帰り道
「彩織ちゃん、ごめん…。」
僕は、帰り道にそう呟いた。
さっきまでの、血を見たい想いは嘘のようになくなっていた。
『さっき、大丈夫だった…?』と肩を落として聞いてくる彩織ちゃん。
せっかく、ピアノコンクールで優勝したのに…こんなに暗くさせてしまって…申し訳ない。
「うん。ちょっと、寝不足で…。」
『あっ、この間言ってたレポート?』
レポートは、ずいぶん前に終わっている。
彩織ちゃんは、学年が1つ違うから詳しい事は知らない。
「うん…。レポートが難しくて、中々終わらなかったんだ…。」
この間から僕は、嘘ばかりついている。
大切な人に嘘までついてしまう僕は、最低だ…。
『そうなんだぁ。1年生のレポートより、難しいんだね…。私も、来年は頑張らなくちゃ…。』
「そうだね…。あっ、家着いたよ。」
『わざわざ送ってくれて、ありがとう!!』
彩織ちゃんを1人にする事は、出来ない。
また、あいつが襲ってきた時に…助けてあげられないから…。
「これは、僕の役目だよ。あっ、コンクール…おめでとう。」
『ありがとう!!じゃ、またね!!』
「じゃあね…。」
手を振りながら、彩織ちゃんは家の中へ入って行った。
それを見届けた僕は、あの人を呼ぼうと考えていた。




