二日目の朝
前回のあとがきでライオンさんと特訓と書きましたが、なにやら違う方向に。
ですが割と戦闘描写が入ってますので、そこそこ楽しめるかと
稚拙な文ではありますが楽しんでいただけるとうれしいです
異世界での1日が終わり、意外にもあっさりと寝床を得られたコウはしっかりと休むことができた。
異世界二日目となる朝、窓から差し込む朝日に目を覚ましたコウは、体を伸ばし、寝ている間に固まった体を軽くほぐす。
そして元の世界で日課であった鍛練を行おうとするが、さすがに高そうな調度品がある部屋の中ではまずいかと思いなおしたコウは、窓を開けて外の空気を吸うことにする。
すると窓の外は館の裏手で、かなり大きな広場となっていた。
そして端っこのいたるところに木偶人形などが立っており広場の向こうには館に負けず劣らずといった大き目の建物があり、どうやら館の裏手はいざという時すぐに駆けつけられるように騎士、兵士の訓練場、兵舎のようなものになっているようだ。
そして今現在、広場の中央に昨日会ったライオンヘッドもといアーネスト騎士団長がおり、その前にずらりと兵たちが並んでおり、何やらアーネストがしゃべっているようだ。
昨日会った時の陽気な笑い声は聞こえてこず、何やら真剣な表情であり、さすがは騎士団長という貫禄があるようで、兵士たちはぴしりと姿勢を正し、こちらも真剣な表情で話を聞いているようだ。
「ちょっと端っこ使わせてもらおうかね・・・」
コウは日課となっている鍛錬を行うために、窓からひらりと飛び降りて、アーネストに近づいていく。
「おっさん、話し中悪いがここの端っこで鍛錬してもいいか?」
「む、おお、おまえさんか。話もひと段落したしかまわん。好きに使うといい」
「それじゃ、遠慮なく」
許可を得たコウはアーネスト達から離れ、基本的な突き、蹴りの動作から始め、体が温まってきたら型を始める。
日課分の型をこなし、一息つくころには身体が熱を持ち、軽く汗ばんでいた。
そしてクールダウンにストレッチをしていると、アーネストが近づいてきており、その後ろにも何人か従えていて、コウの鍛錬を見ていたようだ。
きりがいいところでストレッチをやめるとアーネストが話しかけてくる。
「おまえさんの鍛錬は不思議な動きをしているな?それに武器は使わんのか?」
話しかけてきたアーネストのほうを向き、コウは答える。
「昨日も言った気もするが、俺は身体一つで強くなるってのを信条にしている。武器が使えないわけじゃないが、やはり一番信用できるのは己の身体だ」
コウの言葉に、アーネストの後ろについてきたうちの何名かが馬鹿にする感じで声をかけてくる。
「はん、聞いた話じゃ強いらしいが武器を使わないとかただのバカのようだな」
「まったくだな、話を聞いて期待していたが、どうやら期待外れのようだ」
どうやら騎士団に入ったことで気が大きくなっている馬鹿どものようだ。
アーネストのほうを見ると何やらこちらを見ながら頷いている・・・どうやら伸びきった鼻っ柱を折ってほしい連中のようだ。どこにでも増長するバカはいるようで、嘆かわしいね。
おそらくアーネストが叩きのめしても騎士団長に負けるのは仕方がないと思っているのだろう、そこをふらっとあらわれた俺に白羽の矢が立ったのだろう。
昨日のやり取りだけで随分と評価されたものだ・・・あまり使われるのは好きではないが、これからしばし世話になるのだし、期待に応えるとしよう。
「おっさんの騎士団に入っただけで、自分まで強くなったと勘違いしてる馬鹿にはわからんだろうよ」
と軽めの挑発を入れてみると、
「なにぃ!?貴様ぁ痛い目を見たいようだな!俺自ら相手をしてやるよ!」
あっさりと釣れた・・・森にいた山賊といい馬鹿は簡単に釣れるな・・・しかし、1対1では面白くないと思った俺は追加で挑発する。
「ふっ・・・一人でいいのか?まぁ、一人なら負けたときの言い訳も聞くだろうしな、俺はかまわんよ?」
思いっきり小ばかにしたように鼻で笑い、かつ底辺のごみを見るかのようにおっさん以外を見やると、
「この野郎!団長に認められたからっていい気になるなよ!おい!この勘違い野郎をぶっ飛ばすぞ!」
「おお!俺たちを馬鹿にしてただで済むと思うんじゃねぇぞ!」
などなどいっぱい釣れるな、まさに入れ食い状態だ・・・。
そもそも沸点が低すぎる・・・よくこんなので騎士団に入れるね、やっぱりコネかなんかかね?お坊ちゃんらしい連中のようだしな。
さらに言えば無手の相手1人に対して2、4、6人か・・・うち一人は何やら様子が違うが・・・攻撃するのは騎士団としてどうなのかね?しかも団長の前で・・・こいつら頭悪すぎだろう・・・。
「おー、おー、馬鹿がいっぱい釣れたな、ピーチクさえずってないでさっさとかかって来いよ」
「いったな!?後悔すんじゃねえぞ!」
やっと各々獲物を抜き始めた馬鹿どもにこちらは特に構えもせずに立ち続ける。
「いくぞおらぁ!」
無手の人間に対して一切の躊躇なく真剣で切りかかってくる馬鹿1を、避けた横を通り過ぎる瞬間、相手の手首を下に引いて重心をずらしつつ、足を払って投げる。
ぐるんと空中で一回転して背中から落ちる馬鹿1。
「がはっ」
「てめぇ!?死ねぇ!」
