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1ー12
トラウマを乗り越える。
「怪我は2日か3日程で完治する筈です。横になって、安静にしていればもっと早く治ると医者が言ってました。階段を上がるときに石があなたの頭にぶつかったんですが、大事はないようです」
ピリオは優しい声で私に言い聞かせた。
「・・・なんで・・・どうやって知ったんですか?・・・・私があんな場所にいて・・・偶然・・・助けてくれて・・・」
洞窟内で手を引っ張られながらもずっと思っていた疑惑を質問した。口の中が切れているのか、喋ると痛かった為、小さく喋った。そして、返ってきた答えはなんとも呆気ない言葉だった。
「・・・仕事です。お金の為にあの付近で仕事をしてました。帰ろうとしたら、洞窟から雄叫びが聞こえてきて、興味本位で奥へ行ったらあれよあれよとこういう感じです・・・はい・・」
「・・・・・・そうだったんですね・・・・ありがとうございます・・・・助けてくれて・・・・」
彼から、いいんですよ、当然ですからの言葉が返ってきた後、急に涙が出て、視界が小さく滲んだ。
倒れるようにベッドで横になった。横になると疲労とストレスのせいなのか、再び強い眠気がやって来て、そのまま寝てしまった。完全に眠りについたアリサに優しく毛布を肩までかけたピリオもゆっくりと眠りについた。
・・・・僕の名前はキース!これからよろしく!アリサさん!・・・。
・・・・フランクだ、これからよろしくな。アリサ・・・。
・・・・これからよろしく、アリサ。私エミリーって言うの、これからパーティーの1人としてよろしくね・・・。
・・・・流石!見事な技です!次それ教えてくれない?!アリサ!!・・・。
・・・・やれやれ・・・大変だったな・・・ありがとな・・エミリー、アリサ・・・。
・・・・ナイス!やるじゃない。アリサっち・・・。
・・・・遅れるな!アリサ!早く!・・・。
・・・・次はこのクエストを受けよ、アリサ・・・。
・・・・はい。アリサ、私の奢り、次もよろしくね・・・・。
・・・・よくもフランクを!・・・・。
助けて!!アリサ!!お願い!!!
っ!
目が覚め、ベッドから飛び起きた。気づけば朝になっていて、小鳥のチュンチュンと鳴く声が聞こえてくる。
自分の髪の毛は寝汗でびしょびしょに濡れ、濡れた襟の部分が辺り、気持ち悪かった。
アリサは夢の内容を全部間違えることなく覚えていた。気づけば自分はまた泣いていた。
・・・・ごめんなさい・・・あの時・・・もっとちゃんと・・・・準備をしていれば・・・。
自分の浅はかさに今さら怒りが、悲しみが溢れる。よくよく考えれば当たり前のことから目を反らして、今まで皆がいたから大丈夫と思い上がっていた。目尻に貯まった涙を拭い、部屋を見回す。ピリオはいなかった。
ベッドからゆっくりと体を起こし、自分の汗を拭き取る。体のあちこちに包帯が巻かれているが、上から触って痛みを感じないものは取り、ピリッとした痛みの残る物はそのままにした。額にも巻かれているが、触ると酷い頭痛がしたため、そのままにした。
情けなくて、惨めで、不甲斐なくて、今は1人になりたかった。治療してくれたのは嬉しいがきっと、怪我が治り次第、あの男ピリオは"治ったの?良かった。じゃあね。"と言うと思う。
彼はこの街までほぼ無言で案内してくれたが、私のあの時の、到底、何か人にしてもらって、お礼もろくに言わずにそのままあとは1人でやるからじゃあね。と、今考えればろくでもない行動を何も思わずに口走り、足を動かしたのだから。
だがちらっとだが、別れる際のピリオの顔を見た。彼はなんと、安心したような顔をしたのだ。彼にとっては、立ち寄った村から突然押し付けられたに過ぎない出来事だからか、終わればそれで、の考えなのか、それともなんなのかは、わからない。
部屋の簡素な机に置いてある自分の荷物を背負い、剣を腰にぶら下げ、ゆっくりと部屋を出る。
しかし、不意に背後を見てよそ見をしたことが原因で誰かに衝突してしまった。私の方が先に尻餅をつく。
「ごっ、ごめんなさい。よそ見してました。すみません」
真っ先に謝る。しかし返ってきたのは、自分の考えていたこちらこその応答ではなく別の返事だった。
「あぁ、良かった。起きたんですね。どうぞ、立って」
