領主の館
今日の分です、なんか思ったように話が進まない、さすがに難しいですね・・・
異世界に転移してからの初めての町、コウは気持ちが少し高ぶるのを自覚しつつ、アルメリアの護衛であるロザリンドについて行きながら、街並みを眺める。
「中世の・・・ヨーロッパって感じでいいのかねぇ?なんか古臭いというか田舎くさい感じだな」
村というほどじゃないが、どちらかといえば町かな?といった風情の街並みを眺めながらぼそりとこぼすとその感想が聞こえたのか、アルメリアが反応する。
「この街はファルジア王国でも南端といってもいい場所ですから・・・森の向こうは山脈が続いていてその先に進めないですからね」
「なんだ?その山を越えたことはないのか?」
感じた疑問をそのまま言葉にする。
「それは私が説明しよう」
とロザリンドが口をはさむ。
「先ほど言った通り、名もなき森は魔獣の巣窟でな。森を抜けるのも難しいが、その山脈も森の影響を受けてるのか、モンスターが多いのだ」
「ほう、森のモンスターの討伐はしないのか?少しずつ減らせばいい気もするがな」
「簡単に言ってくれる・・・。名もなき森が魔獣の巣窟だというのも、とあるモンスターの繁殖速度がとてつもなく速いのだ・・・」
なかなか危険がありそうな町だが・・・ああ、だからアルメリアが聖女様とか言われるのか・・・森からモンスターが来ることもあるのだろうし、そうすると当然けが人も出る。
そして治癒術師が足りないのならば、領主の娘であろうと治癒ができるのであれば要請されるのだろう。
いや・・・アルメリア自身が名乗り出たか・・・こっちの可能性が高いな
「そろそろ館につくぞ」
いろいろ考えてるうちに結構歩いたのだろう、そんな声にふと顔を上げる。
町の中心というべき場所に、なかなかに立派な屋敷が立っている。どうやらそこが領主の館であり、アルメリアの家になるのだろう。
館に入ると、これまたそれっぽい執事がおり、また、数名ではあるがメイドもそばに控えていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様・・・。ロザリンドとアレックスも良く戻ったな」
アルメリアに恭しく礼をしながら言葉を発し、護衛二人に対しても一言・・・そしてそのあと俺に対して視線をやる執事らしき初老の男性。メイドたちは言葉を発さずに礼のみである。
「失礼ですが、そちらの御仁は?」
当然の疑問であろうことをアルメリアに向かって訊ねる。
「この方は私が・・・その、一人で森に向かったところを助けてくれた方です」
「なんと!?お嬢様、おひとりで森に!?・・・ロザリンドとアレックスはあとで話があります・・・それはさておき、お嬢様を救ってくださったようで、誠に感謝いたします」
こちらに対しても礼をしつつ感謝の言葉を投げてくるが、一つ気になる動作をしたのでそのことを追及してみる。
「礼は受けるが・・・お前は仮にも客人を前にして武器を握るってのはどういうことだ?」
「ほう?お嬢様に取り入る単なるごろつきかと思いましたが・・・なかなかに目端の利く御仁ですな」
「クロウ!?武器とはどういうことです!」
俺たちのやり取りを聞きとがめたのかアルメリアが声を荒げ、執事、クロウというらしい・・・を注意する。
それに対し執事はこちらにちらりと視線をやりつつ、アルメリアに対し謝罪をする。
「失礼いたしましたお嬢様・・・私はお嬢様の周りの虫を払う役割をお館様より仰せつかっておりますゆえ・・・」
と、にぎっていた武器、暗器だろう、黒い短剣をこちらに見せながら・・・こちらに対し害意はないという意思表示だろう・・・懐にもう一度しまいなおしながらアルメリアに弁解をする。
「虫ですか?私には見えませんが・・・」
と何やら素のようだが、虫ってのは俺のことらしいぞ、と内心思いつつ。
執事クロウは苦笑しつつ、
「失礼しましたお嬢様。もう事は済みましたので安心ください」
執事クロウの言葉に首をひねりつつ、
「では、コウさん。お父様にもご紹介したいのですが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、かまわない」
「ふむ、では私が先導いたしましょう、といいたいところですがまずはこちらに着替えてください」
そういって執事の後ろから近づくメイドの持つ服に着替えることになり、近くの部屋へと案内される。
ゆったりとしたシャツにスラックスのようなズボンで、割とどこの世界も服は同じなんだなと思った。
「着替え終わりましたか?」
部屋から出ていくと、執事クロウがそのまま案内役を担う。
「ロザリンドとアレックスはあとで私の部屋に・・・今は待機していなさい」
「「はい!」」
若干二人の顔が青いが気にしないでおこう、この執事もなかなか腕が立つようだし、後ろに控えていたメイドもそこそこの腕はありそうだな、とその立ち居振る舞いから推察し、何やら楽しくなってきた俺。
「では、お嬢様、コウ様、こちらにございます」
先導を始めた執事クロウについていく俺とアルメリア。
今度はどうやらこの街のトップと会うらしいな。
しばらくすると目的地に着いたのか執事クロウが
「こちらに現在お館様がおります・・・入ってもよろしいでしょうか?」
ノックをして中から許可をもらうと、ドアを開けて中に入るように促す。
