聖園女学院の姉妹たち
学生一同待望の夏休みは早くも半分ほど過ぎた。
この地域にある他の学校と違い、聖園女学院は中等部と高等部の生徒一同が夏休み中に一同揃って校内の清掃活動を行う登校日が一日だけあった。
元々の目的は日頃活用している学院、それを建設した創設者やこの学院へ入学したことで出会った教師や学友への感謝を神へと捧げるための奉仕活動というのがそもそもの名目であったが、時代が流れるにつれて今ではその風習を真面目に受け取る生徒は少なくなり、今では他学校と同様のただの登校日とほぼ化している。
品行方正、静粛さを売りにしているとはいえ、歩いているだけでも汗を掻くこの時期に貴重な休みを潰してまで学院へ登校して清掃活動を行うなど拷問に等しいと嘆く生徒は多かった。
もちろん、そんな女生徒たちの中にも真面目な生徒はいる。
「ほら、早く終わらせてしまいましょ。もう少しでこの場所の雑草を全部刈り終えるから。
終わったら生徒会室に戻って冷たい紅茶を振舞うわ」
中等部までのリボンと違い、高等部から変わる学生服につけたネクタイ。青、黄、赤と学年があがるにつれて変わる色。最高学年の証でもある赤いネクタイを身につけた元生徒会副会長の美咲が呟く。
「でもでも、先輩~。そのちょっとを片付けようとしてもう一時間経ってますよ~」
オドオドとした様子で美咲にそう返事をするのは中等部のリボンを身につけた少女だ。リボンの色は美咲と同じ赤。来年からは高等部へと進級する彼女はその発言と同じように下手をしたら小学生に見られるほど小柄な体躯と、顔立ちをしていた。
「ちょっと光! なに美咲先輩の言うことにケチつけているのよ! いいからあんたは黙って手を動かしなさいよ!」
真夏の暑さに参ってしまい、思わず愚痴をこぼした少女、光。そんな光に隣で草むしりを黙々と続けていたもう一人の少女が文句を口にする。
「だって、ルナちゃん。もう私この暑さで溶けきったアイスみたいになっちゃいそうだよ~」
ルナと呼ばれた少女は光のその発言にキッと目元を険しくさせ、
「ルナ言うな! あたしの名前はつ・き・こ! 何度言ったらわかるのよ! このトロ子!」
「ふええ、ルナちゃん酷いよ~。せっかく親しみを込めてあだ名で呼んでるのに~」
「誰も呼んでくれなんて言ってないでしょうが! あんたがそんな風に呼ぶから皆真似してあたしのことルナって呼ぶようになっちゃったじゃない!
おかげで先生もたまにあたしの名前を呼ぶときにルナって間違えるのよ! どう責任とってくれるのよ!」
暑さによるものと、光の発言に苛立ちを感じた月子は土のついた軍手で光の頬を掴むとグニグニと引っ張り始める。
光と違い、常日頃不機嫌な様子を見せる顔立ちに、その顔立ちに見合った厳しい態度。ある意味で誰に対しても態度を変えない彼女であるが、キツイ性格をしていてもクラスメイトからは親しまれていた。
その理由としては今こうして光とじゃれあっている姿が端から見ていて微笑ましく感じるのと、意外と弄るとウブな反応を見せること、そしてなによりこう見えて面倒見がいい点などが彼女の性格のキツサを上回って愛される要因なのだ。
彼女もまた光と同じ中等部所属のリボンにを身につけ、その色は最高学年の赤色をしていた。
「しょ、しょんなこといふぁれふぇも~」
「うるさい! まったく、何であたしがあんたなんかと〝比翼の鳥〟にならないいけないのよ……」
いい加減に光の頬を弄るのも飽きたのか、ため息を吐き出しながら月子は呟く。そんな月子にヒリヒリと痛む頬をさすりながら光は月子の呟きの答えを返す。
「それは私のお姉様の蘭さんと月子ちゃんのお姉様の美咲先輩が親友だからじゃないの?」
「ムキーッ! そんなこと、あんたに言われないでもわかってるわよ! いちいち人の独り言を拾うんじゃないわよ!」
一度は落ち着いた感情に光が再び火に油を注いだため、またしても月子がポカポカと光の肩を叩き始めた。
そんな二人の様子を止めようともせずニコニコと笑顔を見せながら美咲は見守っている。じゃれあっているだけだとわかっているため、本気の喧嘩になるようならば止めるが、そうでなければ前述した月子たちのクラスメイトたちと同様に二人の様子を美咲は優しく見守るだけであった。
そんな風に再びじゃれあいを始めた二人であったが、文字通り第三者から水を差される形でそのやり取りを中断させられる。
「こらこら~! じゃれあうのもいいけど、あたしだって暑いんだよ! むしろあんたたち二人のそのやり取りを見て余計に暑くなる!
やめやめ! さっさと作業に戻ってクーラーの入った生徒会室に戻る!」
根の深い草などが生えた硬い土を柔らかくするために用意したバケツの水を手で掬い、二人に水を浴びせた一人の少女。
女学院の生徒にしては珍しい男勝りな性格と、ショートヘア。さっぱりとした性格と、男性寄りの美貌を兼ね備えた少女。
「こら、蘭。暑いのは皆一緒なんだから、イライラして二人に水をかけないの。
元とはいえ、あなた生徒会長だったんだから、もう少し下級生の手本になるように振舞わないといけないわよ」
「ハイハイ。まったく、他の生徒には優しいのになんで美咲ってばあたしにばっかり小言が多いかね。
こんなんじゃ将来旦那になる相手があたしは今からかわいそうでしょうがないよ」
「それこそ今更でしょ? あなたは私の〝比翼の鳥〟なんだから」
「それに加えて元生徒会長と副会長。下級生からの愛称は王子と姫っていうのも付け加えておいて」
「ハァ……。もう三年の半ばも過ぎているのにあなたってば本当に中等部のころから何も変わらないわね」
「そりゃどーも。いい加減諦めたら? あたしの性格はこの六年でよくわかったでしょ?」
「嫌ってほどにね。もう、あなたのお母さんからもあなたの性格を直すように頼まれてるのに……」
「いつの間に母さんとそんなやり取りをしているのよ……。帰ったら問い詰めないといけないことができたわね」
「問いかけても普通に頼んだって返事が来るだけだと思うわよ?
そんなことより、もうみんな休憩したでしょ? ほら、早く終わらせましょ」
パンッと気持ちを切り替える一拍を両手で美咲が周囲に響かせる。それを聞いた三人は「はーい」と返事をし、再び草むしりを再開する。
真夏の聖園女学院の清掃活動はこうして過ぎていくのであった。