ピリオの声だった。顔をあげると彼はこちらに手を伸ばしていたが自分の力でよろよろと立ち上がった。
「・・・すみません・・・ピリオさん。何度も何度も・・・助けてくれて・・・。あの・・・お金・・なんですけども・・・」
自分の今1番心配な所を尋ねる。彼女はさっきまで、自分の治療代を早く払おうという行為を軽く忘れていた為、慌てた。
「いや、大丈夫ですよ。高くなかったから」
「・・・・・本当にすみません・・・」
彼はいえいえと答えたがアリサは変な事を言われるじゃあと思うと少々怖かった。
だが、次にアリサが予想もしなかった言葉が彼の口から発せられた。そして彼は自分の想像よりも優しい人だと、考えを改めた。
「・・あの・・・。もし良ければ、これから少しの間手伝いましょうか?魔物退治とか・・」
彼の優しさに私は少し甘えることにした。まだ腕が痛む上、触ると酷くなる頭痛と、身の安全の為とお金の為に。
私自身、今、お金はあるにはあるが、どうしても心許ない金額しかない。今の傷は薬も買わないと痛む上、薬は高い。自分が動けないと終わる。パーティーを組んでいた時は全然余裕があったがまた、1人で何とかしなくてはいけないのだから。
私は彼の背にしばらくついて行くことにした。
ギルドに着くと近くのイスに座った。ピリオがクエストを持ってくるからと言い、私を座らせた。私の顔を知る何人かの冒険者が何度もチラチラ見てきたが、怪我を見て、下手に関わったりしない方がいいと判断したのか、何もしてこなかった。
いつもみたいにがやがやした空気がして、朝から酔っぱらう人を見るが、今は悲しいだけだった。
・・・もうみんなはいない・・・・私がみんなを・・・殺したんだ・・・・一度・・謝れたら・・どんなに心が楽になるのかな・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。
あの光景が瞼の裏から離れない。心臓の鼓動が早くなる。また涙が小さく出る。払うように涙を拭い、前を見る。ピリオが貼り紙を持ってやって来た。
内容はリザードの群れの退治だった。他に魔物がいる可能性ありともあって、倒すと報酬が増えるとある。
金額は15万ちょっとでなかなか良かった。
「これでどうですか?報酬もそこそこですし、それほど難しくもないです。どうしますか?」
迷わずに頷いた。リザードの倒し方はだいたい知っている。背や頭の鱗は硬いが首か胸を思い切り斬れば倒せる。
「報酬は僕が6であなたが4でいいですね?」
文句はなかった。素直に頷く。
「じゃあ、さっさっと行きましょう」
少し目眩がしたが問題なくゆっくりと立ち上がり、彼の背について行く。受付でクエストを受注を済まし、街のそとの森に足早に向かう。
「・・・あの、なんで・・手伝ってくれるんですか?・・・こんな私を・・・なんで・・助けてくれるんですか・・?」
森へと向かう道中で質問した。彼とは顔見知りの関係で、それ以上のことは全くない。だが、ピリオは妙に私に好意的にしてくれる。どうしても気になって質問した。彼は至って冷静に、友達と目を合わせずに会話するような感じでこちらに返した。
「別になんにも変な事は思ってないよ。ただ辛そうだから、少し手伝ってあげようとしてるだけです。ほら、情けは人のためならずって言葉ありますよね。あれです。はい」
彼にとっては、どうやら本当に善意だけしかないようだった。声や態度がそう語っていた。
有り難いことだが、今は嬉しいとか、頼もしそうとかは、感じることが出来なかった。今も私はあの光景がずっと頭の中から拭うことが出来ず、ずっと落ち込んでいた。
戦闘を行うのに変な気持ちでいると余計な失敗やミスを招く。ほぼ確実といっていいほどに。自分の経験と、パーティーを組んでいた頃の数少ない経験の知識である。
なのに一時でも忘れることが出来ない。目の前でフランクの頭がグシャグシャになり、キースが無惨に死に、エミリーが私に必死に助けを求めるあの洞窟内の出来事。
・・・お願い、少しだけ、忘れさせて下さい・・。お願いします・・。
「到着です。注意して」
ピリオの声で自分の世界から、元に戻ってくる。
いつの間にか、森に到着していた。クエストをしっかり成功させなくては。軽く息を吐いたあと、深呼吸をして気持ちを整える。
ちゃんとしないと!
