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最強少年と喪失彼女  作者: 草田林檎
日常編
9/30

道場見学

ある日の土曜日。

あと2、3日で4月のカレンダーは役目を終える。

事務所にはいつも通り、オレと華音に咲、秀一と林檎がいる。

時刻は正午を迎えようとしていた。

「あ、拓也。そろそろお願い。」

「ん? ああ、アレか。」

もうそんな時間か。荷台に積むのは爺さんがやってくれるんだよな。

「アレって何ですか?」

華音が訊いてくる。別に大したことじゃないぞ、と言った。

「配達だ配達。咲の弁当屋の。」

「どうも、卯月が仕事仲間に、私の弁当屋のことを話しまくったみたいで。そしたらテレビ局の中で評判になっちゃって。幾つものテレビ局から大量に弁当の注文がくるようになったの。」

「それで、咲さんのご両親だけじゃ運べなくなったから、拓也さんの力を借りようってわけですか。」

「元々、『弁当をくれる代わりに、ピンチの時店を手伝う』っていう約束で弁当を貰ってたからな。断ろうにも断れん。」

椅子から立ち上がって、玄関に行こうとする。しかし後ろから秀一が話しかけてきた。

「あ、拓也。僕もついて行っていいかい?」

「…別にいいが、お前が乗るところが無いぞ? ヘルメットも。」

「それは大丈夫。」

外に出ると、「ちょっと待って~」と秀一は言って、オレの家の倉庫からガラクタをかき集めて来た。それからヘルメットとサイドカーを生成し、サイドカーをバイクと連結させた。

「…お前の能力、本当便利だな。」



オレ達が運ぶテレビ局に到着した。弁当を秀一と半分ずつ持って、建物の中に入る。

「ところで、ここまで来て言うべきことじゃないけどさ、」

「ん?」

「交通機関を使えば、咲ちゃん一人でも運べたよね? バイクで運べる量なんだし…」

「…あいつのことだから、『面倒だから、やだ。』って言うに決まってるだろ?」

どうせ今頃、ソファで本を読んでることだろうな。欠伸しながら。

二人でスタッフルームに行き、近場にいた人に話かけ、弁当を全部渡す。注文した人が誰か分からないから、という体のいい押しつけである。

「で? 何でお前ついてきたんだ?」

「林檎が卯月ちゃんに、サイン貰うの忘れたってさ。」

「それであわよくば、ってことかよ。」

そりゃ可能性はゼロではないが、相手は国民的アイドルだ。今日も忙しく色んなテレビ局を回って…

「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャーン!!」

「ホントに来やがったよ…」

そんなわけで、卯月が目の前に出てくる。何処から来たの、なんてことは言わない。アイドルは神出鬼没、そして女性は神話生物なのだ。

「はいはいサインね~。ちょっと待ってて。」

卯月が慣れた手つきで色紙に文字を書く。1秒で書き終えるところはさすがアイドルといったところか。

「で、お前暇そうにしてるが、仕事はどうなんだよ。」

「ちょうど、この時間帯だけ時間が空いたの。で、このテレビ局にバイクの音がしたから、もしかして、と思って。」

「なるほどね。」

「…えっと…それで…」

卯月が急に申し訳なさそうに縮こまる。視線の先は秀一がいた。

「…けが、させてごめんね。」

ああ、この前のあれか。秀一かなりボロボロにされたからなぁ。

「それと、いつもお願い聞いてくれてありがとね!」

「…お願い?」

秀一の方を見る。こいつらいつの間に連絡先交換してたんだ?

「あの事件以来、いろいろ頼まれてね。ドラマの撮影で足りない道具とかを作ったり、迷惑メールの送信相手にウイルスを送ったり。」

「おい待て。なんだ最後のやつ。」

というか、最近秀一が学校を抜け出していた理由はそれか!

