Mission 2 素晴らしき国際科
早朝隠れんぼがあってから数日、平穏だが相変わらず王様ゲームが続かれていた。
内容は、少しソフトに変更。
そんな中、今日から新しい教師が来るらしい。
それも外国から遙々と。
「井上から聞いたんだけど、新しく来た先生ってウチらのクラス担当らしいよ」
学校に来る前に、駅近くのコンビニで買って来たパックのジュースを飲んでいる荻野が、クラスで話題になっている新任教師のことを話し始めた。
「へぇ‥このクラスなんだ」
「どんな先生なんだろうね」
「メガネでカッコいい人だったら‥」
「またメガネか?!」
「まぁーまぁーケンカふっかけない」
「増田も現実見なさない」
いつもの六人、田中の机に集まって外国先生について自分達のイメージを膨らます。
授業のチャイムが鳴り、自分の席に着くと英語の先生である井上が入って来た。
「みんなも知ってる通り、今日からもう一人先生が増える‥紹介するぞ」
教卓に教科書や名簿を置いて廊下に向かって手招きをすると、先生らしき人物が入って来たのだが…
「ハーイ、ヘイデンデェス」
「!!?」
入って来たヘイデンと言う名の人物を目を見開いて増田は無言でガン見している。
「オイオイ…見すぎだって」
小城が呟き笑いながら頬杖をついて増田を見た。
「…前髪Mじゃん…」
ガン見していた増田はガッカリして、つい口走る。
「何言ってんだ!」
隣の席である岡田が勢い良く振り向き驚く。
「だって、マジでMじゃん!それともマックか?」
前から二列目に座っているため、小声で喋っていても聞こえているだろうと思われる。
「ヘイデン、いつもの事だから気にするな〜」
「ハ…ハイ、ワカリマシータ」
いつもの出来事に慣れている井上は名簿を開くと出席確認をし始めヘイデンはビクビクしっぱなしだ。
「キャシーはあの先生どう思う?」
「え?どうかな‥キショイ」
窓際の席で前後同士の萩野と山根は遠目でヘイデンを眺めて、すぐに目を反らす。
「唯ちゃん‥本当にMっぽいよ」
「確かに…何かね」
一番後ろの席の小城と田中もヘイデンを見て不評のようだ。
他の生徒は、全くそんなことを思っていないが、この六人には微妙らしい。
「今日は自己紹介をしてもらうから、十分で考えろ」
チョークを持って黒板に英語で自己紹介と書く井上に回りはざわめく。
「自己紹介ね…簡単に何が好きかとか名前とか得意教科とか?」
「そんな感じじゃん?」
顔の痛みが引いた増田が椅子の背もたれに寄りかかり頷き開いたノートに箇条書きで自己紹介を書く。
「まず、仲良くなりたいって思わないしね」
足を組んで鼻で笑いサラリと毒舌を吐いた。
あっという間に井上から時間を与えてもらった十分が経つ。
「出席番号順で自己紹介を始めるぞ」
井上はクラスの名簿を開いて自己紹介の順番を指定してきた。
男子から初めて終わりは…増田だ。
「アイツが最後って…」
「すごく不安」
山根と萩野が不安そうなな表情をして、自分達よりも前の席に座って居る、ある意味問題児の増田を見つめる。
心配しているのは、この二人だけではなく小城と田中もそうだ。
「お願いだから授業だけは、まともなことを言ってもらいたい…」
「増田だからね‥どうかな」
この二人も不安気に前の席に居る増田を見つめた。
心配の原因である増田はと言うと…
「‥‥‥」
やることをやって、自分の番が一番最後と言うことで、また自分の世界へどっぷり浸かっている最中。
「うわ…隣にいるせいで妄想が丸見えだわ‥」
ノートに書き終わった岡田が隣を振り向くとピンクや紫色が混じった複雑なオーラが増田から発生しているのが見えた。
「どんだけ…ニヤけてるし」
顔を見ると、やっぱり口が開いてて想像している内容がもろ分かりやすい。
ちなみに増田の妄想はこうだ。
黒縁メガネをかけてスーツを着た誠実そうな男性や、メガネをかけて白衣を着た優しそうな男性、これまた黒縁メガネをかけたカフェにいるようなギャルソン風の大人な男性とイケメン揃いを色々な内容で妄想しているのだ。
「ぁ…ヤベッ、萌える…ぶっ!」
自分が妄想していた内容にハマってしまったのか足をバタバタさせて机を両手で叩き始め
た。
「…学校だけど、警察でも呼んで捕まえてもらおうかな」
だんだん不愉快になってきた岡田は、また教科書で顔面を叩きつけ黙らせた。
「いてぇ…カン何すんのさ」
また叩かれて現実の世界に引き戻されると不満そうに眉を寄せて鼻をさする。
「はぁ…もうマジで捕まっちゃえ!」
「え?何で?何で?何で?」
「ウルサイっ」
岡田は思い切り眉間にデコピンをすると机を離しそっぽを向いた。
「ウルサイって…何でなん」
未だに自分が仕出かしたことに対して岡田が怒ったないように気付いていないようだ。
自己紹介も女子の番になって、岡田、小城、田中、萩野、山根と進んでいった。
田中成サイド
大丈夫かな…日常茶飯事だけどカンちゃんとモメてたみたいだし…
今日ばっかりは何言い出すか想像つかないや!