一応、主人の娘の恩人と知られているはずの人間に対して死ねはないだろうと思いつつ、正面から大上段に振りかぶって思いっきり振り下ろす馬鹿2。
その一撃を半身になることであっさりと避け、そのまま懐に入り顎に掌底。あ、なんか脳裏にアレックスの姿が浮かんだ。
顎に一撃受けた馬鹿2はぐるんと白目をむいて意識を失う。
「かっ・・・」
「な、あいつの一撃を避けるのか」
どうやら今のやつはそこそこやるやつらしい、確かになかなか鋭い一撃だったが、正面から来るなら避けるのはたやすい。
「おい」
「ああ」
少しは頭を使ってくるようだが・・・馬鹿4が後ろに回り込み、正面と後方の同時攻撃らしい。
そして正面の馬鹿3がこちらの気を引くつもりのようだが、付き合うつもりもない。
「おおおおおおらあぁあぁあぁぁぁぁ!!!」
なんだか大声を出して怯ませるつもりのようだが昨日のアーネストのおっさんの『獣王の威圧』とやらに比べれば何と言うこともないと感じた俺は涼しい顔で受け流し、後ろから迫る馬鹿4の攻撃する気配を感じ、割と特殊な歩法で後ろを見ぬまま一気に距離を詰める。
「なっ!?」
いつの間にか懐に入り込んでいる俺を見て驚いているようだが気にせずそのままみぞおちに肘を入れる。
「ごふっ」
とこれまた一撃で意識を失う馬鹿4。
それを見た正面の馬鹿3がさらに憤り、こちらに突撃してくる。
「くそがああぁああ!」
おいおい、騎士団がそんな言葉使いでいいのかね・・・そのまま力任せの一撃をあっさりと避け、首筋に手刀を落とし、意識を奪う・・・と攻撃した瞬間を狙ったのか後ろから攻撃の意志を感じた俺は、大きく一歩後ろに下がる勢いを利用し後ろに蹴りを放つ。
「なっ、ごふぁ!?」
気づかれていると思わなかったのだろう、蹴りがみぞおちに埋まると馬鹿5もあっさりと沈んだ。
するとぱちぱちと拍手が聞こえてきた。
「さすが・‥というべきなのでしょうね、お嬢様を助け、団長に認められたその力、私も少し試したくなってきました、よろしいですか?団長・・・」
と最後の一人は馬鹿ではなく、どうやらアーネストの副官のようなものみたいである。
よく見るときれいな黒髪を流した女性であるが何やら頭に髪と同じ色合いの犬の耳のようなものが見える。
おっさんはもろライオンの顔なのに女の獣人?は耳だけなのか?よくわからんな、異世界は・・・
「ああ、かまわんだろう」
何やら考え事をしてる間、勝手に許可を出されているが、アーネストに次ぐ実力の持ち主ならおれも少しは楽しめそうだと、特に反論したりはしない。
「まずは自己紹介としましょう、私はミリア、リュト親衛騎士団の副団長を務めております。以後、よろしくお願いします・・・」
「ああ、俺はコウと名乗っている。こちらこそ、よろしく頼む」
と自己紹介が終わり、ミリアは剣を抜く、どうやらエストックといった突き刺し専門の剣のようだな。
準備が終わったのか、向こうが構えたのを見てこちらも構える。
「それでは、行きますよ。『ウィンドステップ』」
スキルか魔法の効果か、ミリアの足元に風が集まり、次の瞬間、ミリアの姿が消えた。
「むっ」
これには俺も驚き警戒を強めた。
そして死角より肩に向かって鋭い突きが放たれた、それを磨き上げた反射速度で避けると、相手も避けられると思ったのかすぐに違う位置からまた突きが放たれる。
肩、腕、足など致命傷を与えるつもりはないのか当たってもそれほど問題ないであろう場所を狙って放たれる突きは、しかしそうやすやすと避けられる程のものではなかった。
「ほう、ミリアの突きをああまで避け続けるとは・・・」
なにやら感嘆の息を吐きつつこちらを眺めているアーネストに突っ込むほどの暇はなく、コウは長年戦い続けて身に着けた足さばき、体さばき、そして勘を駆使して避け続けながら、いつ振りかの滾る戦いにいつしか笑っていた。
そして次の突きが来た瞬間、するりとコウの腕がエストックと交差し、ミリアエストックを握る手をつかむ。
「なっ!?」
まさかつかまると思わなかったのだろう驚きの声を上げるものの振り払おうとするが、そう簡単に逃がすなどの愚は侵さず、すぐさま引き寄せ・・・久しぶりの楽しい戦いに気分が高揚していたのか力の入れ具合を誤り、「すっぽり」とコウの腕の中にミリアが収まった。
「あ・・・」
「あ・・・」
今の今まで戦っていたとはいえ、思わぬ出来事に何やら二人して硬直してしまった。
はたから見るとまるで抱き合っているように見えるだろう、そのことに気が付く前に、二人を見ていたアーネストからひと言。
「ミリアを落とすとはなかなかやりおるわ・・・」
その一言に硬直が解け、顔を赤くしたミリアが、
「お、落とされてません!!」
と、アーネストに食って掛かった。
「ふう・・・ちょっと惜しかったかな」
俺は久しぶりの戦いと、ミリアのなかなか豊かな体の感触を思い出し、二つの意味を持ったつぶやきを吐く・・・すると、切りが良かったのか、「ぐううう!!」コウの腹がおもいっきり鳴る。
「ああ、そういえばこっち来てから何も食ってないわ・・・」
いかがでしたでしょうか?
ちょっと最後のミリアとの決着は無理やりな感じですが、あくまで試合ということでこんな決着となっております。次回こそライおっさんとの特訓か、魔法の説明回になるかと