意を決して家を出て行く事にしました。
人を信じていると裏切られる。心配するとウザがられる。
こんなDOWNな気持ちを払拭するために別な事を考えようと思ったら、
文章に哀しみが漂ってしまった。
極めて一般的な派遣会社で働く31歳のフリーターに毛が生えた程度の社会人、田中康介は自暴自棄になっていた。
3日前から出社していない同僚の前田氏に必死になって連絡しているのに、一向に連絡が取れる気配が無い。
自分の会社からは、何とかしろとか無茶な事言ってくるし、
現場では何故連絡出来ないの?と無言の圧力から逃れられず、
自分の仕事と前田氏の仕事2人分の作業をこなして帰宅準備をしていた。
まぁこの業界では良くある事ではあるが…最近頭皮が固くなってきた気がする。
帰宅出来るだけありがたいのだけど。。。
10日程前までは玄関前に着くと窓から暖かい光がこぼれ、微かな音が聞こえていた。
子供の天使のような寝顔が待っている。
嫁は私を待っていようと努力しているのか、またコタツに突っ伏して寝ているだろう。
そんな嫁を布団に移し額にキスした後、その日最初で最後の食事をとっていた。
今日はどんな格好で寝ているのか、なんて考えながら玄関を開けるのを楽しみでもあった。
が、今では玄関前に立つと、耳を突き刺すような甲高い風切り音が聞こえ
嫁は、頭をすっぽりと覆うヘッドギアを被り、体を動かさずに固まっていた。
肩に手を添え、帰宅を伝えようとするが、、一向に応答しない。
食事を摂りシャワーを浴びて出てくると、嫁は、欠伸をしながら私に見向きもせず布団に移動して眠りに着く。
まぁ、何かVR系のゲームに夢中になっているんだろう。
子供の額にキスをして「お休み」と小声で囁いて、寝相が悪くいびきと寝言が激しい私と一緒に寝るのきついだろうと気を利かせてソファーで横になる。
その3時間後には少しの睡眠と少しの幸せをかみしめながら出社する日がつづいていた。
精神的均衡を破ったのは、何気げなく見てしまった嫁のクレジットの請求書だった。
記載されている請求欄には、私の年収の約3倍の値段が10年ローンで記載されていた。
おいおい、使い込みもしていたのか。最近の育児放棄っぷりに対処が必要と思案していた処に、前田氏の出社拒否とも重なり、目の前にごついヘッドセットをして固まっている嫁にこれまでにない憤りを感じてしまった。
VRシステムは仕事で使用しているため、結構詳しかったする。
ハードウエアには、緊急停止用のejectボタン(人をシステムから切り離すのでejectといわれている)があるはずなのだが、家で使用しているマシンにそれらしいスイッチが見当たらない。
「ったく。最近の最新型は必要なパーツを削ってかっこ良くしやがる。その実、コスト削減の為ってか。」
ぼやきながら、バッグからPAD-Consoleを取り出し、一般には浸透するはずもない有線のコンソールケーブルをマザーボードに接続する。
ログインプロンプトが表示される。。。。。今更CUIなのは、納得できないログイン画面。
パスワードは、きっとメーカーメンテナンス用は変更していないだろうっと。
ちょっと、ネットで調べればわかりやすい解説と共に動画で説明されている方法でログインする。
こそっと、バックドアを仕掛けながら、注意深くユーザに影響のないプロセスを落としていく。
同時に監視プロセスをスタートし、システムエラーを併発させる。
ユーザejectプロセスが開始されるのを見てコンソールからログアウトする。
嫁はおもむろにヘッドギアを取り外し、再起動しようと電源ボタンに手を伸ばす。
「ちょっと話せる?」
「今忙しいから・・」
嫁は躊躇いもなく電源を入れる。。
ヘッドギアに手を伸ばしたところで手首を掴み
「クレジットの明細について話したいのだけど」
と、言おうとした時、もう片方の拳か問答無用に叩き込まれ、仰け反った時には、ヘッドギアを被っていた。
もう駄目だ。もう耐えられない。
明日、出ていこう。子供と一緒にマンスリーハウスとかホテルとか探して住もう。
そう決意して、子供と手を繋いで眠りについた。
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朝5時に目を覚ますと横に居るはずの子供が居なくなっていた。
急いで辺りを確認する。
あるはずのブレードサーバと、嫁の姿も無かった。
子供と嫁の靴や衣類もなく、存在自体が無かったように跡形も無く消し去られていた。
携帯電話の存在を思い出し、携帯電話を手に取る。
連絡先を探すが見当たらない・・ボタンを押す手が震えて思ったように操作できない。
やっとの思いで、嫁の電話番号を見つけ電話をかける。
「この電話は、お客様のご都合によりお繋ぎできません。」のガイダンス。
息子の携帯にも掛けてみる。いっつも動画サイトばかり見ているから、起きていたら、、
と携帯の検索をかけるが、応答無し。。
ははは、自分がしようとしていた事を嫁に先にされてしまったのか。
乾いた笑いと共に涙があふれてくる。
絶望に打ちひしがれていた時、玄関が開く音がした。
微かなの希望に、既に家から出ていくなんて考えも吹き飛んで、
いや怒っていた事すら忘れていた。
玄関にかけ戻ると、そこには某対宇宙人対策室的な服装をした2人組が立っていた。
「田中康介さんだね」
「はい。そうですが、何か」
おもむろに懐からピンク色の薄い紙を取り出し、私の目の前に突き付けられた。
「本契約書に基づき、田中康介殿をJVRSDFに徴収致します。」
「え、えぇぇぇ、今何と言いました?
契約?徴収??JVRSDF?何で??」
「本契約書は、委任状と共に提出され、支度準備費用も先日支払われて降ります。」
なんですと?そんな契約全く記憶にない。
委任状も、ましては支度準備費なんて。
恐る恐る書類に目を落とす。目に飛び込んできたのはよく目にする筆跡で書かれた自分の名前だった。
読みにくい文章を読んで頂きありがとうございます。
中々体力が無いので、細々と書いて行きたいと思います。