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最強少年と喪失彼女  作者: 草田林檎
日常編
1/30

出会い

ヴーヴーとスマホの通知が鳴る。

その音で目が覚めてしまった。

枕に顔をうずめたままスマホを取る。

目つきの悪い目で画面を見た。

6:00。

8時までに登校の小学生が起きるには少し早い。

どうやらメールが来ていた。

おやっさんからだった。

何故だろう。いやな予感がする。

『俺の部屋まで。今すぐ。』

淡白なメールだったが、大体わかってしまう。

おやっさんがオレを呼び出すなんて、一つしかない。

仕方ないと分かっているが、ため息をついてしまった。

今日も学校は行けないな。

今すぐ、ということらしいので、返事のメールは打たない。

代わりに担任の先生に欠席のメールを打った。

むくりとベットから起き上がる。

ババッと着替えを済ませ、牛乳とパンを口に放り込む。

外へ出ようとしたが、忘れ物に気が付いた。

気合入れの頭にかけるゴーグル。

カードを入れている、腰に取り付けるカードボックス。

それと、左腕に取り付けるガントレット型の機械だった。



メールの送り主のもとに向かう途中、大勢の人達が何かを見ていた。

何だろうか?アイドルでも来てるのか。

遠くから見てみると、石レンガの壁にぽっかりと大穴が広がっていた。

多くの人が何故こうなったのか、と議論する中、オレだけが答えを知っていた。

やっぱりか、予感は的中した。

早く、おやっさんのとこに急ごう。今できるのはそれだけだ。

申し訳ない気持ちで、その場をあとにする。

オレは、バイクを走らせていた。



目的の場所にたどり着く。

警察庁。

何度もここには行っているが、やはりあまり行きたくない。

職員たちの視線が痛いからだ。

いくら特例でバイクの免許をもらったとはいえ、やはり小学生がバイク乗るのは違和感があるのだろう。警察の職についてたらなおさら。

でもオレも遊びで乗っているわけではない。きちんと理由があるのだ。

駐輪場にバイクを止め、鍵をかける。

建物内に入ると、職員が騒然としていた。

何があったのか、なんて聞かなくても分かる。

オレはおやっさんの部屋に向かった。

警察庁長官。それがおやっさんの役職だった。簡単に言えば、警察で一番偉い人だ。

普通なら、そんな人は多忙の毎日を送っているはずである。少なくとも一般の人が抱くイメージは大体そんな感じだろう。

が、おやっさんは全くそんなことはなかった。

部屋に入ると、書類を整理する秘書さんと、野球を見ながら将棋の本を片手に持ち、将棋の練習をするおやっさんがいた。

「おい、仕事しろよ。」

おそらくこの光景を見た人全員が言いたいことを、オレが代表して言ってやった。

オレが来たことに気付いたおやっさんがこっちを向く。

「おー遅かったじゃねぇか。」

「あんたはちったあ部下を見習ったほうがいいと思うぞ。」

なんで国家公安委員会はこの人を選んだのか。理解に苦しむ。

秘書さんがようやく書類整理を終えたのをおやっさんが確認すると、本題に入るようだ。おやっさんが重たい腰を上げる。

来客用のいすに座り、いすの前のでかいテーブルには書類が広げられた。

「ま、大体お前も分かってるだろうけど、一応説明をするからな。」

おやっさんが指差した書類は、地図だった。オレが住む街が細かく記されている。ところどころに赤い丸で印が付けられていた。

また、その隣には写真がある。ポストや信号機、あとは車など。どれも無残に粉々にされていた。

「最近確認された、明らかに何者かに破壊された建造物とその場所だ。」

「・・・どれも赤い色してんな。」

壊された物は全て赤い色をしていた。信号機は緑と黄色の部分は壊されていない。車も、赤色の部分以外を狙って壊した痕はない。

・・・まあ、破壊力が高いので大体のところが壊されてるけど。

「ああ、俺の推理通りだとすると・・・今回のやつは牛型のやつだ!」

いや、たぶん百人中の全員が同じ推理をするだろうよ。

秘書さんが冷静に話を進める。

「そしてここが、奴の行動範囲、攻撃目標などを踏まえ、市民に危害がないと考えだされたポイントです。」

秘書さんが指さす地点は、今はつぶれた廃工場だった。

たしかにここなら誰かが傷つく心配もないだろう。距離もここからそんな遠くない。

「それじゃ、いつも通り頼んだ。」

そういうと、おやっさんは野球観戦に戻ってしまった。

ほんと、よく長官になれたもんだ。

駐輪場についたオレは、頭に乗せてあるゴーグルを首元に下げ、フルフェイスメットを被る。

バイクで走りだした。



バイクで廃工場に向かっていたら、あることに気が付いた。車が一台も通らない。

おそらく工事だとか言って通行止めをしているのだろう。一般人が巻き込まれでもしたら大変なことになる。

廃工場についた。

オレがここで待っていれば奴は自分からこっちに来る。

それがわかっていて、警察はこの場所を選んだのだ。

外に被害が出ないように、工場の中に入ることにした。

錆びた鉄の扉を力をいれて開く。

そしてオレの視界にはいったのは──



花畑だった。

ポカンとした顔であたりを見渡す。

色とりどりの花が満開に咲いていた。それはまるで、天国だとか、桃源郷、楽園のように。

中には冬にしか咲かない花、夏にしか咲かない花などもあった。

待て、落ち着け。よく考えろ。

ありのまま今起こった事を整理するんだ。

オレは警察が指定したポイントに向かった。そしてその場所、この廃工場にたどり着いた。で、外に被害を出さないように中で待つことにした。扉を開いて入ったそこには、花畑が広がっていた。

