小悪魔に泣かされた悪魔
【来たれ、数多の人間に恐怖を抱かしめる者よ
我が望むは、人型ならざる闇の徒
千の形を持つ月の庇護の下に、汝、我と契約を結ばん】
とあるマンションの一室で、怪しげな儀式を行う一人の女がいた。
床に直接描かれた複雑な文様の魔法陣、その周囲をいくつものロウソクが囲い、中央には殺したばかりの四羽の鶏が鮮血を滴らせている。
それは、いわゆる悪魔召喚と呼ばれる儀式だった。
現代に生きる彼女は当然、魔女などという大層な存在でもなければ幻想生物の実在を心から信じているわけでもない。
それでも、自らの叶わぬ欲望に焦がれ、ワラにも縋る思いでこれを実行した。
戯れにしては、かなり本気度が伺える凝り様だったが、万一、いや億が一にでも希望があるならばと考える彼女に、よもや手を抜くなど出来るはずもなかった。
そんな切実な一念が岩をも通したのか、真夏の室内に身も凍るような冷気が漂い、魔法陣からドス黒い霧が溢れ、いつしか眼前にはまさしく悪魔そのものといった風情の異形の徒が顕現していた。
腰を抜かし無意識に尻もちをついていた女は、大いなる恐怖と僅かな歓喜の発露により乾いた喉から喘ぎを漏らす。
「っあぁ、あ、あぁぁ……」
死の気配を纏う異形は、沈黙と共に深淵のごとき瞳を矮小な人間へと向けている。
「し……獅子の頭に、車輪状に生える五本の山羊脚……ま、まさか……まさか、ブエル大総裁?」
召喚にあたり、伝承をよくよく調べ尽くしていた彼女がその見目より思い当たる名を呟けば、それを聞きとがめた悪魔が不快に目を窄めて怨嗟を凝縮したかのような声を発した。
「おこがましい……卑小の身で御方を喚べる道理も無かろうに」
「ひっ!
し、しし失礼いたしました。伝え聞くお姿が彼の御方によく似ておられましたので、とんだ、かんっ勘違いを……」
本能によるものか、咄嗟に土下座で謝意を示す女。
しかし、待てど暮らせど反応を見せぬ悪魔に、ふとあることに思い至った彼女は、僅かばかりの安堵を抱くと同時に深く息を吐き出した。
彼らは召喚主よりの許可を得ずに魔法陣から出ることも、その外部へ力を行使することも不可能なのだ。
言葉巧みに騙されて陣の内へ入るか、もしくは彼らを制約なしに解き放つなどすれば、たちまち命は失われてしまうだろう。
が、その事実を思い出した女が今更不用意な真似をするはずもない。
「ええと、それで……まずは、そう、魔方陣から出ても、私をけして傷付けないと誓ってください」
「……………………誓う」
彼女の言葉に、顔を顰めた悪魔が不本意そうに呟いた。
途端、魔法陣の外円から立ち上っていた光が消え失せる。
忌々しい結界が解かれ、異形は召喚主の傍へ向かわんと宙を遊泳し、合間に嫌味を口にした。
「ふん、勤勉なことだ」
制約による安心感で徐々に恐怖を薄れさせれば、次第に女の胸には期待が膨らんでいく。
「……その、お聞きしますが、で、伝承の通り、私の魂を対価に、相応の願いを叶えていただける、と、いうことで、相違ありませんか」
「ない」
「ではっ! では、早速ながらお願いをっ」
先ほどまでと違い、欲望に瞳をギラつかせながら、女は両手を組み悪魔へ真っ直ぐと視線を合わせた。
望みの成就が目前とあって、どうにも現金なものである。
「聞こう」
「は、はい。
あの、私が寿命による死を迎えるまで、貴方様に現代の良識の範囲内で愛し愛される恋人として振舞って欲しい……です!」
「……ほぅ、我に美丈夫を演じろと」
別段珍しくもなければ面白みもない、人間の女によくある虚栄心だ、と悪魔は思った。
が、他愛ないと、そう応えようとする前に、当の女から異の声が上がる。
「あっ、違います違います、ごめんなさい。言い方が悪かったです」
「む?」
「美形の男性になってもらって侍らせてマウンティングしたいとか、そういう話ではなく、悲しいほどマイノリティな性癖を満たすために、そのセクシーな異形の悪魔姿のまま、世間に内緒で、悪魔基準ではなく現代日本の一般人や善人基準における睦まじい恋人……のフリを私が死ぬまでし続けて欲しい、という意味です」
瞬間、時が凍った。
「……………………………………なんて?」
たっぷりの沈黙の後、もはや口調すら乱れた異形が問う。
「端的に言えば、好みの化け物である貴方様とイチャイチャラブラブ生活が送りたい、です」
悪魔は混乱した。
「えっ。
…………えっ、待って、今の人間世界そこまで倫理乱れてんの?」
「なってないから悪魔召喚なんて眉唾ものの話に縋ったんですが」
「あ、はい」
明らかに狼狽する悪魔に、溜めに溜めた欲望を吐き出したことで勢い付いた女が肩をいからせて迫る。
「あの、何か問題が?
