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最強少年と喪失彼女  作者: 草田林檎
日常編
7/30

ストーカーを追え

「『紅い閃光』?」

その言葉に懐かしさを感じていた私だったが、『紅い閃光』なんて言葉、聞き覚えがなかった。

「華音ちゃんは知らないか。当たり前だけど。林檎ちゃんは?」

「知ってますよ! これでも情報屋ですから!」

お兄さんの秀一さんの方が情報屋っぽいけど。

「今から一年前、とある研究所でビーストが暴れ回ったの。何の研究をしてたか知らないけど。それが初めて出現したビーストで、そのビーストが全てのビーストの始祖って噂なの!」

「でも、『紅い閃光』って名前が付けられたんですか?」

「そのビーストが紅い目をしてたらしいよ~。今、そのビーストが何処に行ったのか分かってないけど、もし近くにいたなら会ってみたいっ!!」

林檎ちゃんが目を輝かせる。それにしても、紅い目のビーストかぁ。蒼い目の拓也さんとは真逆だなぁ。

…拓也さん、今何をしてるのかなぁ。私達がいないことに気付いて、探してくれてるのかなぁ。書き置き、見てくれたかなぁ。

そう考えていたら、二人がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

「な、なに…?」

「わかるよ~。今たっさんのこと考えてたでしょ~?」

「華音ちゃんって分かり易いね~。探偵君が好きなの、すぐ分かったよ?」

私の顔が茹蛸みたいに真っ赤になる。恋愛とか、まだそういうのは分からないけど、とにかく凄く恥ずかしい。

「よし! ならあの探偵君をドキッとさせちゃうようなコーデ、この私が考えてあげよう!」

胸を張る卯月ちゃんに、パチパチと手を叩く林檎ちゃん。

そのまま私は二人に連れられて、色んな服を見て回ることになった。



一通り見て回った私達は、候補に挙がった服の組み合わせを試着していた。今の私は卯月ちゃんの着せ替え人形。でも素人の私でさえ、卯月ちゃんの服のセンスがいいことが分かるので、自分がどんな風になるのか、内心ワクワクしていた。

「…………これ! これで決まり!」

卯月ちゃんが長考の末に考え出した服の組み合わせ。受け取って試着室の中に入った。すると、

「おまえらなぁ、勝手に動くなよ。」

聞き覚えのある声。間違いない、拓也さんだ。

「服に興味があるのは女の子だから仕方ないけど、ストーカーがいるかもしれないんだ。さっさと帰るぞ。」

「待って。今華音ちゃんがとっておきのコーデに着替えてるから。」

「ハァ? なんじゃそりゃ。」

急いで着替えた私だけど、少し恥ずかしいので、ゆっくり、ゆっくりとカーテンを開けた。

試着室から出てきた私を見て、拓也さんは真顔で動かず、ただ私を見つめていた。

「…えっと…あの…どう、ですか?」

「……いや、さっさと帰るぞ。」

無反応というのがどれほど悲しいか、分かった気がする。



着替え終わって拓也さんのところに行く。あの服、結構可愛かったんだけどなぁ…

「拓也さんは、他の服着ないんですか?」

「同じ服とズボンはいくつもあるし、これが一番動きやすいからな。」

そういう問題かなあ。一年中半袖短パンはどうかと思うけど…。

「じゃ、行きますか~。」

卯月ちゃんが先頭を行こうとする。しかし、

「! 危ねぇ!」

拓也さんが卯月ちゃんを抱えて避ける。私と拓也さんの間の床には直線に伸びている溝ができた。

溝をたどってみると、攻撃してきたものはすぐに発見できた。

ビーストだ。サイのような体つきと角を持っている。

そのビーストが拓也さんに角を向けて走り出す。拓也さんは卯月ちゃんを突き飛ばした。そのおかげで卯月ちゃんは攻撃を避けれたが、拓也さんはモロに直撃してしまい、下の一階まで突き落とされてしまった。

「拓也さん!」

一階に落ちた拓也さんを追って階段まで逃げる。拓也さんは一枚のカードを取り出し、機械に通そうとした。

「!?」

が、拓也さんは白い糸で拘束された。一階には、蜘蛛型のビーストがいた。拓也さんはそのビーストが出している糸で両手を縛られている。

「邪魔すんじゃねぇ!」

拓也さんは糸を足に引っ掛けて自分の体ごと一回転させた。ビーストは床に叩きつけられた。ビーストが起き上がると今度は逆向きに回転して床に叩きつけた。それを繰り返すと、途中の糸が切れ、結び目がなくなり、拓也さんは力を込めることで脱出した。