「あ、そろそろ時間だ。秀一君借りてくね!」

別にあいつはオレの物ではないのだが。卯月と秀一は足早に去っていった。



家への帰り道。バイクを走らせていると、歩道を誰かが走っていた。ペースを崩さぬように走り続けている。

見知った顔だった。

「秋山?」

「あ、拓也さん。お疲れさまです。」

バイクを止め、押して走る。秋山と並走しながら、会話を始めた。

「走るのは体力作りか?」

「…はい。僕、気が弱い上に、体も病弱なので、父さんから鍛えられてるんです。」

「ジムか何かか?」

「はい。空手の道場に通ってます。もしよかったら、行ってみますか?」

「…どうせ暇だしな。そうするか。」

オレ達二人、ランニングしながら、その道場に向かった。



「ゼハー……ゼハ―……」

「…おい、もしかしてもう息が上がったのか? せいぜい2キロぐらいしか走ってねーぞ?」

「す、すみません…」

それでもまだ走り続ける秋山。道場に着くと共に、オレに寄りかかる様に倒れこんだ。まあ、頑張りは認めてやろう。

秋山を背中に担ぐ。かっこ悪く言えば、おんぶだ。

「たのもー」

そんなことを言いつつ、道場の扉を開ける。やっぱ道場に入るときはこれを言わないと。

奥から高身長の女性がやって来た。

「はいはい、どなた…あら? 真司君?」

「ただ疲れて動けなくなっただけですよ。それであなたは?」

「私はこの道場の師範の妻で、補佐もしています。あなたもどなた?」

「通りすがりのクラスメイトです。」

その言葉に一応納得してくれたのか、オレは道場の奥へ通された。

そこは大広間。結構な数の小学生、中学生、高校生が鍛錬に励んでいる。一番奥で偉そうに座っているおっさんが、おそらく師範だろう。

「む? 入って来たのは、真司と誰だ?」

結構遠くにいるのに、師範はオレの存在に気付いた。視力がいいだけなのかもしれんが。

広間のど真ん中を突っ切って、師範のところまで行く。鍛錬していた奴らはお構いなしに練習を続けている。

「入門希望者かな?」

一部始終を見ていた師範が話しかける。オレは師範の傍に秋山を寝かせた。

「見学に来ただけです。」

秋山の方を見る。するとようやく秋山は目を覚ました。キョロキョロ辺りを見渡し、自分が道場まで運ばれたのを確認すると、師範にあいさつをし、オレに礼を言ってきた。

「なるほど。君が拓也君か。よく真司が君について話している。『なんでもできるすごい人』ってね。」

「そんな大層なものになった覚えはないですけどね。」

クラスの中でよく目立つから、秋山がオレのことを話すのも不思議ではないが、秋山の目にはオレがどんな風に映っていたんだ?

「どうせ大したことないだろうと思っていたが、真司が憧れる理由が分かる。普通の子とは何かが違うな。雰囲気というか、オーラというか。」

オレにはさっぱりだが。

「そこで、どうだろう。この道場に入ってくれないか?」

「お断りしますよ。仕事でそれどころじゃないですし。」

すると、師範はもちろん、さっきまで練習していた生徒達はすっかり練習を止め、こっちに注目していた。……まあそりゃあ、小学生が仕事してたら、誰だって驚く。

「お前達は続けていろ!」

師範が声を張り上げる。生徒達は体をビクッと震わせて、練習を再開した。真司も慌てて練習に入る。

「そ、それで仕事というのは?」

「……違法労働とかじゃないんで安心してください。警察からも許可取ってます。」

「そ、そうか。ならいいのだが……」

急に師範の様子がおかしくなる。何かを考え始めた。

そして意を決したのか、オレに「耳貸して」のジェスチャーをした。

言われた通りに耳を貸す。

「……君、有名な小学生探偵だろう? 依頼を受けてくれないか。」



「息子さんが失踪?」

師範の家の居間にて、依頼の内容を聞いた。

師範夫婦には一人息子がいたようで、その息子が数日前に家出をしたらしい。

「元々短気で我儘、荒っぽい性格だったんだ。稽古にも何度反発したか数えきれない。」

「家出は何度かやっていたんですか?」

「ああ。だけど今回のはどうも嫌な予感がするんだ。」

「最近の交通事故って知ってる?」

「運転手が『ハンドルが効かなくなった』って証言してる、あのニュースですね。ある日を境に急増したとか……」

「……その日が、ちょうど息子が家出した次の日だったんだよ。」

………確かにそれは怪しいな。能力に目覚めたのか?

「警察にも言ったんだが、取り合ってくれなかったよ。『人間一人が、あそこまで事故を増やせるわけがない』とね。」

「大体わかりました。早速戻って捜査してみます。」

「あ、依頼料は…」

「いりませんよ。せめて息子さんを見つけた後でお願いします。」

そう言って家から出ると、外には壁から盗み聞きしている生徒達がいた。こいつら稽古にやる気あるのかないのかどっちなんだ。

そいつらが師範にこっぴどく怒られていると、あることに気付き、道場の方を見る。すると一人、真面目に稽古をしている秋山がいた。

「お前ら、明日の草むしりいつもより働かんと許さんぞ!」

「草むしり?」

気になったので奥さんに訊いてみる。この道場の周辺綺麗に手入れされていて、雑草とか見当たらないからだ。いったいどこの草をむしるんだろうか。

「うちの道場は月一のボランティアで、街の草むしりをしてるんですよ。それが明日で、真司君は『人の役に立てて嬉しい』って特に張り切ってるんですよ。」

あまりあいつのことを知らないオレは驚いた。秋山そんなことしてたのか。

………人の役に立つ、か。

頭の脳裏に、華音の顔が浮かんだ。あいつ、ああいうの好きそうだよなあ。

思わず、こんな質問をしてしまった。

「そのボランティア、部外者も参加できますか?」

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