1:出会い
なんで僕だけ・・・。
僕の名前は加納太郎。
子供の頃から、この名前が原因でよくイジメられた。
小学生の頃、学校の横に駄菓子屋があった。
皆、学校帰りにはその駄菓子屋に行き、小遣いの範囲内で駄菓子を買い食いしていた。
『子供がなかなか家に帰ってこない。』
保護者からの学校への問い合わせ。
学校帰りの買い食いは禁止になった。
そんな中、アイツらは僕に強要したんだ。
『い、いやだよ。見つかったら怒られるよ。』
『大丈夫だって。ちょっと裏門乗り越えて「うまか棒」のウニ味買ってくるだけだって。』
『お前だったら可能だろ(かのうたろ)?』
『そうそう、加納だろ?』
体が小さく気も小さい、ケンカも弱い僕に、歯向かう術はなかった。
−−僕が何をしたっていうんだ−−
親ならば、子供の将来をよく考えて名前を付けるべきだ。子供には子供の社会がある。考え方がまだ幼い者達の社会。時に彼らは、その未熟な頭では想像出来ないほどの悲しい事件を起こしてしまう。
それは高い確率でイジメという出来事がきっかけで起る事が多い。
子供社会に多く発生するイジメに対し、どれだけの大人が立ち向かっているだろう?子供のイジメを止められないのであれば、せめてその発生源となるかもしれない「子供の名前」というものに対して、もう少し思考を働かせて欲しいものだ。
おかげで僕は、高校生になった今も、あだ名は『ダロ』だ。
今日も、同じクラスにいる柔道部のヤツらに、練習台だと言って投げ飛ばされた。
『ダロならどんなに強く投げても大丈夫だよな?』
『そうそう、どんな技でも受け身加納ダロ?』
−−ふざけやがって−−
家に帰った僕は、むしゃくしゃした気分をどうにかしたかった。家の中で出来うる限りのストレス発散法を試したが、少しも気分が晴れない。
『−−−−外へ・・・行ってみるか。』
汚れた制服を私服に着替えて、財布だけ持ち、家を出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
−−むしゃくしゃする−−
カラスの鳴き声。
−−うるさい−−
外で遊ぶ子供の声。
−−うるさい−−
救急車やパトカーのサイレン。
−−うるさいっっ−−
『・・・・・・・・あれ?』
ふと気付く。
何処をどう歩いてきたんだ?
どの位の時間が経った?
わからない。
『・・・何処だ、ここ?』
随分と長い時間歩いていたのか、日は沈んでいる。
人気のない住宅街。
街灯も少なく、公園でもあるのか木が生い茂った通りに出た。
『・・なんか、気味悪いな。』
『そう?』
『うわぁ!?』
耳元で囁かれた僕は、思わず飛び退いた。
目の前には髪の長い女性が立っている。後ろで束ねた黒髪を右胸の辺りに下ろし、紅いドレスを着ている。歳は20歳位、大きな瞳が印象的のとても綺麗な女性だ。何の匂いだろう?香水かな?とてもいい香りがする。
『ごめんなさい、ビックリさせちゃったみたいね?』
『えっ?あ、いえ』
『中学生がこんな遅くに何やってるの?』
中学って。
高校生なんだけど・・・。
『えっと・・・』
『あ、私?私は華織。観神華織っていうの。この近くのお店で働いてるの。キミ、名前は?』
『あ、僕は−−』
(可能ダロ?)
−−くっ−−
『−−か、・・加納・・・太郎です』
『太郎君ていうんだ?いい名前ね。』
え?
−−どくん−−
いい名前?
−−どくん−−
な、なんだ?
−−どくん−−
なんで、今更?
『−−−−−ねえってば?』
『えっ?!!』
『キミ、もう遅いし、私の店すぐそこだから泊まっていきなさい。』
『えっ?店って?』
『あ、別に水商売とかじゃないよ。別にお金も取らないから安心して。いきましょ。』
『えっ、あ、あの』
返事も待たずに行ってしまった。
どうする?・・・・行くか?
『ま、待ってください。』
僕は、彼女についていく事にした。