……もしかして、私の魂ではこの願いの対価として足りませんか?」
「や、通常の契約基準で考えれば、悪魔としての能力をほぼほぼ使わないという意味でむしろ余るぐらいだけども」
「じゃあ、どうして……あっ、恋人の演技がツライということでしたら、部屋に鎮座してるだけのぬいぐるみレベルでも充分ですが」
「えっと」
「あぁ、あと、たまに適当な相槌でも打っていただければなお良しです」
「いや、あの……」
「難しいお願いをしているつもりはないのですが、ダメなんですか、私が美人じゃないからですか、気に入らないところがあればおっしゃって下さい出来る限り直しますから、ねぇ、どこを直せばいいですか」
「待って理解が追いついてないだけだから待って待って詰め寄らないで嗅がないで」
「獣とも違う嗅いだことのない不可思議なアルカリ性っぽい匂いがしました」
「律儀に報告してくれなくていいから」
「お願いします、もう妄想は飽きました。
私は生きた化け物を愛したいんです、素敵な貴方と上辺だけでも愛し愛されたいんです」
「ええええもう何コレ何の罠なのコレ、こんなの古今契約大全にも載ってないよコワイ何かの詐欺じゃないのコワイ。
肉欲的な興味だけならサバトにでも行ってろって話だし珍しくもないけど、この子の言ってることオカシイよクレイジーだよ」
世にも珍しい悪魔の泣き言が狭い室内に空しく響いた。
完全に開き直った態度の女は、ようやく出会えた理想の異形を前に興奮を抑えることなく口を動かし続けている。
「別におかしいことじゃないですよ、古い言い方するとB専ってだけですよ。
この場合、ブサイクじゃなくてバケモノのBですけど」
「うわぁモノは言い様だなぁ」
「普通のブサイク好きと違って相手がリアルに存在しないからもう、焦燥感というか虚無感というか、とにかく日々鬱々悶々として、端的に言うと気が狂いそうでした」
「狂いそうっていうか、もう越えちゃってるっていうか」
「そんな時、ふと立ち寄った古書店で出会ったのです、悪魔召喚を題材にした古い西洋の羊皮紙本と。
…………運命だと思いました」
「ああー、強い負の感情を抱いてる人間の手元に自然と届くタイプの、たまに現世に紛れ込ませてる本物の呪本の類かー……担当は誰だ余計なことしやがって畜生っ」
床に山羊脚の一本をガンガンと打ち付けて、悪魔は処理しきれぬ混乱に任せて理不尽な八つ当たりをする。
その音に、同マンションの階下に住まう、ちょうどR指定な動画を鑑賞していた独身男性が全身を跳ねさせ、激しい動悸と共に意味もなく辺りを見回していた。
不機嫌な異形を前にしても欲望に目の眩んだ女は怯むことなく、強硬に発言を繰り返す。
「というわけで、お願い叶えてください。恋人ごっこしてください。
対価は足りてるんですよね? 魂、欲しいんですよね? ね?
