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掬う男

作者: 綾瀬数馬

 昔々、ちょっと昔のことです。ある一人の男がいつものように部屋で読書をしていると、目の前に《神様の使者》と名乗る老人が現れました。ここのセキュリティが万全だったので、老人が入っているだけでも驚きだったと言うのに、しかも、《神様の使者》は「あなたには人を救う力がある」と言いだしたのだ。興味を持った男は黙って話を聞きました。どうにもこの老人が言うには、男には人間から死を取り上げる力があると言うのです。

「へえ、あなたのおっしゃることが正しいとすれば、救済とはつまり不死であると言うことですか」

「いえ。私はただ、神の意志に背く死を失くすことが救済だと言いたいのです。人は皆平等に神から与えられただけの寿命を全うすべきでしょう?」

 老人の話に半ば納得する男。そして最後に彼はこう尋ねた。

「ところで、何故それを今頃になって話すのでしょうか?」

「無論、あなたがその力を行使したからですよ。ぜひとも、その力を全ての生物のために使ってください」

 それだけを告げると老人は霧のごとく跡形も無くなってしまった。翌日、男は椅子に腰かけると、周囲にいた人に昨日のことを話した。

「その老人が言うにはどうにも俺には人を救う力があるんだってさ。はっ、道理であの時、誰一人として負傷者が出なかったわけだ。神ってえのに欠陥があるとすれば、そいつは人を見る目がなかったってことだな。あははは。ま、神からすれば、人間なんてのはそこら辺にいる鼠と何ら大差はないんだろうけどな」

 三か月前の爆破テロのことを思い出す。あの人ごみの多いところで爆発したというのにも関わらず、奇跡的にも死人は出なかった。神の救いだと唱える人間もいるが、なるほど、そう言うことだったのか。男からすればあれは救いからほど遠いものだったのだが。

「さて、その救いの力とやらは俺自身にも効くのかね」

 目の前にぶら下がるそれを見て男は呟いた。

 この後、男がどうなったのか、あの老人も、そして、《神様》も知らない。



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