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ひとつ屋根の下 ~It`s happening life~  作者: 建野海
美咲の章
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悪戯好きな王子様

美咲のお願い事を晃一が晃一が聞いてから数日後。晃一はとある場所を訪れていた。

 スマホのナビゲーションマップに案内されて辿り着いたその場所は晃一が足を踏み入れるにはかなりの勇気がいる異世界であった。聖園女学院。この地域でも有名なミッションスクールだ。

 夏休みということもあり、私服姿で女学院の門の前で中に入ってもいいのか足踏みしている晃一の姿は傍から見れば女学院の生徒にナンパをするために出待ちをしている不審者に見えなくもない。

 その証拠に先ほどから門の前に立つ守衛の男性から怪しい人物を見る視線を何度も感じていた。


(くそ……。何も悪いことをしていないはずなのに居心地が悪くて仕方がねえ)


 ソワソワと落ち着きのない様子で入り口に迎えに来るはずの美咲の到着を待つ晃一だったが、本音は今すぐにでもこの場を立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。


(でも、美咲さんが雑事以外で始めて俺を頼ってくれたんだ。その気持ちを無駄にしないためにも、せっかくのこの機会を活かさないと)


 春日家の一員になって早数ヶ月。距離は縮まっているもののふとした瞬間にまだ遠慮を感じる美咲との仲をより良いものにしようと意気込みこの場を去りたい気持ちをグッと抑える。

 もっとも、美咲のお願い事を快く引き受けた理由はそれ以外にもあった。


(それに、陽菜からの告白にもいい加減に答えを出さないといけないしな)


 自宅にいれば隙あらば距離を縮めようとする陽菜に、このまま何も考えずに過ごしていると彼女の猛烈なアピールに押し切られ、その場の勢いで彼女の告白に頷いてしまいそうになってしまいそうだったというのも理由の一つだった。

 晃一としては、どんな答えを出すにしてもしっかりと悩み、考えた上で彼女に答えを出したいと思っていた。それが勇気を振り絞って告白してくれた彼女に対する誠実さだと考えていたからだ。


(でもなぁ……。不可抗力といえ、もうキスしちゃってるんだよなぁ。

 俺のファーストキス。まさかあんな形で済ませることになるなんて……)


 今でも思い返すだけで顔が火照る幼さの残る少女の瑞々しい唇の感触。あの時の感触を思い出し自然に唇に指が触れる。


「ハァ……」


 物憂げに溜息を吐き出す晃一。その姿を見る人からすれば益々不審者の度合いが上がっているのだが、彼はそれに気がつかない。

 ヒソヒソと彼の横を通り過ぎていく女生徒たちが「あれ誰だろう?」「怪しい人だよね、シスターに報告したほうがいいかな?」と口にしていく。

 そんな女生徒たちの中の一人が何かに気づいた素振りを見せ、どこか納得のいった様子で晃一に声をかけた。


「ねえ、きみ」


「ん?」


 聞き慣れぬ声に晃一が声の主に視線を移すとそこにはショートカットの一人の少女が立っていた。

 視線を向けてすぐに目を奪われる美貌。だが、どちらかといえば男性寄りのそれは女生徒が集うこの学院では下手な男性アイドルよりも注目を集めるであろう少女。

 まるで宝塚の男役のような、そんな少女からの突然声をかけられて晃一は戸惑った。


「えっと、なんですか?」


「きみ~。こんなところでなにしてるのかな? ここは男子禁制の女学院だぞ~」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう問いかける少女。晃一は戸惑いながらもありのままの今日この場を訪れた用事を彼女に伝える。


「実はここに知り合い……というか家族が通っていて彼女にお願いされてボランティアのお手伝いにきたんですけど」


 晃一の言葉を聞いた少女はやっぱりと納得した表情を一瞬浮かべたが、すぐに先ほどまでの悪戯っぽい笑みに戻った。むしろ、先ほどまでよりもその笑みに深みを増しているようにも思える。


「ふむふむ。君の言い分はよ~くわかった。でも、そう言ったもっともらしい理由を口にしてうちの生徒をナンパしようとする輩って実は多いんだよね~。

 生徒会長のあたしとしては、その言葉が本当なのか職員室に君を連れて行って先生たちの前で詳しく事情を聞いた上で先生やシスターたちに判断してもらいたいところなんだよね。

 と、言うわけで今から事情聴取のために一緒に付いてきてもらいたいんだけど、いいかなぁ?」


 目の前の少女が口にした生徒会長という言葉に悪いことを何もしていないにも関わらず何故か晃一は狼狽してしまう。

 何か誤解が生じていると判断するも、突然の出来事に焦ってしまいうまく頭が回らない。


「えっと、その……」


「むふふ~。なになに? なんだかやけに慌ててるけれどやましい事でもあるのかな~?」


 やましい事など何もないのだが、少女と一緒にいるだけなのに周りの生徒からの視線が先ほどよりも更に晃一へと集まる。

 どうしたものかとグルグルと考えのまとまらない思考の中で対応を考えていると、そんな彼の耳に聞きなれた声が届いた。


「ごめんなさい、晃一君。待たせてしまって……。って、あら? 蘭。あなた、晃一君と知り合いだったの?」


 ようやく、晃一の元に辿り着いた美咲は二人が一緒にいる姿を見て、そうつぶやく。


「いやいや、この人とは初対面だよ。俺もなにがなにやら」


 そう晃一が答えると、「ああ、またか」といった呆れと共に美咲は溜息を吐き出した。


「蘭。あなた、晃一君のことからかったのね?」


 美咲の指摘を受けた少女はバレたかと観念した様子で晃一の傍から離れ、彼女の隣に寄り添った。


「ごめん、ごめん。彼が美咲から聞いてた〝弟〟くんだってすぐに気がついたんだけど、つい悪戯心が湧いちゃって」


「もう……悪い癖よ。ごめんね、晃一君。この人、すぐに人のことからかったりするから」


 未だに状況が掴めない晃一は困惑した表情を浮かべながら美咲に問いかける。


「えっと、美咲さんの知り合い?」


 その問いに答えたのは美咲ではなく、彼女の隣に立つ蘭という少女だった。


「よくぞ聞いてくれました! 私たち聖園女学院の元生徒会長と副会長にして固い絆で結ばれた〝比翼の鳥〟」


 隣に立つ美咲の腕を自分の元に引き寄せ、高らかに宣言する蘭。


「ようこそ、聖園女学院へ。今日はお手伝いよろしくね、弟くん」


 そう言って彼女は晃一の学院への来訪を歓迎するのであった。

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