赤ずきんの群れに放り込まれた狼さん
蘭と美咲に案内をされ、聖園女学院の校内へ足を踏み入れた晃一。学院の特性上中々同年代の男性と接する機会が少ないということもあり、学院に在籍する生徒たちはどこか浮き足立った雰囲気を醸し出していた。
その様相
はさながら童話に登場する赤ずきんのようだ。そして、その赤ずきんの群れの中に放り込まれた哀れな狼である晃一は周囲から不躾に向けられる好奇の視線の数々に既に気疲れしていた。
そんな晃一の様子を感じ取った美咲は申し訳なさそうな表情をかべ、
「ごめんなさい、晃一君。みんな普段同い年の男子と中々会う機会がないから気になっちゃうみたい」
「そうみたいですね。あはは……友達にこの状況を説明すれば羨ましがられるとは思うんだけど、今だけはちょっと代わってもらいたいかも」
「お願いしたお手伝いは私たちじゃ運べないような重い荷物だけ男性の先生たちと会場まで運んでもらうだけだから、そんなに時間はかからないと思うの。
それが終わったらすぐにでも帰ってもらって大丈夫だから。
……本当にごめんなさい、せっかくの夏休みなのに」
晃一にお願い事を頼んだのは不味かったかなとさっそく後悔した様子を見せる美咲。そんな彼女の様子を見て、晃一はすぐに否定の言葉を口にする。
「いやいや。こう見えても俺、美咲さんに頼ってもらえてすごい嬉しかったからそんなに気にしないで!
なんなら、そのお手伝いが終わっても他に何か手伝えることがあれば、手伝いますよ!」
「そう? そう言ってもらえるとこっちとしてはすごくありがたいのだけれど。
でも、無理のない範囲でいいからね」
「了解しました!」
そんな二人のやり取りを美咲の隣で口を挟むことなく眺めていた蘭は二人に聞こえないくらいの声でこっそりと
「ふむふむ。なるほどね~。確かにこりゃ、見た目とのギャップがすごいあるいい子だわ。
美咲から聞いていた通りの子みたいだね。でも、な~んか家族っていうにはまだ固いかな?
まあ、まだ顔を合わせて数ヶ月じゃそれも仕方ないか」
と小声で呟くのだった。
そうして歩くことしばらく。門を通り、本校舎の正面玄関から脇に逸れてバザーに出品する品が置かれている場所までたどり着く。
まず目についたのは荷物を運搬するであろう軽トラックと、その前に置かれた外部から持ち込まれたであろう出品物。
タンスや、本棚、ソファやテーブルなど、確かに女性が運ぶには文字通り荷が重い品々だった。
「おや? 着ましたか。なるほど、彼が美咲さんがおっしゃっていた強力な助っ人ですね」
出品物を眺めていた晃一であったが、不意にかけられた声に視線をその主へと移す。見れば、この学校の教員の一人であろう老齢の男性がすぐ近くに立っていた。
「あ、初めまして。春日晃一です。本日はお手伝いに参りました。微力ながらご協力させていただきます」
できるだけ丁寧な言葉遣いを心がけて挨拶を交わす晃一。身内であり、生徒会の副会長をしているという美咲に恥をかかせるわけには行かないと若干緊張しながら挨拶とともに頭を下げる。
「おやおや。そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。むしろこちらこそ、せっかくのお休みにわざわざご足労いただき申し訳ない。
ささやかではありますが食事と飲み物を用意させていますので、作業が終わりましたら是非お召し上がりください」
柔和な笑みを浮かべながら晃一の来訪を歓迎する教員。その雰囲気や言葉の端々から感じる教養の高さになんだかむず痒くなってしまい、ソワソワと落ち着かないなと晃一は心の中で感じるのであった。
「玉置先生。準備のほうはもう済んでいるのでしょうか?」
「ええ、美咲さん。こちらはいつでも作業を始めてもかまいませんよ。他の先生方も少し席を外していますが、すぐに戻ってくるでしょう」
この後の段取りについて玉置と呼ばれた教員と美咲がやり取りをしていると、こそこそと晃一の傍に近づいてきた蘭が彼にこっそりと耳打ちをする。
「あれ、うちの学院の教頭先生。気をつけなよ~。基本的に優しいし、いつもニコニコしているけれど、怒らせると滅茶苦茶怖いから」
その情報は今聞きたくなかったと晃一が苦笑いを浮かべていると、キッと一瞬だけ視線を鋭くさせた玉置が蘭へと視線を向け
「蘭さん、聞こえていますよ。あなたもこんなところで油を売っていないで他の生徒たちが予定通りに作業を進められているのか確認するべきでは?
元とはいえあなたはこの女学院の手本となるべき生徒会長だったのですから」
口調は優しくも厳しい一言を欄に向かって問い放った。蘭は「薮蛇だったか~」と一言を残し、そそくさと逃げるようにしてその場を後にした。
「では、先生。私も蘭と一緒にみんなの作業状況を確認してまいります」
玉置へ一礼をし、先に走り去っていった蘭の後を追うように美咲もまたその場を後にする。
そうしてただ一人残された晃一はなんとも気まずい心境で、他の男性教諭がこの場に到着するのを待つのであった。