私はゆっくりと彼の背を見ながら、気配を小さくし、ゆっくりと歩き始めた。
ピリオに前を任せ、後方を集中的に警戒する。ピリオは自分が出会ったように緑色のフードを被っている。多分カムフラージュであろう。以前会ったときは、マントを着けていたような気がしたが、多分変えたのだろう。 彼も足音を小さくして、ゆっくりと森の中を歩いている。しばらく警戒しながら歩いていると、ピリオが足を止めて、気をつけてと小さく言った。目的の連中を見つけた。
数は10体。今回のクエストで倒すリザードの数である。何度も倒しているから、だいたい奴らの倒し方は体が覚えている。硬い鱗を持っている魔物で二足歩行、もしくは四足歩行のどちらかで、弱いのは四足歩行の奴で、小さい炎を吐いてくるが、隙だらけで、首か頭を刺してしまえば、さっくり倒せるが、二足歩行の奴は危険だった。 二足のは頭が良く、人間の武器を剣や石を器用に使って攻撃してくる為、注意が必要なのである。倒し方も首を一気にはねるか、柔らかい胸を突き刺して、斬るかのどちらかである。
後、リザードは強いが気配を察知する能力が低く、不意討ちにも弱いのが、特徴でもある。
近くの茂みに隠れる。
隣のピリオは息を出来るだけせずにゆっくりと音を立てずに刀を抜いた。私も彼と同じようにゆっくりとロングソードを抜く。刃を下に、自分やピリオを傷つけないように、邪魔にならないように。
「後ろに下がれ」
ピリオが小声で早口に言った。言うとおりに、ピリオから離れる。距離を取った瞬間、一閃を見た。そんな感想だった。
茂みに近づいたリザードの一体を、ピリオは一瞬で口の辺りを掴み、声を出せないようにした後、茂みに連れ去り、喉を刀で突き刺し、暗殺した。ピリオは死体を後ろに引きずり、見えないように隠し、もといた位置にまた戻った。
刹那の一撃、正に神業であった。凄いとしか感想が出ない。しかし呆気にとられ続ける訳にはいかない。すぐに彼の左手側に近寄る。するとピリオが耳打ちで声をかけてきた。
「・・・いい、アリサさん。あいつらの前に出ますよ。もうこちらには近付いて来なさそうですし、良いですね?気をつけて」
「は、・・はい。分かりました。頑張ります・・」
ゆっくりと腰をあげる。彼も同じように立ち上がる。
そして、茂みから勢い良く出る。
グルァと不気味な唸りをあげ、一斉にこちらを見た。
4体リザードがこちらに向かってくる。4体とも二足歩行形態で、古ぼけた剣を持っていた。殺意と殺戮の塊が雄叫びをあげ、走る。
ピリオが、中段の構えを取り、戦闘態勢に入る。私もいつもみたいに剣を構えた。しかし、強い違和感と震えが出てきた。
世界がゆっくりになった。ずっと持って振り回していたはずの剣がすごく重い。手が震える。今まで、簡単に倒せたはずで、怖くなかったモンスターがすさまじく怖い。あの持っている剣であの時みたいなことになったら。嫌だ。抵抗したいが足が動かない。息が早くなる。涙も出てきた。助けて・・・ごめんなさい・・。
