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ひとつ屋根の下 ~It`s happening life~  作者: 建野海
ひとつ屋根の下から始まる物語
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再会から始まる物語

人の縁とは不思議なものだ。いったい、どこで結んだ点が、互いを結ぶ線となり、縁となるかわからない。


「あら、君……」


「あんた……会場の」


「……お兄さん?」


――初めまして。顔合わせの最初に発しようと思っていた言葉はいつの間にか胃の奥底へと消え去ってしまった。

 初めて足を踏み入れた他人の家の玄関。しかし、これからは幾度となく使用することとなる場所。

 そんな場所で予期せぬ相手と遭遇をし、驚きのあまり思考停止し、唖然とした表情を浮かべながら少年逸見晃一は目の前の三人の少女の姿を眺めた。


 晃一から見て右側。三人の中で一番大人びた雰囲気を持ち、柔らかな空気をまとった少女。

 少なくとも晃一よりも年上であろう少女は僅かの驚きを表情に浮かべている。肩より僅かに長いショートヘア。

 言葉にせずとも体から滲み出る優しい雰囲気。なるほどと今更ながら晃一は思う。

 彼の友人や、周りの学生たちが彼女を高嶺の花として声もかけれずに遠くからいつも嬉しそうに眺めていたのも納得だ。こうして改めて近くで接してみて確信した。

 彼女はその雰囲気だけで男を駄目にしてしまいそうな、不思議な魅力を兼ね備えていた。

 豊かに育った乳房も、男が本来女性に感じる母性を促進させ、その魅力を増大させている要因の一つだろう。

 ニコニコと笑顔で自分を観察する晃一を見守る少女。そんな彼女と不意に視線が合い、気恥ずかしさから晃一は視線を逸らした。

 そんな彼を迎えたのは警戒心と僅かな敵愾心、それと困惑といった複雑な感情を乗せて向けられる視線。

 晃一の正面に立つ少女。こちらは腰まで届きそうな長い髪を後ろで縛り、ポニーテールにしている。年齢は晃一と同じ。なにか運動系の部活動を行っていたのか体は引き締まり、健康的な引き締まりかたをしている。

 制服の隙間から見えるうなじが妙な色気を見せている。見目整ったその顔立ちだが、先ほどの少女とは違い目の前の少女は少し目元が釣り目であり、人によっては何もしていなくても彼女の前に立たされるだけで緊張を抱いてしまうかもしれない。

 といっても晃一は目の前の今は彼にとって厳しい態度をとっている彼女が意外と間が抜けていたり、恩に対してきちんとお礼が言えて、笑顔を浮かべるとすごいかわいいということを知っている。


 だから、晃一は緊張をするどころか今の態度があまりにも目の前の少女に似合っていなくて思わず笑いそうになるのを堪えているくらいだった。

 そんな彼の様子に気が付いたのか目の前の少女が何かを言おうと口を開きかけた途端、


「お兄さん!」


 少女の言葉が喉から飛び出る前にその言葉は彼女の隣に立っていた妹の声によって阻まれた。

 少女は嬉々とした態度で玄関の段差など気にせず晃一の体めがけて目いっぱいの力をこめて飛び込んだ。そんな少女を反射的に抱きとめる。

 この様子に晃一はもちろん驚いた。だが、彼以上に彼女の姉、そして三人の後ろにて不安そうな様子で控えていた父親と思しき男性のほうが彼女の行動と様子に驚きを見せていた。

 もっとも、この時の彼らの驚きの理由を晃一が知ることになるのはまた後の話である。


「お、おお……陽菜か。いや~まさかお前がここにいるとはな……」


「えへへ~、お兄さん~。まさか、まさか! お兄さんが本当に私のお兄さんになってくれるなんて! 私、本当に嬉しいです!」


 満面の笑みを浮かべながら抱きついた晃一の胸元にスリスリと顔を擦り付ける少女、陽菜。

 先の二人と違い、今年の春中学に進学する未だ幼い少女。だがその容姿は前述した二人のように見目麗しく、しかし未だ蕾として美しく咲き誇る将来への様々な可能性をその身に多大に秘めている少女。

 晃一に現在見せている甘えた態度も、見方を変えれば小悪魔的と捉えることもできる。後五年も経てばその手の内で多数の男の人生を弄ぶ女王へと成長する可能性もないとはいえないだろう。

 晃一はその胸に押し付けられるささやかながらも柔らかな感触を感じながら密かにそのようなことを考えた。

 とはいえ、余計な思考はここまで。先ほどの陽菜の発言から少しの間とはいえ頭の中から放り出していた本来の目的を思い出す。


「初めまして。俺の名前は逸見晃一……です。

 えっと、趣味はバスケと水泳と、読書。好きな食べ物はオムライス。嫌いな食べ物はキノコ。

 今日の受験に合格すれば今年の春から三山高等学校に通う予定です。

 あ~その。すいません、これからよろしくお願いします?」


 妙にぎこちなく、緊張感が傍から見ていても感じ取れる自己紹介。それもそのはず、彼にとって見れば今日は新しく家族となる人物との初対面となる予定だったのだ。

 もっとも、それは予想外の形で否定されることとなったのだったが……。

 何はともあれ、両家の家族の挨拶。その最初のキッカケを作った晃一の行為を無にするほどこの場に集った人間は馬鹿ではない。


「この度、君の母である亮子さんと再婚することとなった春日礼次郎だ。君にとっては新しい父親となる。

 といっても、いきなりそんなことを言われても困るだろうから最初はどんな呼び方でもかまわない。

 色々と思うところはあるとは思うが、どうか少しずつ新しい生活になれてくれればと思う」


 これまで少女たちの後ろに控えていた彼女たちの父親が自己紹介を始めた。そんな彼の後に続くように三人の少女は年齢順に口を開いた。


「ふふっ、長女の春日美咲よ。まさかこんなところで会うことになるなんて不思議ね。

 いつもうちのお店を贔屓にしてくれてありがとう」


 美咲は優しい様子で晃一を歓迎する姿勢を見せ、


「……次女の春日千沙都。数時間前はどうもありがと。でも、それとこれとは別。私はまだ再婚の件に納得していないんだから!」


 千沙都は険しい表情を浮かべながら晃一を拒絶し、


「えへへッ。陽菜は春日陽菜だよ。お兄さんには前にも言ったよね。

 嬉しいな~。これからずっとお兄さんと一緒に暮らせるんだ~」


 陽菜は頬を緩ませ、笑顔を浮かべて晃一にベッタリと張り付いていた。


 こうして、両家の顔合わせは成った。両親の再婚というありそうでなさそうな出来事。

 逸見晃一はこの日を境に春日家の一員として過ごしていくことなる。それは様々なハプニングが待ち受ける日々の幕開け。

 喜び、楽しみ、痛み、苦しみ。恋や青春、人生の黄金期ともいえる高校生活。

 それが始まるのはもう少し……後。

 

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