が、拓也さんのところにサイのビーストが向かっていき、二対一の状況になってしまった。

「卯月ちゃん、能力者なんだよね!? 拓也さんを助けて!」

「無理無理無理! あんな化け物と戦ったことないもん!」

「でもビーストには能力者の攻撃しか効かないの!」

私と卯月ちゃんが言い合いをしてると、林檎ちゃんが手をポンと叩く。

「卯月ちゃん、あの歌でビーストを眠らせられない?」

その提案を受けて、卯月ちゃんはしばし考える。

「…やってみるけど……」

そう言って卯月ちゃんは歌を歌い始めた。



サイのビーストと蜘蛛のビースト二体を相手に戦っていると、どこからともなく歌が聞こえる。どうやら上の階からだ。

上を見てみると、何故か歌を歌っている卯月、そして戦闘を観戦している華音と林檎がいた。

「拓也さん! 耳を塞いでください!」

物陰に隠れて華音の言う通り耳を塞ぐ。するとビーストの動きが鈍くなり、その場で動かなくなった。どうやら寝ているようだ。

…多分これで咲と秀一を眠らせたんだろうな。

が、割とすぐビーストは起きた。しかもさっきより動きが俊敏になっている気がする。

「…探偵君、ごめんね。」

「お前ぜってぇこうなるって分かってやったよなぁ!?」

こいつの歌を聴いて寝た奴は、起きたら疲れが取れるようだ。便利な能力だが、この状況では逆効果。

二体の猛攻を搔い潜り、サイの奴に蹴りをいれて間合いを取る。が、蜘蛛の奴が糸を使った飛び道具を放つ。それを避けていたらサイの奴が間合いを詰めてくる。さっきからこの繰り返しだった。

「めんどくせぇ! 一気に片付けてやる!」

──whip──

さっきはデパートの客がいたせいで出来なかったが、今なら派手にやれる。鞭をデパートの最上階、6階にある看板とか柱に引っ掛け、その鞭をサイのビーストの首に巻き付ける。グイッと引っ張るとビーストは6階まで吊り上げられる。上にいるビーストに背を向けて、鞭を少しだけクイッとすると、ビーストの首がキュっと絞まり、動かなくなった。鞭を解くとビーストは6階から一階まで落ちた。

「・・・これ、ひっさ」「それ以上はヤバいよ卯月ちゃん!」

蜘蛛に鞭を引っ掛けようとしたが、逆に糸を絡ませられ、鞭を取られてしまう。すると蜘蛛はオレみたいに上に糸を引っ掛け、ぶら下がってターザンキックをしてきた。ガードしたものの、後方に吹き飛ばされ、食品棚に激突する。

「拓也さん!」

ビーストに背を向ける状態で起き上がったオレに、蜘蛛は同じ手で追撃しようとした。だが、それはもう通用しない。

──thunder──

──spin──

──kick──

──lightning counter──

オレの足が電気を纏う。ビーストは後ろから接近してくるが、オレは動かずに待ち構える。

ビーストが蹴る直前に、素早く回転して後方を向き、ハイキックでカウンターを決める。電撃と凄まじい衝撃によってビーストは吹き飛び、そのまま行動を停止した。

──limit──

二枚の白紙のカードを投げて、二体を元に戻す。手元に戻ってきたカードには、tackleとthreadと書かれていた。

「…帰るぞ。」

頭を掻いて上に言う。その姿は親に無理矢理おつかいを頼まれた子供のようだった。



家に戻ると、そこにはテレビとパソコンを繋ぐ作業をする秀一と、本を読む咲がいた。

秀一はパソコンの画面をテレビに映し、ここにいる全員に見えるようにした。『ようこそ』と書かれたファイルを開ける。そこには、二つの文章データがあった。

『僕は全ての嘘を見通す。そして僕の嘘は誰も見抜けない。僕にはそれだけの力がある。その力で僕は僕のお嫁さんを守る。卯月を守る。彼女に相応しい男は僕だけだ。警察ごときが、僕に敵うはずがない。僕には切り札があるのさ。』

文章を見て、こんな奴に狙われてることを自覚した卯月は、テレビを見たまま動かなくなった。秀一は二つ目のデータを開く。

『彼女に近づくな。これ以上近づくなら、二体の化け物で、お前を殺す。』

と書かれていた。

「これオレのことか?」

だとしたら相手はバカだな。その化け物を倒している奴のことぐらい知っとけよ。

「でも、この『切り札』ってなんでしょうか?」

華音のその問に、オレは大方予想が出来ていた。

最悪だ。やっぱりあの薬、拡散されていたのか。しかもこんな面倒な奴に。

「それで、手がかりはあったんですか?」

「無い。ちょっと色々やってみたけど、特定するのは難しいや。」

「秀一さんは世界最高峰のハッカーか何かですか?」

顔が青ざめていく華音。まあ並みの大人じゃ秀一には歯が立たないことは確かだが。

「だけど、相手の能力は大方予想はついてる。『複数の視点を持つ能力』だ。」

「…なんで分かったの?」

「この前、操られたビーストと戦ったが、視点が第三者の視点だったから、行動がワンテンポ遅れてた。でも、今回のはそれがなかった。だから気付いたんだよ。ストーカーは色んな視点から見てるってな。」