アルメリアが入った後に続き、俺が入るとすさまじい威圧が俺に対してのみ向かってくる。
「むぅ・・・なかなかにきついな」
発した言葉ほどにはきつそうでもない声音で告げる俺に、椅子に座った髭もじゃのおっさん・・・ではなく、その横に立つライオンみたいな顏をした・・・っていうかライオンの顔をしたムキムキなおっさん?が笑いながら話しかけてきた。
「がっはっは!わしのスキル『獣王の威圧』を受けて平然としてるとはな・・・これはなかなかいい男が来たんじゃないか?・・・のう、カインよ!!」
「ふむ、ちょうどいい時期だな、手を貸してもらうのもいいかもしれない」
何やら勝手に話が進んでいるが何のことだろうな・・・
「おい、おっさん・・・この館には仮にも客に対しての態度が悪いんじゃないか?」
「がっはっは、おっさんといわれてるぞカインよ!!」
「おまえもおっさんだろうアーネスト・・・すまないな、アーネストが面白い気配がするというものでな・・・許可を出したのは私だ、謝罪はしよう、すまなかった」
こちらの暴言も意に返さず、何やらあっさりと頭を下げる髭もじゃのおっさんに俺は意外に思い、しばし唖然とする。
その隙に髭もじゃのおっさん、カインは自分の娘、アルメリアに話しかける。
「お帰りアルメリア。例のものは取ってこれたのかい?」
「はい、お父様、こちらです」
懐から岩場で採取した何やら輝く苔が入った瓶をを髭もじゃカインに渡す。
「ありがとう、アルメリア・・・これでさっそく上級ポーションを作るように薬師に伝えよう・・・クロウ」
「御意に」
素材を受け取ると部屋を去っていく執事クロウ、何やら受け渡しの際に二~三言話していたが・・・
「上級ポーションが完成したらアルメリアにまた頼むことになるが・・・」
少し影のある表情を見せる髭もじゃカインに対し
「大丈夫です!お母様の病気は私が必ず治して見せます!」
「がっはっは!いい娘に育ったじゃないか!のう、カインよ!!」
「ああ、そうだな・・・」
どうやら急ぎの患者はアルメリアの母親らしいな・・・自分の母親が重い病気ならもっと取り乱すと思うが、この世界なら魔法やポーションがあればなんとかなるのだろう・・・
「アルメリア、今日は疲れただろう?もう休みなさい」
「え、ですが・・・」
何やらこちらをちらっと見るアルメリア。それを見て苦笑しながら
「心配しなくてもいい、悪いようにはしないよ、約束する。」
「はい、わかりました、お父様。それではコウさん、改めて助けていただきありがとうございました・・・本日はこれで失礼いたします・・・それでは」
退室していくアルメリアを横目にしつつ、おっさん達に向き直る。
「さて、ほったらかしにしてすまないな、クロウからも話は聞いた。なかなか見所があるといっていたな。まぁ、それは今は置いておくとしよう・・・まずはありがとう、娘を助けてくれて。おかげで家内も無事回復させてやれそうだ・・・」
「ああ・・・それはアルメリアにも言ったが偶然居合わせただけだからな、気にするな」
「君は冒険者なのかな?依頼の途中だったのなら申し訳ないことをした」
またも軽く頭を下げるこの街の領主である髭もじゃカイン。
「いや、俺は異世界人・・・こちらでいえば迷い人というらしいな」
「ほう!迷い人か!面白い気配と思ったが迷い人とはな!がっはっは!」
さっきから笑いっぱなしだなこのライオン顏・・・獣人っていうのかね?
「迷い人か・・・こちらに来てからどれくらいなのかな?泊まるとこはあるのかい?」
「こっちに来たのは今日だ」
「今日?・・・娘と出会ったのは運命ということか・・・?」
何やらぶつぶつといっている髭もじゃカインを脇に
「今日来たというわりにはなかなか腕が立つようではないか!!迷い人は過去の記録では武人はいなかったはずだ!おぬしはいったいこの世界に何をもたらすんだろうな!!」
「さてな・・・俺は身体一つでどこまで行けるかってのを信条にしているから武術関係か・・・まぁ、それは置いといて、こちらでは魔法ってのがあるらしいからな・・・まずは魔法を覚えたいところだな」
「がっはっは!おぬしがなにを成すかはいずれ分かるだろう!何なら俺の騎士団に入るか?」
「今のところ一つのところにとどまる気はないな」
「そうか、残念だ!がっはっは!」
話がひと段落したところでカインが話しかけてくる
「ならしばらくはここを拠点してくれてかまわない、お礼もしたいしね」
「魔法も明日にでも俺が教えてやろう!これでも騎士団長だからな!」
「ありがたいな・・・しかし何か頼みたいこともあるんじゃないか?」
「確かにそれもあるけどね・・・今日はひとまず休んでもらって構わないよ、もちろん明日になって強制するつもりもない、安心して休んでくれ、今日こちらに来たばかりならつかれているだろうしね。」
なにや手元にあったらしいベルを鳴らすと、使用人の一人が入ってくる。
「彼を客室に案内してくれたまえ。アルメリアの恩人だ、粗相のないようにね」
「かしこまりました」
そして俺は部屋に誘導され、部屋に入りベッドに倒れこむとすぐに意識が沈む・・・どうやら思っていた以上につかれていたようだ。
いかがでしたでしょうか?
今回も特に盛り上がりはないと思いますが・・・次回はライオンさんと稽古をすると思うのできっと盛り上がるかもしれないです