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旗と点

作者: 三浦 明

つたない文章ですが読んであげてもらえたら幸いです。。。

 統制のとれた社会というのはどんなものだろうか。本当はもう完成しているのではないのか?

 誰一人不満を漏らさず、正義を信じ行動する世界。

 そんな世界。僕たちの世界。

 もし、「革命」がこの統制のとれた世界を壊すものなら、僕たちはそれを喜んで受け取るのだろうか。

 誰一人拒まず、誰一人足並みのずれないこの世界で誰がそれを望むのだろう。



 旗が揺れている。この国の旗だ。

 この広場は高いビルの森のなかにぽっかりと空いた穴のように広がっている。

 戦争が終わってからの一二〇年でこの国は大きく変わった。土埃が舞っていた道路はコンクリートで埋め立てられ、経済成長を遂げたビルはその数を増していき、成長を終えた今でもその数は年々増えている。

 ただ一番変わったことはこの国のシステムだろう。

 五〇年前、その前の議会制が廃止され事実上の一党独裁体制となった。議会は取り壊され、国の全権をⅠ党のトップで構成される全党委員会に委譲した。

 そして、議会を廃止した代わりに設置されたのがこの「時計台広場」である。

 有事の際にのみ解放されるこの広場は、この国の首都であるこの街の大人全員が入れるほど大きな広場になっている。入り口は一つしかなく、目の前には簡素な演台とその両脇には風に揺られる国旗、そして背の高い時計が立っている。

 僕は今この広場の中にいる。

 僕だけではなくそこには大勢の大人たちがいて顔つきは様々だ。面倒くさいと思っている人、眠そうに目をこする人、辺りを見回す人。だがその中でも共通して考えていることは、何があったのだろうということだろう。

 だが、誰一人その話題に触れる人はいない。いや、この広場で話しているものなどいない。

 それは禁じられているからだ。この広場で話すことも、意見をいうことも。たとえこの先にどんな驚くべき発表が待っていようと、誰一人言葉を発してはならない。

 それがルールだ。誰一人破るものはいない。

 静かな広場に大勢の人の足音が聞こえる。杖をつきながら一人の老人が演台へと登っていく。その後を黒ずくめのガードが追う姿はまるでくっついて離れない金魚の糞のようだ。

 男はマイクの前に立つと杖をおき、しわがれた平坦な声でこういった。

「戦争です。戦争をはじめます。」

 息をのむ声が聞こえた。僕も思わず声が出そうだった。

 みんなが次の言葉を待っていた。

「以上です」

 それだけ言うと男はおいた杖とボディーガードたちを携え、見えない所へ消えていった。 誰も話さない。こんな時でさえみんな規則を従順に守っている。

 広場から人が出て行く。それでも人々は恐ろしいほど静かだ。

 一時間ほど経ち、やっと広場から抜け出した僕はまっすぐ家路についた。

 不思議なものだ。こんな時でも僕は冷静でいる。


 そして一日が経った。どうやら昨日の報告は本当らしかった。テレビでは昨晩の内に行われた戦闘の映像や戦死者の数が報告されていた。だがこの放送も政府が流しているまがい物の可能性がある。

 恐怖は感じたが、「戦争」という単語はまだ僕の中に実感として湧いていなかった。

 それから「戦争」の報道は毎日続いた。海の向こうで続く戦闘によって戦死者の数は増え続けた。

 そのニュースを見て皆こんなものは止めるべきだ、かわいそうだ、といっていたがそれも世間話の域をとどまった。公の場でそれを言う者は誰一人としていなかった。

 一週間、二週間経ち、それでも「戦争」は変わらず続いていた。そしてこれまで実害のない僕たち民衆は毎日発表される戦死者の数字だけを目で追っていた。普段の話の中からも「戦争」は消えていった。

 だが、そんな僕たちの「平和」もそうな長くは続かない。


 ある日の夜のこと、僕たちの住む都市を囲む山の向こうから轟音が響いた。その音は静かな都市に響き渡り、人々は何事かと外へと飛び出した。

 外に出ると東の空が明るい赤に染まっていた。普段と違う色の太陽を、人々はただ呆然と見つめるだけだった。

 ニュースによるとS都市にミサイルが連続で発射されたようだ。

 その日僕たちはようやく「戦争」を身近に感じた。

 次の日から会社は休みになったが、いつ再開するのかも分からない状態だった。

 そしてその夜、僕らの街は空爆を受けた。


 はじめ、外でけたたましいサイレンが鳴って、すぐに僕お家のあたりはあわただしくなった。外に逃げる者、家の中へ逃げ込む者、様々だった。

 僕はどうしようか戸惑い、結局風呂場の浴槽に蓋をして、その中に逃げ込んだ。

 ミサイルと違い無人の飛行機がいくつも落としていく爆弾は規模は小さいものの、それらが落ちる音は僕を何度もびくつかせた。その音に混じって人の上げる悲鳴が何度も聞こえてくる。僕は耳を塞ぐ。耳を塞ぎうずくまり、口で荒く息をする。

 死にたくはない。それだけだった。

 いつの間にか眠っていた。

 いや、気絶していただけかもしれない。蓋を開け、外に出て行く。爆風でドアの立て付けが悪くなり開かなかったので、靴を持ってリビングの窓の方へ向かった。窓は粉々に割れていた。外の景色はもっと壮絶だった。

 高いビルはその背を低くし、住宅の森から火や煙が上がっていた。

 人は座り込み、叫び続け、死んでいた。だがそれを見ても何も感じない。感じることができなかった。


 こういうとき空はいつも晴れている。


 そして今、また僕はあの時計台広場にいる。

 誰も何も話さない。街はあんなにぐちゃぐちゃなのにここはこんなにもきれいに整っている。

 あの男が壇上に上がる。相も変わらず金魚の糞はついてまわる。そして言った。

「この戦いには負けました。しかしながら、このまま我が帝国が引き下がるわけにはいきません。国際社会に屈服せずに自立の・・・」

 その先は聞こえなかった。

 こんなに人が死んだのに、あんなに建物が壊れ、人々の生活を壊したのに。そして、僕は死にそうになったのに、と、そう思った。

 そしてやっと僕の心に怒りの感情が芽生えた。それは僕だけではなかったようで、各場所で怒号が飛んだ。


 僕らの怒りは遅いと思うだろうか?なぜ今頃になってと思うだろう。もっと早くに反抗していればこんなことにならなかった、と。

 でも昔からそうではなかったのか。議員という国民の代表者に政治を任せ、その決定に不満を抱いても直接は反発しない。報道は都合の悪い話題は早々に切り上げ、民衆は安易にことを考える。どうせ自分だけは大丈夫だ、と。

 僕たちと何が違うのだろうか。


 前の方ではもはや警備員が抑えられぬほど人が押し寄せ暴動になっている。僕は手を挙げ言葉にならない叫びを口にした。


 空は青い。広場はぐちゃぐちゃとしていて、そこでは無数の人々の頭が小さく点のように動き、やがて全てが黒い一つの大きな塊になった。

 僕たちの世界はこれからどう変わるのだろう?

 

 旗が揺れている。【終】


なんか偉そうなことを書いてしまって申し訳ないです。

最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。

これからも精進します。。。

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