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Ablity User  作者: ユウジュ
2/2

Episodo 2 崩壊

 

俺はずっとやりたいことをやって人生を歩んできた。

 学生時代には己の欲望を全て叶えるべく、ありとあらゆる手段を用いた。

 更に俺は、高校生時代にアビリティを発現。それは更に俺の欲望を満たすための、強力な武器となった。

 そして今、俺は快楽の最中にいる。

 

「助けてくれ!!」

 

人通りの少ない路地裏。そこにいるのは俺を含めて二人。もう一人は俺の眼下に映る、尻を着いて這いずり回る三十代ほどの男である。

 男の身体のいたる箇所にはナイフが突き刺さり、周囲の地面には血が大量にこびりついていた。

 辺りを包む、鼻をつくような鉄の臭い。

 

「ギャハハハハ!」


 これは堪らない。どんなギャンブルで勝った時よりも、どんな女と寝た時よりも、得難い快楽が俺を満たす。

 俺は人が死を目前に恐怖する瞬間が、何よりも魅力的に映るんだ。

 

「ゴホッ……!お願いします!!もう助けてください……!」


 後ずさりを続け、ついに壁を背にしてしまった男は吐血しながら懇願する。縋るよう目を向けて、ハイと聞く奴がいるのだろうか。

 

「まっ、しょうがねぇな。もう飽きたし帰っていいぞ」


 俺は全力で笑いを堪え、両手に持った数本のナイフを舐めた。この漫画等でよく見る動作だが、殺人鬼らしくて俺は気に入っていた。

恐怖に染まっていた表情が僅かに和らぎ、何とか男は傷だらけの状態だが立ち上がる。

 

「ヒヒヒヒヒ」


 目の前を通り過ぎ、俺に背中を見せた男に再びナイフを振りかざす。

 一縷の希望が見えてきたところで、再び絶望させる。その瞬間のために俺は生きている。


 「あっけないねぇ……」


 未来永劫動くことのない肉塊と化した男を横目に、俺は煙草を取り出した。火を点け、一吸いで一気に肺の奥まで煙を送りこむ。


 「うめぇ……」


 先程までの興奮は一瞬で嘘のように消え失せている。俺は恐らくこれからも、あの一時の快楽に身を任せて生きるのだろう。

 身体にこびり付いた血を拭い、その場を後にするべく踵を返した。

 しかし、そのタイミングで近づいてくる足音を俺は聞き逃さなかった。かなり急いで近づいてきている。それは偶然この道を通りかがった者ではなく、明らかにこの場を目指して向かっているのは間違いない。


 「ちっ……!」

 思わず出た舌打ち。俺の視線は路地裏の真横にある二階建てのアパートに向けられた。しかしアパートといっても既に二階の部分は倒壊し、一階も半分以上が崩れた二階の下敷きとなって原型を留めていない状態である。


 そういえばこれを壊してしまったせいで、余計な音を立ててしまっていた。接近して来ている者がユニットの奴等だとしたら、かなり不味い。早々にこの場を立ち去る必要がある。

 いくら俺でも対人のエキスパートであるユニットに敵うはずもないだろうから。


 だがしかし数秒後、そんな俺の不安も杞憂に終わった。曲がり角から現れたのは二人、それも学生服を纏った子どもだ。

 口角が上がるのを抑えきれない。さぁお楽しみの時間の再開だ。


 俺の中に再び気持ちが昂ぶっていくのを沸々と感じていた。




 「何だよこれ……」


 非日常のような、漫画のような、日常ではあり得ない光景が眼前には広がっていた。

 シキは明らかに狼狽しながら二三歩後退りをし、僕も同じように連られて後ろを下がる。

 急速に喉が渇き出し、額からは嫌な汗が大量に伝い落ちる。興味本位で行った場所でこんな場面に出くわしてしまうなんて考えもしなかった。


 視線の先にあるのはうつ伏せで横たわる男性。背部にいくつもの刺し傷があり、血だらけで白いシャツが赤黒く変色してしまっていた。そしてその傍らに一人の男性が立っている。外見は無数の無精髭を蓄えた二十代後半ほどで、その手には一振りのナイフが握られている。

 刀身は赤く染まっており、切っ先から少量の赤い液体が滴り落ちて無機質なコンクリートの地面に赤い血溜りを作っていた。


「君達は中学生かなー?」


 煙草を吹かし、男は狂気染みた笑みを浮かべる。


「……!」


 喉がカラカラで声が出ない。これが恐怖なのか、足が地に根付いてしまったかの如く動けなかった。


「ハク、落ち着け……」


 シキは男から目線を外さず、小声で呟いた。彼も恐いのは一緒なはずだが、その一言は僕に僅かばかりの冷静さを取り戻させてくれた。


 相手に悟られず、落ち着いて周囲を観察する。まず把握できる情報といえば辺りに人の気配はなく、他の救助も見込めないということだ。唯一真横にアパートがあるが、完全に倒壊してしまっている。先程聞こえた音は、このアパートが崩れ落ちたものだろう。


 となれば自らの力で逃げるしかない。そう考えると、自然と男の持つナイフへ視線が向いた。

 武器はナイフだけなのだろうか。今の時代、アビリティユーザーの増加に伴って、許可を申請すれば成人以上の人に銃の所持が認められているのだ。奴が銃を所持している可能性はあり得る。


「あら?無視かな?君達こんなところに来ちゃうとは運が無かったねぇ……」


 男が一歩こちらに近づいてきただけで、再び空気が張り詰める。心臓が五月蠅く震え、呼吸がやや荒くなるのを実感した。

 息が詰まるような空間。酸素が薄い訳でもないのに息苦しい。


「あぁぁ……若い子は久しぶりだなぁ……」


 男は僕達を見定めるかのように、上から下まで舐めるように見回す。同時に右手から微かに金属が擦れる音を発し、その時に新たなナイフが握られているのに気が付いた。

 先程から手にあった血濡れのナイフを含め、その数は四本。銃は取りあえず持ってないと判断して良いのだろうか。


 お互いの距離は七メートル程。足さえ動けば逃走可能かもしれない。

 武器がナイフのみなのであれば、僕とシキで

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