お願いします、ぜひ、どうか」
「ぬぅぅぅ。
まぁ、よしんば警鐘を鳴らす本能の導くまま手ぶらで逃げ帰ったところで、仲間内での身の置き場がなくなったり、上司にバレたら最悪役立たずと消されたりする可能性もあるわけで……結論、我のような小物は働くしかないわけだけども」
「よっしゃあっ!
では、契約成立ということで、サインしますので契約書を出してくださぁい!」
「悪魔の弱みに付け込みおってこの人でなしめっ。
くぅっ、不本意だが仕方がない」
がっくりと項垂れるように上部の足を力なく折り曲げながら、悪魔は空中に契約用紙を召喚し、同時に亜空間から取り出した黒の羽ペンを操作して内容を書き込んでいく。
「あ、どこかに直接的でも間接的でも精神的でも肉体的でも魂的でも、悪魔さんが私のことを害するような、本来の寿命を削るような真似が出来ないように一筆書いておいていただけます?」
「ぐぎぃぃ、無駄に勤勉で腹立つぅぅ」
彼女が没するまでという条件にかこつけて、制約により直接どうこう出来ないまでも、他人の運命を操作して殺させたり、外出時に足元を陥没させ事故死させたりと、適当に手を下せばすぐにお役御免になるだろうと目論んでいたのだが、その希望が一瞬にして砕かれ、悪魔は強く歯軋りした。
「ちなみに、お名前って聞いて大丈夫ですか」
「ふんっ、雑魚の魂をせこせこ集めなきゃならんような底辺の小物悪魔に個体名などついているものか」
「では、契約中は私は悪魔さんのことを仮称としてニャン太郎と呼ばせていただきますので、その旨も記載してください」
「ふ、フザケるなよお前、何が悲しゅうてそんな猫畜生のような名で呼ばれねばならんのだっ。
くそっ、しかし対価内の要求であれば逆らえぬ、くそっ、くそっ。
とんだ外れ召喚主に当たってしまった」
「仮にもこれから恋人になろうかという相手に、そんなハッキリ悪態つかないでくださいよぅ」
その後、サイン前に契約内容をきっちり読み込み、曖昧な文章や故意に抜けている単語などを指摘して訂正させた女は、またもギリギリと牙を鳴らす悪魔に満面の笑みを向けて挨拶など始めるのだった。
「仁科加寿子でーす。
改めて、よろしくお願いします、ニャン太郎さん♪」
「……帰りたい」
~~~~~~~~~~
ありふれたマンションの一室で、獅子顔に車輪状の山羊脚を五本生やした異形が不貞腐れた表情で右へ転がる。
「はぁーーー…………可愛いぃぃ」
そんな彼を視線で追いかけつつ、熱い吐息を零す人間の女、加寿子。
彼女の視界から逃れるべく、無言で今度は左方へ転がる悪魔。
「あーーーーー好っき……」
うっとりと緩みきった様相で呟きながら、なおも彼に熱い眼差しを向ける契約者。
数秒後、ついに鬱陶しさが我慢の限界を超えたニャン太郎は、シャアッと威嚇する猫のような声を上げて素早く玄関口に繋がる廊下に避難し、扉の隙間から片目だけを出して抗議の声を上げた。
「止めろウルサい視線がウルサい、こっちを見るな反応のひとつひとつが気味悪い」
「おう、辛辣。
……し、仕方ないじゃないですか、その車輪状に生える足でコロコロ転がって移動するのが可愛すぎるんですよ、見るなって方が無理ですよ。
っていうか、あの、睦まじい恋人ごっこに興じてくださる契約では……?」
「むぅっ……あー…………アレだ、好きが過ぎて逆に素直になれずに酷い態度を取ってしまう男という設定だ。
だから、今のも恥ずかしいからあまり見るなと言おうとして失敗し暴言になってしまったのだ」
悪魔にあるまじき棒読みでニャン太郎が述べる。
「即興で適当に都合の良い設定を考えましたね?
でも、ダメですよ。私は日本の一般人基準でイチャイチャしたいって条件つけてるんですから。
暴言にしか聞こえない言葉やツレない態度を取ってたら、普通の人は見たまんまにしか受け取れないでしょう?