その場でアリサは膝から崩れ落ちた。自分の剣もカランと音を鳴らして落とした。油断したらあっという間に殺される、戦闘の最中で絶望してしまった。剣が怖くて振れない。また脳裏にあの光景が浮かび上がる。
ピリオがアリサの前に立つ。
そして向かってくる、リザードを次から次へと見事に倒していった。
最初に向かうリザードの一撃を弾き、怯んだ瞬間に、首を刀で貫く。刀をすぐに抜き、次の敵からの剣撃を容易くかわして首と胸を斬る。これで向かう4体のうち2体を倒した。
次の敵も似たように倒した。敵の粗末な剣技をステップでかわし、リザードの顎に剣の柄で攻撃する。怯んだ瞬間に首を一気に裂き、最後のリザードは、敵の攻撃よりも早く、大きく袈裟斬りに攻撃して倒した。
ピリオが次からリザードを倒していく光景をアリサはずっと見ていた。だがすごいとも、カッコいいとも思えなかった。両膝を地面について、感じていた感情は恐怖だけだった。
洞窟での光景がまた脳内再生される。友の必死に叫びが幻聴で聞こえてきた。涙が滝のように出て、肩を上下して、しゃっくりをした。
アリサが絶望して、泣いている間、ピリオは現在、茂みの奥から出てきたリザードを突きで倒し、四足歩行形態のリザードの頭を刀で突いて、頭を粉々にする。そうしているうちに、依頼達成の数を簡単にこなした。
ピリオは刀に付着した血を払って、ゆっくりと刀を鞘に納めた。
彼がゆっくりと歩いて、こちらに近づき、優しく声をかけた。
「あの・・・大丈夫ですか?・・・怪我とか大丈夫ですよね・・・?」
心配させまいと小さく、オロオロした感じで喋った。彼の優しさが伺える。今までの行動と態度が大違いだ。
「・いえ・・ごめんなさい・・・わ・・私が・・悪いんです・・・。・・急に・・動けない・・・自分が・・・悪いんです・・・・」
グスッと鼻水をすすり、肩を上下して、悲しみのしゃっくりをしながら応答する。まともに喋れなかった。
「・・・気持ちは分かります。・・・でもなんとか立ち上がらないと・・」
ピリオがゆっくりと手を伸ばしてきた。私は彼の手を力無く払うと、またうなだれた。彼の優しい言葉で感情が爆発した。思い切り泣いた。とにかく誰かに頼りたかった。ピリオに向かって思い切り懺悔した。情けなくて、みっともなくて、辛くて、誰かに励まして欲しくて。
「私が悪いんだ。私が・・。なにも考えずに、あんな装備で、知識もなしに突っ込んだ・・私が・・・。舞い上がってた。自分に酔っぱらってた。楽しくて何も考えてなかった。だからみんなを・・・死なせた・・私が・・悪いんだ・・。私が悪いんだ!!!・・・えぅ・・・ごめんなさい・・キース・・ごめんなさい・・・フランク・・ごめんなさい・・・エミリー・・・。無鉄砲な私が馬鹿だった・・・」
「・・・気持ちはお察しします。ですが、早く帰りましょう。また来るかもしれません」
彼が宥めてきたが、余計に悲しくなってしまった。誰かの胸に飛び付いて、思い切り泣き叫びたかったが、彼に迷惑をかけられないの気持ちが、更に悲しみを強くさせた。
強くなった感情が、ある言葉に変わった。言ってはならない言葉を言ってしまった。
「・・・・・死にたい・・・」
バン!
