六話 復興と慈雨
仙人と太郎は、農国の関門付近に来ていた。
関門は隕石により無様に破壊され、現在復旧作業中のようだ。
仙人は門番に近づいて言った。
「この門、ワシなら一晩で立て直してみせようぞ。」
門番は吹き出した。
「お前のような浮浪者に何ができる。」
「失礼な!この方は、」
太郎が言いかけたのを仙人が遮る。
「良いのじゃ。このような身なりでは信用なぞされんわい。」
別の門番が言った。
「ちょうど夜間は復旧作業を休める。その間にやってみるがいい。
できるものならな。」
門番たちは爆笑した。
その日の夜。辺りは暗闇に包まれている。
「術を用いるのに絶好の状況じゃ。」
仙人は壊れた門に近づき、唱えた。
「崩れよ闇、そして門、音となれ!」
暗闇が晴れ、辺りはぼんやりとした光に包まれた。
その中央にはどこも壊れていない立派な関門と、その下には
壊れた門の残骸があった。
そしてどこからともなく鐘を突いたような鈍い音が響いた。
翌日、様子を見に来た門番と作業員は仰天した。
関門が完全な状態で立っている!
「あの浮浪者のような者は、噂に聞く仙人に違いない。」
一人の門番が口にして、他の者も納得した。
復興が十分に進んだ農国だが、深刻な雨不足に悩まされていた。
農作物は枯れかけ、田んぼは干からび、
川も干上がってしまっていた。
「国のあちこちを歩きまわって泉を湧かせるのは骨じゃな。」
仙人は言った。
「ではどうします?」
「この間、焼きすぎて炭化した魚がとってあるじゃろ。
あれを使うのじゃ。幸い、そよ風も吹いておるし。」
「次はどんな術を使うおつもりですか?」
太郎は聞いてみた。
仙人は毛皮に包まれた黒こげの魚を地面に置いた。
「それは見てのお楽しみじゃ。」
仙人は術を唱えた。
「炭と風よ、混沌の果てに、灰と嵐に変われ!」
カラッと晴れた青空がみるみる灰色の雲に覆われ、
分厚い雲は激しい横殴りの雨を降らせた。
「さて、宿を探すかのう。」
仙人と太郎は二日ほど民家に住まわせてもらった。
術を用いてから二日経っても、嵐は一向に収まる気配を見せない。
「術が強すぎたようじゃのう。そろそろ嵐を鎮めるとしよう。」
「この魚の灰ですね?」
太郎は皮包みの灰を仙人に手渡した。
「左様じゃ。」
仙人と太郎は民家を出て、暴風雨の真っ只中に出た。
仙人は皮包みの灰を、飛ばされないように足で踏み抑えた。
「灰と嵐よ、混沌の果てに、風と炭に変われ!」
暴風雨は見る間に収まり、空を覆う灰色の雲は霧散した。
そして気持ちよい青空が戻ってきた。
仙人は皮包みの中身を確認すると、灰は炭と化した魚に戻っていた。
「弟子よ、ワシらの住処に帰るとしよう。」
「はい。」




