第三幕・夜の学校。(前半)
お盆休み特別企画作品
じっとりとした湿気が体に纏わり付く蒸し暑い熱帯夜。じめっとした汗を掻きながら四人は懐中電灯片手に夜の学校に忍び込んだ。
「やっぱり夜の学校って不気味ね・・」
翠が小声で言った。四人は翠を先頭に抜き足差し足で歩いている。
「もう誰もいないのかしら・・」
最後にいる綾乃が声を掛けた。
「もう夏休みよ。宿直の先生もいないわ」
翠が懐中電灯の光で周りを照らしながら言った。
「ところでいきなり、今日の晩なのよ!夏休みは明日からでしょ!」
沙織が前にいる翠の肩を掴んだ。
「明日から夏休みでも補習も始まるのよ!」
翠が沙織に振り向いて言った。
「意味!分かんない!」
沙織が下から自分の顔に懐中電灯の光を当て言った。
「あんたの顔、お化けより怖いわよ!」
「ねぇ、何か聞こえない・・」
沙織と綾乃に挟まれた由香が半泣きになりながら聞いた。音楽室の方から微かに“第九”が流れている。
「季節が違うけど・・・。聞こえない、聞こえない。気のせい、気のせい・・」
沙織は由香を安心させるよう言ったが、絶対聞こえている。
「あっ、向こうの廊下を誰か走り抜けた!」
綾乃の懐中電灯のライトが一瞬人影を捉えた。四人は立ち止まりお互いの体にしがみ付いた。
「なっ・・、何・・。誰・・、だった・・」
沙織が綾乃に怯えながら聞いた。
「なんだか・・、理科室にある人体模型の様な・・」
綾乃の説明に他の三人は息を呑んだ。
「何かの見間違いよ!それか理科研究部の悪戯よ」
「誰もいない学校で何のために!」
翠の意見に沙織が問いただした。
「こう・・、校庭のグランドに・・、二宮さんも走ってる・・!」
由香が泣きながら窓を見て指を指している。
「あっ!金次郎さん・・!」
沙織と綾乃が窓にへばり付いた。既に何十周もしているのだろうか、汗を掻きながら走る二宮金次郎の銅像の姿があった。
「オリンピック目指してがんばってんのよ!応援してあげなさい!どうでもいいけど、そんな全国区の『学校の怖い話』はいらないの!」
翠は絶対に窓の外は見ないようにして三人に号令をかけた。
「ところで私達、体育館に行くんじゃなかったっけ・・」
由香が泣き崩れべそを掻きながら言った。騒いでいた他の三人が静かになった。
「そう、そうよねぇ・・。私達、なにやってんのかしら・・」
綾乃が首を捻った。
「ちょっとした、前座の肝試しよ。さぁ、体育館に行きましょ」
「だから、何のために!でっ、何の前座よ!」
翠の苦しい言い訳に沙織が突っ込んだ。
「私、余興の前にトイレ行ってくる」
翠が手短なトイレへ駆け込んだ。
「余興じゃないって!もう、早くしてよ!」
沙織は膨れっ面になったが、べそを掻いている由香の顔を見て、いたずらっぽい表情になった。
「ここわね、この学校わね、むかし・・、・・この学校が建つ前は森の聖地だったの・・。人間達に夜の闇を奪われた妖怪達が集まり、この森を守っていたの・・。・・でも、道路が走り、この学校が出来ちゃったの。それに怒った妖怪達が森の精霊達と一緒になって次々と学生達を連れ去って行ったの。いわば・・、神隠しね。一人消え、また一人消え・・。そして誰もいなくなったの・・。それでね・・」
沙織は怖がる由香の顔を覗き込んだ。由香は耳を塞いだまま真っ青な顔をして視線を真正面に集中していた。
「そんなに私の怪談話、超怖い。それがね全部嘘よ!全部私の想像力!私って最高!」
沙織はうぬぼれて見せていたが、怖がっているのは自分の自慢話と違うような気がした。綾乃の様子も窺うと綾乃も声にならない悲鳴を上げながら震えた手で前を指差していた。沙織は二人が標す方向へ視線をやった。
「おまたせーっ」
そこにはハンカチで手を拭きながら帰ってくる翠とその後を歩いてくる大勢の“花子さん”の姿があった。
「先輩が言ってた事・・、本当だったの!」
沙織はこれまでに無い驚きで、またこの世のものとは思えない形相で、声の出ない叫びを上げた。三人は腰を抜かしながら一目散に逃げ出した。
「なにっ!ちょっと!待ってよー」
翠は訳も分からず逃げ出した三人に腹を立て追いかけた。
床を這いずる様に逃げる三人は共に足を引っ張り合いながら我こそ早く逃げ出そうとしている。一番最後の沙織が振り向いてはいけない後ろを見た。そこには鬼になった翠が怒りながら、沢山の“花子さん”を引き連れて走ってきている。沙織はそれを見た瞬間、一気に先頭にのぼり上げだんとつで体育館に一位で着いた。・・・つづく
全6話。15日まで毎日更新。
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