秋の編入生①
『あの、すみません…。』
その男の人は、声優になれそうな声で僕達に話しかけてきた。
この声、どこかで聞いたような気もするなぁ…。
「はい。どうしました?」
『あっ、リンドウ大学まで行きたいんですけど…。道に迷ってしまって…。』
海のような青い目に、整った鼻筋、芸能人にスカウトされそうな程、格好良い。
声だけじゃなくて、顔まで格好良いとは…羨ましい。
「僕達も、リンドウ大学なんです。
ご案内します。」
『一緒に行きましょう。』と彩織ちゃん。
『ありがとうございます。』とその人は、お礼を言って僕の傍に近付いて来た。
何か、すごく近い気がするけど…と思っていたら、耳元で小さくこう言った。
『結月、Bloodだ。』
「なっ…ブ…」
『俺の名前は、アダムと言います。』
僕が、Bloodと言おうとしていたら…大きな声で遮られた。
だって、今日は青い目だし、いつもより格好良く見えて分からなかったんだ…。
僕の左側にいた彩織ちゃんは、びっくりしていたけど…『格好良い名前ですね。』と笑顔で言った。
話す話題を探していたけど、思い付かなくて…無難な事を聞いてみた。
「アダムさんは、今日からの編入ですか?」
『はい。天体学部に入ります。』
『結月くんと同じだね!!』と嬉しそうな彩織ちゃん。
僕には、不安しかないよ…なんて言えず、頷いた。
『あっ、だけど…こんなに可愛い子がいるなら…あなたと同じ学部に…』とニヤニヤしているBlood。
「駄目です!!彩織ちゃんは、僕の彼女ですから!!」
全く、冗談でもそんな事言ったら許さないぞ!!
ニヤニヤしてるし、ムカつくなぁ。
『結月くん…。』
『冗談ですよ…。怒らせて、申し訳ないです。教授に挨拶するので、ここで…。』とBloodは、行ってしまった。
その後ろ姿を見ていたら、彩織ちゃんが嬉しそうにしていた。
『結月くん、ありがとう!!』
「えっ…?」
『“僕の彼女”って言ってくれたの、すっごく嬉しかった…。』
「いや、そんな…。」
Bloodのお陰で、彩織ちゃんに喜ばれるとは…思わなかった。
その後も、2人で話していたら、ピアノと楽器が並んでいる部屋が見えてきた。
『あっ、ここまでだ。送ってくれてありがとう。またね!!』
「ううん…。また後で。」
彩織ちゃんと別れた僕は、Bloodと話をしないといけないな…と思いながら天体学部へ向かった。




