第一幕・ミーティング。
お盆休み特別企画作品
夏の眩しい日差しが校庭を強く照り付け、その暑さに我慢出来なかったように蝉達がうるさく大合唱している。それとはお構いなしに教室では騒々しい終業式が終わった余韻と夏の匂いを感じながら、いつもの四人が机を合わせ各々の通知簿を見ながら外の蝉よりうるさく喋っていた。
「ねぇねぇ、通知簿どうだった」
皆の動向が気になり先に駆り立てるのは決まって沙織だった。
早乙女沙織・・・気ままで能天気。ノリでオカルト研究会に入っているが、実際は今後のオカ研の事を真剣に考えているのは彼女だけかもしれない。
「どうせ、沙織はまた2の並んだアヒルなんでしょ」
翠が両手を合わせ沙織に指差した。途端、沙織は膨れっ面になった。
鷹塚翠・・・オカルト研究会部長。部長といってもオカ研はクラブではない。あくまで同好会である。また部長といってもかなりの現実主義者。
「図星!やっぱりそうなんだ」
由香が急な角度で沙織に顔を向け気だるい声を掛けた。途端、沙織は自分の通知簿で顔を押さえた。
飾磨由香・・・オカルトものには全く無関心。逆に怖い話は大の苦手。
「いいじゃないですか。夏の補習受ければ」
綾乃が露骨に沙織ににこやかな笑いを見せた。途端、沙織は机に伏せた。
栗須川綾乃・・・研究熱心な文学少女。図書係も務めている。
「どうせ私はお決まりのパターンよ。あんた達の一学期の成果を聞いているのよ!どう私と一緒に補習受けない?」
沙織は自分のアヒルの並んだ通知簿を開いて皆に見せた。
「そんな醜いもの見たくは無いわよ!私はあんたと違うの!」
翠は払い除ける様に素早く手を振り蔑んだ視線で沙織を見た。
「じゃ、見せてみなさいよ!」
沙織は翠の通知簿を取ろうとしたが、翠は反射的にすばやく机の中に締まった。
「そんな事より夏休みの自由研究のレポートを考えなくちゃいけないでしょ。その為に集まったんでしょ!」
翠は沙織のアヒルの通知簿を取り上げた。
「あっ!急に話題変えた!」
沙織は大きく目を見開いた。
「そうよねぇ。終業式の終わり際に顧問の光明寺先生が肩を落として言っていたわ・・」
由香が天井を眺め気だるく頷いた。
「何か憂鬱な表情だったわ・・。かなり落ち込んでたみたい・・。それから先生の姿見てないもの」
綾乃が悩ましげに言った。
「・・で、分かる。この深刻な状況が!それなりのレポートを作らなくちゃ、オカ研は無くなっちゃうのよ!先生の立場も無くなっちゃうのよ!」
翠が声を大にして言った。
「先生の立場より運営費が無くなっちゃうのよね。私達の活動資金が・・」
沙織は声を張り上げて翠を冷静に見て言った。
「えー、そーよ。私達の放課後の楽しみが無くなっちゃうじゃない!」
翠は開き直った。
「夏休みなんだから何処か行きましょう。合宿とか」
綾乃が最初に発案した。
「やっぱ、海!海!!」
沙織が盛り上がった。
「ハイビスカスの花が似合う南国がいいなぁ」
由香の目の前には南国の海のロケーションが広がっていた。
「近所の市民プールで十分よ!」
翠がきっぱり言った。しかし三人の耳には届いていない。
「でも、沖縄の海に怪談話は似合わないでしょ。頭の中はバカンス気分よ」
沙織の頭にはハイビスカスが咲いていた。
「世界中の海には怪談話が溢れています。例えば幽霊船とか・・。沖縄にも一つはありますわ」
綾乃の頭にはひまわりが咲いていた。
「あと、海のUMAでクラーケンとかニンゲンとか沢山いるじゃない。沖縄にも絶対いるわよ」
由香の頭にはパイナップルが生っていた。
「なんで沖縄決定なのよ!そんな費用はどこ探してもないわ!」
