夏祭りへ向けて
多大な変化があった春が過ぎ、穏やかに過ぎ去ると思われた夏休みもあっという間に残りわずかとなった。
まだまだ夏の強い陽射しがアスファルトに照りつけ、気温を上昇させる。縁側に寝転がり、だらけきった姿を晒す晃一。そして、その横には同じように夏の暑さにバテている陽菜の姿があった。
二人とも高い気温で舐めたそばから解けていくスティックアイスを口に含み、先日訪れた美咲が通う聖園女学院のバザーで晃一が購入した扇風機の風にあたっている。
「暑いですねぇ」
「そうだなぁ……」
陽菜から受けた告白からしばらく経った。だが、未だに晃一は陽菜に告白の答えを返していない。その間、陽菜は宣言通り晃一へのアピールをやめることはなかったが、それでもそのアピールは度が過ぎたものはなかった。
過度な主張はせず、あくまでも彼女なりにできる精一杯の範囲で、そして晃一の心境を踏まえたうえでの行動が主なものだった。
(こうなると、一時の感情の勢いってことはもうないよな)
晃一なりに、彼女に対する告白への答えをできれば早く返したいと思ってはいたものの、赤の他人と違い家族となってしまった今の状況では安易に陽菜に対する答えを返す訳にもいかなかった。
仮に付き合うことになったとして、もしその後別れるなんてことになったとしても彼らの生活は別れて終わりというわけにはいかないからだ。
だからこそ、しっかりと時間をかけて考えを出さなければいけない。そう思っていた。
どこかに出かけたり、クラスメイトや友人と遊んでいても頭の片隅では陽菜の姿がチラついた。陽菜の行動が結果として晃一に彼女の存在を大きくさせたのは間違いない。
(はぁ……。家族として仲良く過ごせられたらと思ってはいたけれど、こんな形でこの子との関係性に頭を悩ますなんて再会した時は思いもよらなかったな)
チラリと隣で同じようにだらける陽菜をこっそりと盗み見る。相変わらず無邪気な様子でいるものの、本当は今すぐにでも晃一からの返事がもらいたいはず。そんな彼女にこれだけ告白の返事を先延ばしにしてきた自分は本当にズルイなと晃一は密かに心の中で毒づく。
(いい加減、覚悟を決めないといけないよな。でも、あと一歩。答えを出すために誰かに背中を押してほしい……)
答えを出すことを先延ばしにするのもいい加減に限界だと自分でも自覚しているものの、先に進むための一歩が踏み出せない。だが、そんな自分を追い込むための最後の切っ掛けが欲しかった。
どうしたものかと考えていた晃一であったが、考えを巡らせていると先日友人たちとカラオケに行った時に交わした何気ない一幕が不意に脳裏に浮かび上がる。
『そういえばそろそろ夏祭りだけれど、晃一は誰かと行く予定とかねえのか?』
友人の風間真吾から言われたそんな言葉。特に誰とも行く予定がなければ普段遊んでいるメンバーで一緒に行かないか? そんな誘いだった。
『いや、俺は遠慮しておくよ』
特に誰かと行く予定などなかったにも関わらず、そう返してしまったのは何故だろう。その時は反射的に断ってしまったが、よくよく考えればその時も陽菜の姿が頭にチラついていたことを思い出す。
だから、晃一は……。
「なあ、陽菜」
「なんですか? お兄さん?」
今自宅に晃一と陽菜の二人だけしかいないためか、陽菜は二人だけの時の呼び方で晃一に返事をする。
「今度さ、夏祭りあるだろ? その……よかったら俺と一緒にいかないか?」
「……えっ!?」
「その……他に誰かと行く予定とかなかったらなんだけどな。もし先約があるのなら「行きます!」
」
晃一の言葉を遮る形で陽菜はガバリとそれまでのだらけっぷりが嘘のように身体を起こし、心底嬉しそうな笑顔を晃一に向けていた。
「お、おう。そうか。それじゃあ、当日は頼む」
「はい! えへへ~やった。お兄さんから、誘ってもらえるなんて……嬉しいです!」
手に持ったアイスのように蕩けきった笑顔でニコニコする陽菜を見た晃一もまた彼女につられるように笑顔になる。夏祭りへの誘いだけでこんなによろこんでもらえるだなんて男冥利に尽きるなと晃一は思った。
そして、同時に脳裏に浮かんだある人物へここ最近の己の近況と、そしてこれからについて話をしたいという気持ちが芽生えた。
晃一はその場から起き上がり、陽菜に「夏祭りの予定についてはまた話をしようか」と言い残して自室へと向かった。そしてスマホに登録されているとある人物の電話番号を押し、電話をかけた。
数コールの後、目的の人物は晃一からの電話に出た。
『ん……。ふぁぁ~。どうした~晃一』
晃一からの電話で目を覚ましたのか、通話相手は未だに眠たそうな声色だった。
「久しぶり、ちょっと色々と話したいことがあるんだ。急で悪いんだけど、もし予定があいていたら今日会えないか?」
『ん~。いいぞ。シャワー浴びて飯食ったら合流でいいか? 場所はどうする?』
「そうだな……。それじゃ、いつもの場所で。時間はそっちの準備も考えて二時間後でどうだ?」
『オッケー。じゃあ、二時間後な』
「ああ。ホント急で悪いな」
『気にすんな。どうせオレも今日は暇してたから』
「それじゃあ、後で」
『おう! 久しぶりにお前に会えるの楽しみにしてるぜ。
色々と面白い話を聞かせてくれよ』
通話相手との約束を交わした晃一は通話終了のボタンを押す。約半年ぶりの連絡だったが、なんてことはない。通う高校が変わっても幼い頃から共に長い時間を過ごした〝親友〟は以前と何一つ変わらない対応だった。
「さて、俺も準備をするか……」
とりあえず、まずはシャワーを浴びて汗を流して着替えよう。そう思い、スマホをベッドに放って晃一は再び自室を後にするのだった。