な、何を言っているのかわからねーと思うがオレも何があったのかわからない・・・

いや、だから落ち着け。オレは時を止める吸血鬼に襲われてない。

だが、どう考えてもこの空間はおかしい。花の下に土なんてなく、コンクリートの床だ。

じゃあなんでこの花たちはこんなにも元気に咲いているんだ?あまりにも謎が多すぎる。

そんなことを考えていると、奥のほうが微かに動いた気がした。

虫か?そういやこんだけ花が咲いてるのに蜂が一匹もいない。

誰も廃工場になんて行かないから、水やりなんてのもない。

しかし、毎日水をやらなければいけない花が満開に咲いている。

同じ場所がまた動いた。

誰かいるのか?

用心して近寄ってみる。なるべく足音がならないように。

怪しく動くところにいくと、そこには、女の子がいた。

オレより少し背が低くそうで、白に近い金髪の長い髪をしていた。仰向けに寝ており、彼女の周りを花が守るように咲いている。

衣服はとてもきれいで、白のワンピースを着ている。傷らしきものも見当たらない。

その子は人の気配に気が付いたのか、ゆっくりと瞼を開け、腰を起こした。まだ意識が朦朧としているようで、焦点があってない目でこちらを見る。

しゃがんで女の子を見ていたオレと目の高さが合う。

どうする。こういう時、どんな感じで話かければいいのかわからない。

すると、女の子のほうから話しかけてきた。

「・・・あなた、誰ですか?」

それはオレが一番聞きたいことなんだが、それはあちらも同じだろう。でも今は会話している暇はない。

「誰でもいいだろ。そんなことより、ここにいたらヤバいから早くどっかいったほうがいいと思うぞ。」

何を言っているのかわからない、といった顔でこちらを見ているが、説明する時間がない。もしもあいつがここに来たら・・・

噂をすればなんとやら。オレの背中のほうにある工場の壁が物凄い轟音をたて、粉々に砕けちった。

オレと女の子は目撃する。大きな角を頭に頂き、明らかに人間離れした屈強な腕と脚、そして全身が緑と黒のおぞましい鎧のようなもので覆われた体。

自身が持つ力を制御できなかった人間達の成れの果て─

オレと警察、そしてこいつを見た人は目の前の化け物をこう呼ぶ。

ビースト、と。

牛のようなビーストがオレ達二人を見つけ、咆哮を上げる。

大きな角を向け、オレ達の方へ突っ込んできた。

とっさに女の子を抱えて横に避ける。角が壁に突き刺さった。ビーストは乱暴に角を抜く。ビーストはまたもこちらを向いた。

「ここから逃げろ!早く!」

女の子に大きな声で言ったが、女の子は動かない。

いや、動けないのだ。脚が動かないと女の子は言った。

ビーストには厄介な性質がある。普通の人がビーストの近くにいた場合、心体に影響が出てしまうのだ。

軽いものならこの子のように脚が動かなくなるぐらいで済むが、中には体がビーストのように変化したり、精神が崩壊したりする場合がある。

この子もその影響を受けてしまったのかもしれない。もしくはただ単に怖くて脚がすくんで動けなくなったかもしれんが。

オレが女の子のほうを見ていると、ビーストはジャンプして拳をオレに向けて叩きつけてきた。

女の子を抱えてまたも避けることができた。

ビーストの拳は地面に当たった。当たった地点を中心にコンクリートの床が割れる。あんなものを喰らったらひとたまりもないだろう。

オレの選択肢は一つしかなかった。この子を守る。やるしかない。

女の子をおろし、ビーストを睨む。

「ここにいろ。」

女の子は心配そうにこちらを見る。なんて声をかければいいのかわからないのだろう。

カードを一枚取り出しながら女の子を安心させるため、できる限りの言葉を出す。

「大丈夫だ。」

ビーストが拳を構え、こちらに突っ込んでくる。

「オレが絶対、なんとかするから。」

取り出したカードを左腕の機械に通すのと、ビーストが拳を振り下ろすのは同時だった。

左腕の機械─スキャナーがカードを読み上げる。

──sword──

電子音声が響くと共に、ビーストの拳は止まった。

いや、止められていた。オレとビーストの拳の間には剣があった。

白く、無地で、中央に持ち手がある薙刀状の光の剣。

その剣でビーストの拳を受け止めると、どてっぱらに一発蹴りをかました。

ビーストは怯み、少し後ろに退いた。オレはその隙を逃さない。剣を振りビーストを斬り付ける。確実に攻撃は効いていた。

剣を振るというよりは、回して連続攻撃をする。相手に反撃の隙を与えない。

ビーストはいったんオレと距離をとり、大ぶりな攻撃から確実に当てるためのラッシュに切り替えてきた。

だが、状況は好転しなかった。オレは最小限の動きで回避、ガード、受け流す。

