落ち葉の音
夏の光は、少しずつ柔らかい色に変わり始めました。
ハルは机の上で、オレンジ色の夕光をゆっくりと浴びています。
ナツは今日も元気に跳ね回り、机の端から端までぴょん、ぴょんと飛び跳ねています。
ツユはくぼみの中で静かに休み、まるで風景の一部のようにじっとしています。
でも、空気は少しひんやりとしていました。
夏の強い光と熱の匂いは、もうどこにもありません。
風の匂いも、夏の草や太陽の匂いから、土と木の匂いに変わりつつありました。
そのとき、ハルはふと気づきました。
「……ん?」
屋根の穴の方から、ぱらぱら、と軽やかな音が聞こえます。
見上げると、小さな影がひらひらと舞い降りてきます。
茶色や赤、黄色。
薄くて板のような形。
落ち葉でした。
屋根の上の木々が、風に揺れて、葉を少しずつ手放しているのです。
ひゅう、と風に乗った葉は、廃屋の中へ滑るように落ちてきました。
「わ……すごい」
ハルは思わず声を出しました。
落ち葉は床に散らばり、ぱらぱら、ぱらぱらと柔らかい音を立てます。
屋根や窓から差し込む光に照らされ、葉の影はゆらゆら揺れ、小さな影絵のようです。
ナツは跳ねるのをやめました。
落ち葉が舞う中で、体を止めてじっと見つめています。
少し戸惑った顔には、いつもの元気な表情とは違う、静かな不思議さが浮かんでいました。
「夏……終わるんだね」
ナツは小さくつぶやきました。
その声は、いつもの元気な響きではなく、少し寂しそうに聞こえます。
ハルは頷きました。
床に落ちた葉の色、風に揺れるほこり、部屋全体の光の変化……
すべてが、夏の終わりを知らせているかのようです。
ツユも目を細めました。
くぼみの中で体を少し丸め、光が弱くなったことに戸惑うかのように静かに息をつきます。
ハルは落ち葉の一枚を手に取りました。
乾いた茶色で、かすかに土の匂いがします。
「夏の匂いじゃない……」
ハルは小さな声でつぶやきました。
強い光や熱い匂いはなく、どこか懐かしくて、少し切ない秋の匂いです。
床の上には、葉が小さな川のように広がり、歩くたびにカサカサと音を立てます。
その音に合わせて、ハルの胸の奥も少しざわざわしました。
ナツは葉の上をぴょん、と跳ねました。
乾いた葉が舞い上がり、光の中でひらひらと回ります。
「おもしろいけど……」
ナツの顔には、少しの戸惑いが混じっています。
夏の光の中で跳ねるときとは違う、静かで落ち着いた音と感触。
「変わるんだね……」
ハルは小さくつぶやきました。
夏が終わり、秋が来る。
廃屋の光や空気も変わる。
自分たちの世界も、少しずつ違うものに変わっていくのです。
風が屋根の穴から入り、落ち葉をくるくると舞わせます。
床下の暗がりにも、少しずつ影が伸び、光の輪郭を濃くしていきます。
「光が弱くなったね」
ツユがくぼみから顔を出しました。
少しほっとしたように、落ち葉の上にそっと触れます。
「うん……でも、きれい」
ハルも葉の上を指でなぞりました。
乾いた感触、木の匂い、風の音。
すべてが混ざり合い、夏とは違う静かな世界を作っています。
ナツはふっとため息をつきました。
そして、小さく笑顔を作ります。
「変わるって、ちょっと怖いけど……おもしろいかも!」
ハルはその言葉に微笑みました。
世界は広く、季節ごとに姿を変える。
怖いだけじゃなく、新しい楽しみもあるのだと、静かに思いました。
ふと、ハルは床下の方を見ました。
暗く深い影が伸びています。
この家の中には、まだ知らない世界がたくさんある。
そう思うと、胸が少しワクワクしました。
外では、風が葉を巻き上げ、屋根の穴から差し込む光の中で、ゆっくりと舞っています。
廃屋の中は、夏の熱を忘れたかのように、静かで落ち着いた空気に包まれていました。
三人はしばらく黙って、落ち葉の音に耳を澄ませました。
その音は、夏の終わりと秋の始まりを告げる、小さなメロディーのようです。
ハルは胸の奥でそっと思いました。
(世界は変わる。でも、変わるからこそ、新しい景色が見られるんだ……)
落ち葉はまだ舞い続け、廃屋の中は少し暗く、少し広くなったように感じます。
変化の匂いを胸に、ウイルスたちは静かに、でも確かに、次の季節を迎える準備をしていました。