契約の内容に反してることになりますよ、魂、持って帰れなくてもいいんですか」
「ぐぬぅぅぅ人間風情めが小賢しいッ」
悔しそうに唸る異形へ、さしもの加寿子も呆れた態度が隠せない。
「古今、悪魔は人間を騙し誘惑することに長けた存在であるはずなのに、何で簡単な演技ひとつにそこまで……。
適当に甘い言葉でも垂れ流してりゃいいんですから、美女になって男を堕落させるよりも余程簡単でしょうに」
彼女の呟きに、ニャン太郎は強く鼻を鳴らして反論した。
「人間を翻弄し負の感情を喰らうのは悪魔の性分であり、貴様のような得体の知れぬ者の言うがままに動かされるのとは過分にして異なる」
懐かない小動物のような警戒心丸出しの悪魔へ、加寿子は眉尻を下げてため息を吐く。
「得体が知れないって……本当にただ化け物と好い仲になりたいだけなのに、泡沫の夢を見たいだけなのにぃ」
「マジ信じらんない、主の気持ち悪さが我の中で天元突破」
「もう少し契約主に気を使っていただいても罰は当たらないと思います」
「いやっ、なんか怖いのっ」
「いわくつきの場所に連れ込まれそうな微妙に霊感のある若い女性じゃないんですから……」
「似たようなものだろう」
「んもー。
何言ったって、こっちにゃ契約書があんだよ契約書がぁ。
おめぇさんは黙って従ってりゃいいんだよぉぉぉオラオラオラァ」
「ひぎぃいぃらめえぇぇぇっ」
段々と面倒臭くなって、当人以外不可視の、彼女の手の甲に刻まれた契約の印を翳しながら異形の潜むドアへと乱暴に駆け寄れば、ニャン太郎は背面を仰け反らせながら薄い本で喘ぐ少女のような悲鳴を発した。
「……意外とノりますね?」
「木っ端悪魔なんぞノリが良くてナンボよ。
いつ上司の気まぐれで死ぬことになるか分からないし、そりゃ刹那主義ばっかりよ」
「さいですか」
何とも物悲しい回答であった。
「ところで、そろそろ夕飯の買い出しに行こうと思うんですけど、ニャン太郎さんは人間用の御飯って問題ないですか。
むしろ、食べてみたいものがあれば作りますけど」
ちなみに、今回の契約はあくまで家の中に限定されている。
彼女が仕事等々で外出中、彼は完全に自由の身となり、魔界に帰ることすら可能であった。
「食えるが、いらん。我にそういった趣味嗜好はない。
出掛けるなら早く行け、今行け、やれ行け、さぁ行け」
「分かりやすいなぁ、もう。
問題がないなら、とりあえず一緒に食べてくださいよ。
そんで、『はい、あーん♪』とかさせてくださいよ」
「断固として拒否す……」
「契約」
「……チィッ」
「表情とか態度にはもう何も言いませんが、せめて最低限のごっこ遊びには付き合ってもらいますからね」
「不本意だが仕方がない」
加寿子が手の甲を見せつけながら強気に宣言すれば、異形は鼻面に皺を寄せ渋々と肯定する。
それに気を良くした彼女は、薄っすらと笑みを浮かべて、独り言のような小さな声を舌に乗せた。
「そうそう。契約違反さえなければ、うっかり私が外で事故死なんてして天使側に魂持って行かれそうになっても、ちゃんと取り戻しに来ていただけるでしょうしね」
「好機とばかりに天国に行こうとするならまだしも、何で悪魔に回収されたがってるんだ主は……薄気味悪い……。
悪魔を信仰するサタニズムや、はたまた魔神信者のデモニストというわけでもないのだろ」
およそ理解不能な人間の発言に、末端悪魔がドン引きしている。
彼の様子を気にすることなく、加寿子は一度首を傾げてから説明のために口を開いた。
「んー?