自分の頬からそんな音がした。2秒に自分が殴られた事を理解した。私は父に殴られたことがあったが、あの時とは違う、3倍の痛みを感じた。
意識が吹き飛びそうになった後、自分の頬を押さえる。瞬間、強い感情が芽生えた。いきなり殴られた怒りだった。押さえられなかった。
「ぐっ!てめぇ!なにしやがる!!」
感情に任せ、ピリオに向かって頬を押さえながら怒鳴る。怒ったのは久しぶりだった。怒りを更にぶつけようとしたが、唐突に怒りが消えてしまった。
彼は怒りながら、泣いていた。
「・・・何て言った、てめぇ」
「・・・えっ・」
反応が遅れた。彼はそれでも続ける。
「何て言ったかって聞いてんだよ!てめぇ!!」
私は彼の怒声にひれ伏した。鏡を見れば、多分今の私はきょとんとした顔をしているだろう。
「おい、てめぇ・・ふざけるなよ・・・何が死にたいだ。ふざけるなよ・・・ふざけるんじゃあねぇ!!クソアマ!!確かにな、確かに悲しいさ。大切な仲間が無惨に死んで、トラウマが消えないのは良く分かる。確かにな、てめぇは馬鹿だ。うじが湧いた馬鹿でしかない!あんな狭い洞窟で長槍を持った奴に弓持ちときた。馬鹿でしかない!!あんな結果になるのは至極当然だ!そんでもっててめぇは自分を悲劇のヒロインと持ち上げて、悲しすぎて死にてぇときた、ふざけるんじゃあねぇ!クソアマ!!どんなことがあっても生きなきゃいけねぇんだよ・・・誰にも頼れないから怒りに変えるしか無いんだよ・・・誰も手を貸してくれないから、はけ口を心で叫んで泣くしか無いんだよ・・・誰も助けてくれないから、足掻くしかねぇんだよ!死にたくても・・・・怖くてできねぇんだよ・・・泣きたいのはわかるんだよ。けどな、必死に生きてる奴に向かって、死にたいってぬかすんじゃねぇ!クソアマ!!」
ピリオの怒りの叫びが森に響き渡る。感情が爆発しているのか、彼は怒りながら涙を流していた。鼻水をすすりながら、地面を蹴り、空気を殴りながら私に説教をした。私は彼の顔を見て、何も言えず、考えが纏まらなかった。しかし、彼の顔を見ていると、今芽生えてはいけないものが出てしまった。笑いだった。
ピリオはさっきまで怒るだけ怒り、そして涙を流していた。だが急にオロオロし始め、しまったと言わんばかりに顔を変え、口を開らき、青ざめ始めた。そんな彼の顔を見て、急に笑いがこみ上げてきて、アリサは笑っていた。彼の困った反応を見て、また笑ってしまった。
ピリオは、急に笑い始めたアリサを見て、またオロオロしてしまった。意識なく怒ってしまい、頬を感情に任せて思い切り殴ってしまった後、怒鳴り散らしてしまったのに。どうすれば良いかわからなくなった。うまく反応が出来ないピリオをアリサは笑っていた。
森のなかで、1人の少女は前向きになるきっかけをてにいれたと言うのに、1人の少年は後ろ向きになってしまった。少女は冷たい心をゆっくりと優しく溶かしていったのに対して、少年は、やっと前向きに生きていったのに再び、後ろ向きになってしまった。入れ違う空気のなか、少女の明るい笑い声だけが、暗い雰囲気を優しく中和していた。
街に戻る。道中はトラブルもなく、順調に帰ってこれた。道中の変化は、今まで落ち込んでいた少女が前向きに明るくなって帰ってきたのに対して、少年は女性を殴ってしまったという一時の怒りに後悔し、後ろめたい気持ちでいっぱいで暗い顔をしていた。
受付で依頼完了を報告し、15万の報酬を受け取る。
「あのさ、ピリオさん。ありがとうね。色々としてくれて」
アリサが優しく明るい声でピリオに話しかける。現在2人はギルドの端側のテーブルで食事をとっていた。テーブルの上には黒パンと、塩のスープと分厚いステーキが並んである。
「・・いえ、いいですよ・・・すみません・・・あんなことしてしまって」
暗い顔をしながら、ピリオはアリサに謝罪し、彼女は優しく声で大丈夫ですと言ってきた。
「いえいえ、殴られたことは驚きましたがいいんです。助けて、ありがとうございます!」
「・・・いえ・・・」
また、ピリオの顔が暗くなった。