そうやってできたビーストの隙を狙い、一撃を喰らわしたあと、畳み掛けるように剣での連続攻撃をした。ビーストにとって、嵐のような時間を作り上げる。

ビーストはその攻撃で大きく吹っ飛ばされた。かなり弱っている。

「もらった!」

またカードを取り出し、スキャナーに読み込ませる。

──kick──

剣をポイッと捨て、右膝を曲げ、右腕の肘も曲げ、手首を右足の太ももに乗せる。腰をおろし、左足を後ろに伸ばす。

この実に楽な姿勢をとり、左手をスナップさせた。

右足に剣と同じ白いエネルギーを纏い、オレの両目が鋭く光る。

その体勢からビーストに向かって走り出す。途中で思いっきりジャンプした。

空中から舞い降りながら、全体重をのせたキックを放つ。

右足に纏ったエネルギーが変化し、螺旋状になり、オレの足の先端と白いエネルギーの先端が重なる。

その蹴りを叩き落そうとビーストは角を突き立てた。

オレの蹴りとビーストの角がぶつかり合う。

「だああぁぁぁ!!」

気合の雄たけびと共に、ビーストの角は折れ、胸元に蹴りが命中する。

ビーストは耐え切れず仰向けになり倒れた。

二枚のカードを取り出し、そのうち一枚をスキャナーで読み込む。

──limit──

もう一枚の何も書いてないほうをビーストに投げた。ビーストの胸元に刺さり、徐々にビーストが人に戻っていく。

ビーストが完全に人に戻ると、投げたカードが戻ってきた。そこにはこう書かれてあった。

punchと。

オレはカードを確認し、女の子のほうを向く。当然だが、女の子はポカンとしていた。

・・・なるべく一般人を巻き込みたくなかったんだがなぁ。

おやっさんに終わったことを伝え、女の子がいることを知らせた。

通話を終わらせ、頭をボリボリと掻いて、女の子のほうに近寄る。

「・・・お前なんでこんなとこにいるんだ?」

さっきの質問に答えもせず、こんなことを訊いて悪いとは思うが、それでも訊かずにはいられなかった。こんな場所にいなけりゃ、この子はあんな怖い思いをせずに済んだのだから。

女の子は困惑しながら質問に答えようとする。いろいろ考えてるのだろうか、頭を抱えだした。

そしてオレの方を向き直り、口を開いた。

「・・・わかりません。」

え、ここで何かやってたんだろうか。それを秘密にする理由を知りたい。

「ここで何かやってたのか?」

またも女の子は頭を抱えて、

「・・・わかりません」

と答えた。

・・・何が変だ。この子は何も隠していなさそうに見える。

「・・・自分の名前、言えるか?」

せめて名前を訊こうとしたが、次の答えでオレは確信した。

「・・・わかりません。」

この子──記憶がないんだ。

所謂、記憶喪失ってやつだろうか。

ますます謎だ。この変な花畑に記憶がない少女。どう考えてもおかしい。

いや、そのことは後でいい。今はこの子をどうするかだ。

・・・とりあえずこの子にビーストの影響がないか検査するために、病院行くしかないよなぁ。

だけど名無しだと不便だ。失礼だけどなにか名前を付けないとな。

「・・・なあ、名前がわからないなら、オレが名前付けてもいいか?」

その子はきょとんとしたが、コクリと頷き了承してくれた。

さて、どうしたものか。仮のとはいえ、人の名前だ。変な名前付けるわけにはいかない。

女の子だし・・・花?花がいいかな。

きょろきょろといいのはないかと見渡す。向日葵、紫陽花、アネモネ・・・

だめだ。いいのが全く思い浮かばない。

そんなとき、一つの花に目が行く。こんなに花が大量にあるのに、ただ一つ、一本しか咲いてない花があった。

サーモンピンクの美しい一輪の薔薇。

その花はいままで見たこともない花。だけどなぜかオレはその花の名前を言えた。まるで最初から知っていたかのように。

「・・・花音・・・」

何故だろうか。まるでいままで呼んでいたかのようにしっくりくる。

そうだ。花音がいい。ただそのままだとひねりがないな。華音にしよう。

「華音でいいか?」

「華音・・・ですか?」

女の子は自分に付けられてようとしている名前を何度も呟き、オレの方を見た。

「華音・・・はい、華音がいいです!」

どうやら気に入ってくれたらしい。

オレは華音に手を差し出す。華音はその手を掴んで立ち上がった。

なぜだろう。オレはなぜかずっとこうしてたい気がした。離したくない。ずっと一緒にいたい。なぜか心がそう叫んでいるように感じた。

オレは繋いだ手を強く握りしめた。華音もそれに応えて強く握った。出口から差し込む光が眩しい。

それでもオレ達はその光を目指して歩き出した。


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