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短編

HAPPY

作者: 双六

ハッピーバースデー。


そう言ってパパとママが箱に入った僕をキミに渡したのは三歳のお誕生日のとき。

僕は箱の中でドキドキしていた。

気に入ってもらえるかな?

大事にしてもらえるかな?


すぐに箱から僕を取り出したキミは開口一番、


「くまちゃんだー!」


僕はキョトンとしたし、パパとママは大爆笑。

だって僕は犬のぬいぐるみなんだから。


そして、そのときにキミがつけた名前が『ダイキチ』。

当時キミのお気に入りだった言葉。

まさか、そんな昔堅気な名前になるとは思わなかったけどね。

そしてこのとき、僕は僕になった。

つまりキミが僕を男の子だと決めた瞬間だ。


キミはよく遊んでくれた。

ままごとのときには、僕はお父さんにも、お母さんにも、それこそ犬にもなった。

もう僕にやれない役はないんじゃないかな。

キミは色んな声色で演じ分けていて、

あのときは器用な子だなぁって感心したもんだ。



旅行にだって連れて行ってくれたよね。

ただ、ホテルに忘れていかれたときはドキドキしたよ。

僕はどうなっちゃうんだろうって。

次の日に宅配便で家に無事戻って来れたときは僕もホッとしたけど、

キミも目に涙を浮かべてぎゅっと抱きしめてくれたね。


それから、キミは少しずつ大人になっていって、

なにかあると僕に話して聞かせてくれた。


中学で演劇部に入ったとき。

そこで初めて好きな人が出来たとき。

そして初めて失恋したとき。


高校受験の頃のキミは気持ちが荒れることが多くて、

ママとしょっちゅうケンカしては、僕は宙を舞ったり、武器になってみたり。

腕を持ってぶん投げるもんだから、とうとう付け根のところから千切れちゃって、

二人のケンカが中断したときもあったね。

そのあと、キミは謝りながら腕を縫い付けてくれた。

あのときは色んな意味で不器用な子だなぁと思ったよ。


受験当日は『ダイキチ』だからゲン担ぎだと、鞄の中に入れていってくれたね。

合格発表のときも学校まで一緒に行った。

そして、キミは家に帰ってくるなり僕を高く放り投げて天井にぶつけた。

ダメだったのかなと思ったけど、合格してたんだよね。

天井にボンボン体をぶつけながら、僕も嬉しかったよ。


その後、大学受験。就職。結婚式。

昔みたいに遊ばなくはなったけど、人生の大きな節目には必ず僕を連れて行ってくれた。

だからキミの一番の笑顔もつらい顔も知っている。



そして今日。

キミはまた大きな節目を迎えた。

僕にとっても大きな大きな節目だ。

僕はクリーニングにも行って、中のわたも新しいのに詰め替えてもらった。


病院のベッド。

キミの横でスヤスヤ眠っている。

女の子で良かった。

目元はキミにそっくりだ。

これから先。

この目が笑ったり、泣いたりするところをずっと見守っていけたらいいな。


ハッピーバースデー。


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― 新着の感想 ―
[一言] 冷えた布団に入ってそろそろ寝ようかなと思った時に見つけた双六さんの短編、読み終わったら心温まる話でいい夢が見れそうです!ありがとうございますw
[一言] 作品拝読いたしました。 なんとも暖かいお話でしたね。 犬のぬいぐるみ「ダイキチ」の視点で紡がれる一人の男の子の半生。 彼の人生はダイキチと共にありました。 語られるエピソードがどれもほん…
2013/11/13 19:02 退会済み
管理
[一言] ダイキチ~~!!(泣) 喋れないけど心があって 動けないけど見守って…。 辛い時も楽しい時もいつもそばにいてくれた。 そして出会いの日も、新たな始まりの日もハッピーバースデー…。 誰か…
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