二話 落雷
雨がザァザァと降る田んぼの中、
黒髪の仙人は、三匹の異形の怪物に囲まれていた。
怪物達は両足両腕を持ち、筋骨隆々。
頭部には、内側にカーブを描く、二本の角が生えている。
鬼だ。
鬼達は猛々しい唸り声を上げながら、徐々に
仙人に近づいていく。
仙人は、不意にしゃがむと小声で呟いた。
「雨と田よ、合わさり雷となれ。」
四名の立っている田んぼの水が一瞬で無くなり、
固い地面となった。
そして霧が晴れるようにどしゃ降りが消えたと同時に
鋭い閃光とすさまじい轟音を伴う三筋の雷が
それぞれの鬼に直撃した。
鬼たちは黒こげとなって仰向けにバタッバタッと倒れた。
「やはり、伝承の妖怪、鬼といえども落雷には耐えられんか。」
再び降り始めた雨は、鬼たちのかすれ声と
仙人の言葉をかき消した。
「土と鬼よ、合わさり塊となれ!」
と、仙人は三度唱えた。
鬼のいた場所には、抉られた地面の中央に鬼の形をした土塊があるだけだった。
時は十数日前。
「いらない田んぼ?たしか村の北端に
誰も管理しなくなった田んぼがあったなあ。」
村人は言った。
「しかし、いったい何に使うんで?」
「ワシの術の実験と修行を兼ねてな。」
仙人は淡々と話した。
こうして仙人は荒れ果てた田んぼを数日かけて整え、
ひたすらに雨の降る日を待った。
そうしてその日は来た。
仙人は田んぼの周辺三ヶ所に大きな土塊をこしらえた。
そうして土塊に、
「崩れよ塊、そして土、鬼となれ!」
と唱えて回った。
その後に起こったことは、前述の通りである。
「鬼の召喚秘術は危険極まりない術じゃ。
それゆえに、その性質をよく知り、使い込むことが重要じゃ。
仙人たる者、精進を怠ってはならん。」
仙人は満足げに言い放った。
仙人は鬼の形をした土塊を踏み潰し、丁寧に均していった。
いつの間にか雨はあがり、雲の切れ目から七色の虹が覗いていた。
仙人は眩しそうに目を細め、しばらくしてその場から去っていった。