「あぁ、落ち込まないでください!本当に感謝してるんです!本当です!落ち込まないで!」
「・・・そう言ってくれると・・・嬉しいです・・」
焦れったいと思ったアリサはピリオの手をとり、真剣な眼差しをしながら、声をかける。
「ピリオさん。暗くならないでください。あなたには感謝してるんです。前を向くきっかけをくれたのはあなたなんです。だから少し前の私みたいにならないで下さい!」
「・・うん。・・ありがとう」
「良かった!」
アリサは彼に優しい笑顔を向ける、ピリオは顔を赤くし、視線をそむけるが、アリサはかまわず感謝を述べる。
「強く言ってくれて嬉しかったんです。思い切り叱ってくれて嬉しかったんです。結果はどうであれ、前を向かせてくれて嬉しいです。本当に、ありがとう・・」
「・それなら、良かったです。本当に。じゃあすいません、僕はこれを食べ終わり次第、行かないと・・これから頑張って下さい。怪我も良くなり始めてるようですし」
「えっ・・・」
手を向こうから優しく払うと、テーブルの料理を食べ始めた。だが、アリサはお腹が空いているはずなのに、考えのせいで、食欲が出なかった。
・・・・私は、彼に助けてくれたんだ・・・大丈夫そうに言ったけど・・まだ少し怖い・・・でも・・・・私は・・・少しでもいい・・・・私は・・・役立たずかもしれない・・・でも・・・・彼は私を助けてくれたんだ・・・前をむかせてくれた・・・少しでもいい彼の役に立ちたい!
アリサは自分の気持ちを決めた後、スープを一口の飲み、テーブルをパンと叩き、彼に気持ちを告白した。
「ピリオさん!お願いです!これから私とパーティーを組んでください!お願いします!」
頭を大きく下げ、ピリオに自分の思いを告白した。思い切り頭を下げた結果、テーブルに頭をぶつけるみっともない光景が出来上がった。
!ピリオが肩をビクッと上に動かした。スープを飲むスプーンをゆっくりともとあった場所に戻した後、小さく言った。
「・・いいですか?・・・こんな僕で・・・僕、あなたに散々悪口言って、暴力振るったんですよ・・・」
「・・いいんです!お願いします!」
アリサは握手を求めて、手を伸ばしてきた。それでも彼は暗い顔をするだけだった。
アリサはだったらと思い、彼の弱みを意地悪に突っついた。
「ピリオさん、あなたには何度でも言いますけど感謝しているです。私を助けてくれましたし、何より前を前を向かせてくれて、本気で叱ってくれて嬉しいですよ、ピリオさん。ですけどね、ピリオさん。私はあなたにお金を返していませんし、何よりあなた私を思い切り殴りましたよね?ピリオさん?」
彼が急に暗い顔から、露骨に弱点をつかれ、青ざめたような顔に変わった。反応が面白かった。
「いっ!わかった!わかりました!・・・はぁ弱いなぁ・・僕・・あなた・・・酷いですね・・意地悪だなぁ・・・」
「ふふっ・・ちょっと意地悪しましたけど、言いましたね?ピリオさん。これからよろしくお願いします」
「・・はぁ・・うん。わかったよ。これからパーティーとしてさ、お願いします。・・はい」
渋々だったが、ゆっくりと手を伸ばし、アリサと握手をした。
これからどうなるんだろうとピリオは思った。
「以前でしたっけ?忘れちゃいましたけど、これからピリオって呼び捨てにしていいですか?ピリオさん?」
思いに軽くふけようとしたピリオにすかさず次の言葉がやって来た。
内容は別になんとも不快に思わなかった為、いいよと返す。
「それじゃ、これからよろしくお願いします。ピリオ」
女性経験の乏しいピリオは小さく顔を赤くした。
「じゃあ・・こちらもよろしくお願いします。アリサ」
向こうがこちらを呼び捨てにするならと思い、自分も馴れ馴れしく呼び捨てにしてしまったが、彼女は嬉しそうに笑った。
決意を新たに、少女は目の前の少年とも青年ともいえる男性に傷だらけながらも今出せる最高の笑顔を見せた。その笑顔を見て、少年はまた、小さく顔を赤くした。
「これからよろしく!ピリオ!」
少年と少女が手を組んだ。素晴らしき絆が育ち、またひとつ、架空の歴史が進み、本来の歴史がまた消えていった。