妄想が大好きとか得意ですなんて言ったら、今よりもクラスから浮いた人になっちゃうよ…
嘘でも良いから普通の人らしいことを言って!
山根香代サイド
正直、ちゃんと発音出来てたかなんてことよりも増田さんが心配!
問題発言をしそうな予感がしてしょうがない…
言いそうになったら岡田さん、増田さんをお願いします!
小城唯サイド
さすがに妄想とか言い出さないよね…
言い出したら、友達やめそうだなぁ…
M野郎に「アナタモ、モウソウ、デスカー?」とか聞かれたくないし。
妄想族と一緒にされたくない!
萩野カナサイド
増田!妄想の『も』の字も出すなよ!
出したら‥‥フフフフ。
岡田奈緒サイド
言い出したら顔面に教科書で済まさない…絶対に校長と絡ませてやらぁ!
増田の性格や趣味などを良く知るクラスメート達も自己紹介に冷や汗。
教師の井上でさえも多少心配しながら名簿を開き、増田を伺う。
さぁ…ある意味危険な人物の自己紹介の始まり始まり…
※日本語ですが、英語で話してると思って下さい。
「え…っと、増渕智美です」
名前はクリア、次は…得意教科か?
「得意な教科は文系、美術、家庭科、音楽」
ヘイデンは増田の自己紹介を聞きながらプリントに自己紹介の内容を書き込んでいく。
「あの子、何気に得意教科が多いのね」
後ろの席の小城がボソリと呟き、田中が小さく頷く。
どうやら得意分野などは知らなかったらしい。
「アタシの趣味は…」
来た!
来たよ!
一番の心配なネタがっ!
ペンを走らせる音がやみ、教室も一瞬にして静かになった。
「趣味は…」
教室全体に緊張が走る。
「読書、音楽鑑賞です‥以上」
増田の紹介が終わり、椅子に座ると同時に緊張の糸が切れ…
「「よっし!!」」
「ビクッ!」
増田を抜いたクラスメート全員と井上が机や教卓を勢い良く叩き、ヘイデンは思い切りビクッと反応させる。
「はぁ…増田が変なこと言ったら自宅謹慎させようかと思ってたから安心したよ」
安堵した井上はにこやかに笑い名簿を閉じた。
「あたしも友達やめようかなぁって思ってたから良かったわ」
椅子に寄りかかり溜め息を吐く小城。
「やれば出来る子ね!」
「本当に!安心したよっ」
一番まともな褒め方をする山根と田中。
しかし、萩野と岡田は…
「「校長の餌食にならなくて助かったね」」
‥‥ガタブルもんです。
だって、真っ黒い物体が背後に見え隠れしてるんだもん!
つーか、笑顔なのに恐い!
物凄く黒い!
あれだ、あれ、魔王とドSの微笑みは心身に害がありそう‥って言うか、あるだろ?あるんだろ?
ねぇ…魔王様‥
「フフフ」
「はははっ」
痛い痛い痛い痛い痛いっ!
胃…胃がギリギリしてきた!
え?ちょっ、コイツら平和に終わらす気ないだろ?!
「ないわよ」
「当たり前じゃん」
クソだ!
しかも何気に心の中の質問に答えてんじゃねぇよ!
こんなキャラじゃなかっただろ!?
「フフ、気にするとハゲるわよ」
「むしろハゲになっちゃえよ」
いやいやいやいや!
本当に恐いから!
「い…っ、井上っ!」
とっさに前にいる井上に助けを求めようと名前を呼んだが‥
「今日の授業はここまでだ、早いが休み時間にしていいぞ」
無視された。
「さてと‥休み時間みたいだし」
「お仕置きでもしようか」
岡田と萩野が椅子から立ち上がり寄って来た。
「え?マジ?何で?」
パニクる増田は疑問符を頭にいくつも浮かべ二人から離れようとする。
「あんたウチらのこと魔王だのドSだの言ってたよね?」
言ってましたさ『心の中』で!
「だからよ」
ニヤリと黒い笑みを浮かべた岡田は増田の左肩をガシッと掴み押さえつけ
「まぁ、口に出しても同じだけどね」
萩野も岡田に負けず劣らずの黒い笑みを浮かべ右肩を掴み押さえつけた。
お母さん‥
娘は魔王とドSに捕まりました。
自宅に帰ったら何も聞かずに慰めてください。
「「増田」」
「い…嫌だぁぁぁぁぁぁ!」
授業終了のチャイムと共に増田桂の悲鳴が響く。
他のクラスの生徒達は青冷め、教師は無言に…
今日の授業はここまで!
君ノ塚学園は、今日も平和でした。