翠の頭には角が生えていた。
「じゃ、どこの海よ」
「だから近所の市民プールでうきわ付けて浮いてなさい!」
翠の鶴の一声で振り出しに戻る。三人は溜息を付いた。
「海が駄目なら、山でいいんじゃない。学校の周り山だらけなんだから」
少し置いてから一声目に由香が仕切り直し気だるい声を出した。四人の通う中学校は都心から少し離れた田舎にあり、周りは自然に溢れた山に囲まれている。
「ではまた、ツチノコでも探しに行きましょうか。私、絶対いると思うんです!」
綾乃が話しに火をつけた。
「そうそう、前回は惜しかったね。デジタル写真部が邪魔しなけりゃ、いいとこまで行っていたのに」
沙織が悔しそうな表情をした。
「あと、あの廃墟の民宿でテント張って幽霊を生け捕りっていうのはどう?」
綾乃がわくわくした。
「生きてないし・・」
由香が苦笑いした。
「ちょっと待って!合宿するのが前提になっているけど、誰がそう言ったけ!」
翠が指を繋ぎ顎を乗せ目を細めていた。
「えぇー!合宿しないのー!夏だというのに!!」
沙織が愕然と大声を出した。
「春休みの時もそう言いましたね、あなた・・。合宿なんて体育会系でもあるまいし・・、けっ!」
翠は顔を苦々しく横に逸らした。
「運動部に恨みでもあるのか・・!?」
由香が初めて知ったかのように驚いた。これでまた翠の一刀両断で振り出しに戻る。三人はまた溜息を付いた。
「じゃ、お金を掛けず先生方々を納得させるレポートを出せるような方法を考えましょ。身近な所でこの学校の七不思議ってどう・・」
綾乃が次に切り出した。
「あっ!思い付かなかったわ!学校の怪談ね!トイレの花子さんとか・・」
沙織が思い出しかの様にひらめいた。
「だけど、全国区の噂話は駄目!この学校だけのオリジナルを見つけなくちゃ」
ようやく翠が乗り出した。
「この学校は建ってから歴史は古そうだけど、リフォームして改装して名前も改名しちゃってるからそんな怪談話のイメージが無いのよね・・」
沙織が考え込んだ。彼女たちの通う中学校は広大な敷地を持ち、当初は木造建築だったが今じゃ外見から総入れ替えしてレンガ造りの建物だ。名前は『聖桃烏中等学校』と、している。特に合併したという訳ではないが、とりあえず市立である。
「先輩なら知っているんじゃない」
皆が考え込むなか綾乃が思い出した。
「えっ!『ひとりかくれんぼ』が趣味で幽霊部員の黒木美紗先輩!」
沙織も思い出したかの様に言った。
「先輩が幽霊部員っていうのもね・・」
由香が頭を抱えた。
「あの人、今日も来てた?」
綾乃が不思議そうに翠に聞いた。
「存在感が無いけど、毎日来ているようよ。ただ、ここには来ないけどね」
翠も困ったように首を傾げた。
「じゃ、決まり!今から先輩の家に行きましょう!・・で、誰か場所しってる?」
沙織が立ち上がった。
「なんとなく知っているけど・・。何か昼でも薄暗い山道を登っていくんだっけ・・?」
翠が思い出していた。
「やっぱ、翠も私と変わらんじゃん」
沙織が翠の通知簿を引っ張り出し穴が開くほど見ていた。
「なに勝手に見てるのよ!」
翠は沙織が見ている自分の通知簿を引っ張り取った。
「一緒に仲間になりましょう~」
沙織が声を震わせ言った。
「一緒に補習受けましょう~」
由香と綾乃も声を震わせ翠に迫って来た。
「怖っ!」
翠の体に鳥肌が走った。・・・つづく
全6話。15日まで毎日更新。
◎New Age Beginning
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