「さすが探偵さん。戦闘中によくそんな観察できるわね。」

「茶化すなよ、感覚で分かるもんだ。多分デパートに手がかりが残ってると思う。」

「何で?」

「勘。こういう変な能力は変な対価があるもんだ。」



デパートに着くと、テレビ局が来ていたり、野次馬を警察が追い返したりしていた。近寄ると新人警官がやってきて、

「君! ここから先は立ち入り禁止だ! 早く帰りなさい!」

無言で警察手帳…の形をした証明書を見せる。これはおやっさんが作った物で、これを使えば無条件で捜査に参加できるものだ。ただし、ビースト絡みの事件だけに限定されるが。

新人警官は固まって動かなくなったので、無視してデパートの中に入った。中はリバイバルの効果で元通りになっており、警察は何もないことが分かると、撤収の準備をしていた。

だが、リバイバルで元に戻せるのはあくまで戦いで壊れた部分だけ。ビーストが暴れる前と同じというわけだ。何かしらの手がかりはあるかもしれない。

床とか壁とかをよく調べてみる。何処も異常は無いように見えたが、壁に手を当ててみると、ビクンと壁が動いた。思わず手を放す。

オレが手を置いた部分にデカい目が現れる。ギョロギョロと眼球を動かし、その後にオレの方を見た。それと同時に床と壁を覆い隠すように、無数の目が発生し、そのすべてがオレの方を見ていた。その気持ち悪さは吐き気がするほどだった。

「悪趣味ってレベルじゃねーぞ…これ使ってストーキングしてたのかよ…」

卯月に同情せざるをえない。こんなのに狙われるとか嫌すぎる。

外から悲鳴が聞こえたので見てみると、外にも至る所に目玉があり、その目玉は街中で目撃された。

……待てよ。

秀一に電話を掛ける。

「どうしたんだい? 調べ物?」

「まあな。今、目玉がそこら中に出現したんだが、この街以外の場所で目撃情報はないか?」

「ツイッターを使えばいくらでも出てくるよ。どうやら沖縄、北海道、京都とかの観光名所、あとあまり人に知られてない店とかにも出てるみたいだ。」

「卯月はツイッターとかで自分が何しているか投稿してたか?」

「いや? SNSはしてないらしいけど?」

「…その店、卯月が知ってないか?」

秀一が卯月に質問する声が聞こえる。しばらく待つと、秀一が弱弱しく声を出した。

「…何で分かったんだい?」

「卯月は知ってたんだろ? あと沖縄とかもツアーか何かで行ってたんじゃないか?」

「…ご名答。さすが名探偵。」

「名は余計だ。ともかく、これでハッキリした。犯人は卯月に親しいやつだ。」

「? 何でそう思うんだい?」

「ツアーの会場だけならともかく、観光名所まであったのなら、そいつは卯月のスケジュールを知ってたってことになる。しかもあまり知られてない店に卯月が行くのを把握してたのなら、卯月と仲がいい奴が犯人の可能性が高い。」

「…だとしたら最低だね。林檎の気持ちが少しは分かった気がする。」

「卯月のスケジュールを知ってる人間なら割り出せるはずだ。できるよな?」

「情報屋、なめないでよ?」

通話を切る。ここですることはなくなったので、家に帰ることにした。



「お帰り。こっちはもう調べ終わったよ。」

「何人ぐらいだ? 数は少ない方がいいが。」

「幸い、三人ぐらいだったよ。プロデューサー、マネージャー、あとプロダクションの社長ぐらいかな。」

「十分だ。後は警察に通報すれば大丈夫だな。」

「…待って。私のプロデューサー、マネージャー、社長の誰かが犯人なの?」

げ。一番聞かれたくない奴が。扉に聞き耳でもしてたのか。

「その二人が捕まったら、明日のライブ、どうなるの?」

「…わからんが、多分中止になんじゃねぇの?」

卯月が絶望に満ちた表情をする。ガシッとオレの両肩を掴んできた。

「お願い! 明日にして! 頼むから明日にして!!」

「わかった! わかったから!! 揺らすな! 揺らすなって!!」

まあ、さすがにライブ会場じゃ犯人も無茶苦茶はせんだろ。…多分。

ライブを成功させようと勝ち鬨を上げる華音と林檎と卯月。我関せずと本を読む咲。面白くなってきた、と言わんばかりの笑みを浮かべる秀一。ため息を吐くオレ。

「でも誰が犯人かまだわかってないわよね? 共犯の可能性もあるし、どうするの?」

「そこなんだよなぁ。どうするか…」

「私に任せて! 秘策があるの!」

胸を叩く卯月。目を輝かせる女子二人に、作り笑いをする秀一。頭を抱える咲。


嫌な予感しかしない。


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