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除高齢化社会に消えゆくものの声を聞いてくれ

作者: 風間うた

僕は今年で57歳になるが、最近の除高齢者社会にはほとほとうんざりしているよ。生まれたのは、2060年だ。ここがかの有名な「子供か老人、未来か過去」議論の境目だった。2010年頃には日本の人口は減る一方になるということは分かっていたにも関わらず、僕より上の世代に溜まった老人たちは決して利権を譲ろうとはしなかった。逃げきりもいいとこだ。うまい汁だけ吸って死んでいった。羨ましいね全く。


【見捨てられた世代】


僕が成人するころになってようやく、次世代にこそ注力すべきだという風向きになった。純粋な日本人がかなり減っていたからね。どこを見渡しても世界中の血が入り混じっているように感じた。


子供ができた時には、自分の子供には不自由なく…むしろ十分な生活や教育を与えられたと思う。自分たちの苦労を繰り返したくなかったしね。


子供たちが成人して、対等な立場でそれぞれがそれぞれのやりたい事をかなえていけるようになって楽しい日々を過ごす…と思っていたんだ。


僕は個人で仕事をしている。会社では張り合いのある仕事は与えられないからだ。AIの方が俄然優秀だから、人間は「確認作業」だけ。勤めてみたこともあるけどだめだね。暇すぎる。このままじゃ馬鹿になると思って会社はすぐに辞めた。でも、そういう仕事の方が向いてるって人もいる。これに関しては良い悪いの話じゃない。適性の話。だからそれはそれで良いと思ってる。


僕は空間ムービストという仕事をしている。ショッピングモールの入り口に立って「レディースファッション」と言うとキューブが動いて君を迎えに来てくれるだろう? ああいう空間作りをしているんだ。家も、この社会全体も、キューブの組み合わせで成り立っている。それをいかに生活しやすく、楽しく、快適なものにするかデザインする仕事だ。


【空間ムービストとしての人生】


空間ムービストの歴史は古くて、1954年頃の日本の第一次高度経済成長期にまでさかのぼる。多くの人たちが新しい住居に住み始めた時、家族の一人一人に個室を作ったりして「間取り」が複雑化した。その後2010年以降にはその間取りが一度壊され、広々とした空間に壁ではなく仕切りで用途を分けるという流れが生まれたんだ。また、この頃には縦の空間利用にも注目が集まっていた。


屋根裏部屋、という言葉を知っているだろうか? 昔の住居は木材で作られていて、三角の屋根があった。天井と屋根のあまり部分を活用したものを屋根裏部屋と呼んでいたんだ。実際、そこまで部屋らしいものではなかったし、物置として使うことが多かった。それがのちにロフトと呼ばれるものに進化した。床と天井までの高さを区切って、二段にして使うという方法だ。収納として使う人もいれば、寝室にしてしまう人もいた。今のキューブの概念はこの辺りから生まれたと言われている。


人間に実際に必要なスペースは意外と小さいから、それを快適な形で組み合わせ、流動的に変化させられることができたら、無駄がなく、効率の良い建物になるだろうと考えたわけ。


この仕事は想像力、アイデア、論理的能力の求められる難しいけれど面白い仕事だ。楽しんで仕事をして来た。人の役にもたってきたつもりだ。


【除かれる世代】


ところが、除高齢化社会の促進により、僕もあと3年で全ての社会保障と特定の住居、飲食物の提供が打ち切られることになった。意味は分かるだろう。国は何も与えなかったくせに、最後には奪っていくときたもんだ。


分かってる、そうしないと次の世代にまで手が回らないんだ。ただ、何も言わずに終えたくはなかった。大変な時代を生きた男がいたのだということだけ、覚えておいてもらえれば、それでいいんだ。


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