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刻字解合  作者: つちたぬ
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五話 彗星の悪夢

夜中。太郎は丸太小屋の外に出て、夜空を眺めていた。

空には満天の星。煌々と輝く月。

そして青紫の尾を引く妖艶な彗星、ラクレアド。

今日はこの彗星が久々に姿を見せる日だった。

「なんとも美しい。」

太郎は彗星に見入っていた。

突然、事は起きた。

月と彗星がすれ違うと思われたとき、まばゆい光が空全体を覆い、

昼と見紛うほど、一時的に明るくなった。

ふたたび闇が夜空を支配した時、

月からは、無数の流星が降ってきていた!

彗星ラクレアドの姿はどこにも見えない。

彗星は月とすれ違ったのではなく、衝突したのだった。

「これは、師匠を起さなければ!」

太郎は丸太小屋に入り、仙人を外に引っ張り出した。

「ううむ。これは大ごとになりそうじゃ。

太郎、山を降りるぞ。農国の下町まで行くんじゃ。

この直感が杞憂に終わればいいがのう。」


二人が山の麓まで下りたときには、もう夜が明けていた。

それまでに、幾度も大地が揺れ、爆発音が轟いた。

「見ろ、弟子よ、これはひどい有様じゃ。」

遠くに見える農国の街は、所々から煙が立ち昇っていた。

「急ぐぞ、弟子よ。」


農国の街の家々は全壊、もしくは半壊したものが多く見られた。

道路や畑には、死者や負傷者がごろごろと横たわっている。

「死んだ者は助けられんが、傷を負った者ならなんとかなるじゃろ。」

仙人と太郎は負傷者の一人に近づいた。

頭から血を流している男が怯えながら言った。

「あんたらは何者だ?」

「ワシは漢玄と言う仙人で、こやつは弟子の太郎じゃ。

お主の傷を癒して進ぜよう。」

仙人は持っていた杖で地面に長い線を引き、唱えた。

「崩れよ線、そして糸、泉となれ!」

地面の線は瞬く間に消え、こんこんと水が湧き出る泉と

丸い毛糸玉が現れた。

「よいか、お主の傷を水中に沈めるのじゃ。」

「本当にそんなことで傷が治るのか?」

負傷した男は不審げに訊ねた。

「良いからさっさとせい!傷を治したくないのか!」

負傷した男はしぶしぶ頭を泉に突っ込んだ。

「傷と水中よ、混沌の果てに、中傷と水に変われ!」

仙人は唱えた。

男はザバッと泉から頭を上げると、罵った。

「とっとと失せろ、汚らわしい乞食め!」

男の頭にあった傷は、綺麗さっぱり消えていた。

「助けてあげた者にあんなことを言われるなんて。」

太郎は不満げに言った。

「それがこの術の特徴じゃからのう。さあ、次の者を探すぞい。」


仙人と太郎は、この数日間、街の負傷者を助けてまわった。

ある日、二人は頭を丸刈りにした人々の一団が街に入ってくるのを見た。

「あれは杯国の僧侶たちじゃな。死者が多数出ているこの状況で、

葬式にはもってこいの連中じゃ。」

「異国の民を弔うためにわざわざ訪ねてくるなんて

よほどの人格者なのでしょうね。」

と、太郎。

僧侶たちは各家を訪問し、死傷者の有無を尋ねてまわっているようだ。

「ワシらも負けじと家をまわるぞい。」

二人は、半壊した家にたどり着いた。

中には、杯国の僧侶一人と、

額に布をあてて仰向けになっている人が一人見えた。

「状況はどうじゃ?」

仙人が尋ねると、僧侶が答えた。

「この者は伝染病に感染しています。

死者の処理が追いついていないので、原因は恐らくそのせいです。

特効薬でもない限り、助からないでしょう。」

仙人は病人に尋ねた。

「何か不要な本は持っとらんか?」

「お、奥の本棚に、インチキまじない本が一つ、」

「ふむ」

仙人は本棚を漁って、それらしき本を取り出した。

「これからお主に、仮の名を与えよう。何か希望の仮名はあるかな?」

「た、鷹彦、」

病人は苦しそうに言った。

「ふむ、その名にしよう。」

仙人は本を病人のそばに置くと、僧侶と太郎に離れるように言った。

「無関係な者がそばにいると巻き込まれるんじゃ。離れていなさい。」

二人が病人から離れると、仙人は唱えた。

「病人、仮名、本よ、混沌の果てに、仮病、人、本名に変われ!」

置かれていた本はどこかに消え去った。

病に倒れていた男の目がぱっちりと開き、次に上半身を起こした。

「お主の名はなんというのじゃ?」

「鷹彦といいます。」

「ふむ、して症状はどうじゃ?」

「実はせきが止まらなくて。」

男はわざとらしくゴホゴホやってみせた。

「嘘じゃろ?」

「はい。何故か嘘をつきたくなって。」

「術は成功じゃ。名前はそうじゃな、後で元の名に改名せい。」

「ありがとうございました!」

男は丁寧に頭を下げ、お礼を言った。

「あなた様はもしや、如来では、」

僧侶が言いかけたのを仙人は遮った。

「ワシゃそんな大層な者ではない。そもそも宗教が違うでの。

太郎。次にいくぞい。」

「はい、師匠。」

仙人と弟子はその家を去った。


二人は国がある程度復旧するまで、人々を助けてまわる旅を続けた。


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