単なる生粋の化け物好き……いや、ケモナーにちなんでバケモナーとでも名乗らせていただきましょうか。
悪魔の姿は千差万別ですけど、天国の天使たちはほとんど全てが人間に数点のオプションがついただけみたいな存在じゃないですか。
日本の地獄と極楽にしたって、どっちが化け物が多いかっていったら断然地獄でしょう。
もちろん、回収された先で辛い思いをすることになるでしょうが、一切の希望のない天国や極楽と違って地の底には苦しみや絶望の中にも光が……萌えがあるんですよ」
「力説するな、理解できんから」
真顔で言い放つ女へ、これまた真顔で悪魔が返す。
「要約するとニャン太郎さん愛してるになります」
「やめろ、気色の悪い感情を向けるな。
もっとドロドロの負の恋情ならば喰らいようもあるが、無駄に純粋な愛に、いかにもハンパで微弱な罪悪感やら何やらがブレンドされて、性質の悪い酔いに襲われて吐きそうだが吐けない状態の人間の気分だぞ」
「え……そういう意味の気持ち悪いだったんですか。
なんか、すみません。私が本気で愛してるばっかりに」
「全くだ、クレイジーヒューマンめ」
「まぁ、何はともあれ、買い物に行ってきます」
「うむ。さっさと行け、そして、死ぬ直前になるまで帰ってくるな」
「ブレないなぁ」
そういうところも可愛いんだけど、などと不穏なことを呟きながら、加寿子は軽快な足取りで玄関扉の向こうへと消えていった。
正しく会話を交わしただけであるのに、なにやら酷く消耗している己に対し、ニャン太郎はやはり用心するに越したことはないと、実際は不要な決意を新たにするのであった。
余談になるが、夕飯での「はい、あーん♪」は強行された。
「本気でやるやつがあるかバカ!」
「契約」
「くそぉぉぉ! 食えばいいのだろうが食えば、むぐぅっ!?
美味いではないか、理不尽だッ! 納得がいかん!」
「…………うちの車輪猫がクソあざと可愛すぎる件」
「おい、誰が車輪猫だ。
あと、気味の悪い感情を向けてくるな、せっかくの飯が不味くなるだろうが」
「っあー、ズルいわー。ニャン太郎さんズルいわー。
もうホント存在自体がズルすぎるわーヤバイわー」
「か、会話にならん……おうち帰りたい……」
しかしてその後、食事のみならず、加寿子に微に入り細に入り何くれと世話を焼かれ甘やかされ続けたニャン太郎は、いつしか身も心もすっかり篭絡されて、彼女の八十と余年というそこそこ長めの寿命が尽きるまで、ある意味では悪魔らしい堕落の日々を送り続けたのだという。
更に、魂となり魔界へと連れられた加寿子は、その悪魔をも翻弄する手腕を認められ、彼の上司より小姓悪魔としての新たな肉体を与えられ、彼女好みの様々な異形への献身を勤めとして、ウハウハな死後生活を過ごすこととなったそうな。
ニャン太郎が、悪魔化により倫理観が薄れビッチのごとく広く愛を振りまくようになった彼女をこっそりストーカーしながら涙目になっていたことは、彼の上司しか知らぬ至極どうでもいい事実である。
おわり
オマケ~ある日のイチャイチャ~
「ニャン太郎さーん、大型犬用のラバーブラシ買ってきたので使わせてくださぁい」
「悪魔を畜生扱いとはどういう了見だ貴様ふざけるなーッ!」
「契約」
「んもぉーーーっ」
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「ふにゃーん、ゴロゴロ」
「……んぶっふ。獅子のノド、鳴っちゃってますよ?」
「ぬぅっ!?」
「即落ち二コマみたい」
「か、勘違いするなっ!
我が心地よいと感じているのは、そのラバーブラシとかいう製品の力であって、主のブラッシングが上手いのではないぞっ!
あと、もっと耳の後ろ辺りを重点的にやるのだ!」
「ぼっふ! まっ、お、おまっ、ふっざけるなよ……なんやその可愛さは殺す気か萌え死させる気か尊いが過ぎてもはや怒りが湧いてくるっちゅーねんドチクショウがぁ……ッ!
いくらでもヤったるわオラオラオラァ、ここか、ここがエエのんかぁーーーっ」
「ひぃーっ、こ、怖っ……もう、ホントこの人間意味わかんないコワイぃっ……あっ、そこは……あぁっ……ふにゃーん」