がま~たその性格と態度でころっと騙されてそうでかわいそうだよ」
「ニシシ。実はもう何人か騙された単純な男子から告白されてたり」
テヘっと舌を突き出し、頭を掻く悠を見て晃一は今日一番の深いため息を吐いた。そして、彼と同じクラスになった男子に心の底から同情した。
「やめてやれよ。絶対、そいつらお前のせいで心に深い傷を負ったぞ」
「しゃーねえだろ。オレにはその気がないのに向こうから迫ってくるんだから。今までは男よけになってくれてたお前は別の高校に行っちまうし」
「それは仕方ないだろ。お前、馬鹿だったし」
「なんだと! よ~し、喧嘩か? おっ? やんのかコラー」
大声を上げて立ち上がった悠の様子に先ほどまで無邪気に遊んでいた子供たちが異変を感じ取ったのか何事かと一斉にこちらを向いた。
晃一は恥ずかしさのあまり今すぐにでもこの場を立ち去りたくなった。ついでに、隣にいる親友と今すぐに縁を切って赤の他人になりたいとちょっと思った。
「恥ずかしいから勘弁してくれ。もう俺たち高校生なんだから……」
どうどうと気性の荒い馬を宥めるように晃一は悠の肩に手を置き、落ち着くように促す。
「はぁ~。つまんねえの。まーた一人だけ大人ぶっちまって。もうちょっとノリよく行こうぜ、晃一」
「お前が変に暴走するからそうもいかないっていい加減わかってくれよ……」
「まったく、久しぶりに再会した親友に対してちょっとつれないぞ」
「言っておくけど、久々に会えたこと自体は本当に俺も嬉しいんだぞ。ただ、お前がその気持ちをどんどんと残念にしていっているだけで」
「おっ? おっ? なんだ? やっぱり……」
「わかった、わかった。はぁ、俺が悪かった。すまん、すまん」
一度は収めた矛を再び抜こうとする気配を悠が見せたため、すぐさま晃一は気のない謝罪を言葉だけ口にして、無理やりその矛を収めさせた。話が進まないと悟った彼は一度その場を離れ、近くの自販機で缶ジュースを二本買ってきて、その一つを彼に手渡した。
「ほら、わざわざ来てもらったお礼だよ」
「サンキュー。へへっ」
手渡された缶のプルタブを空け、ゴクゴクと喉にジュースを流し込む悠。すっかり機嫌がよくなった彼を見た晃一は現金な奴だなぁと思いながらも彼と同じように乾いた喉にジュースを運んだ。
「それで、しばらく会ってなかったけどそっちはどうしてたんだよ。お前の母さん再婚したっていうのだけは聞いたけど」
「ああ、そうだな。ん~とまずは」
公園内に響く子供の笑い声。そこかしこで聞こえる蝉の鳴き声。公園の外を走る車の排気音。それらをBGMにして晃一はこの半年の出来事を悠に向けてゆっくりと語りだすのだった。




