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暑い光

 春の雨が去ってから、しばらくして。

 廃屋の光は、少しずつ強くなっていきました。

 朝になると、屋根の穴から差し込む光は、まっすぐ床へ落ちます。

 その光は前よりも白く、前よりも熱を持っているようでした。


 ハルは机の上に戻ってきていました。

 床下のカゲのところから、水の流れに乗って、また上へ戻ってきたのです。

 机の上は、前と同じ場所でした。

 古い傷のある木の表面。

 くぼみにたまる小さな湿り気。

 そこにツユもいました。

「ハル、今日は早いね」

 ツユが言いました。

「うん」

 ハルは光を見上げました。

 光の柱の中では、ほこりがゆっくり回っています。

 でも、その動きは春のころよりも少し速いように見えました。

 窓から入る風が強くなっているからかもしれません。

「なんだか、あったかいね」

 ハルが言いました。

「うん……」

 ツユは少し元気がなさそうでした。

「ちょっと、暑いかも」

 ハルはその言葉を聞いて、周りを見ました。

 確かに、机の上の空気は少し重くなっています。

 光が当たっているところは、やけに明るく感じました。


 そのとき。

 ばさっ。

 窓の方から強い風が入りました。

 机の上のほこりが一斉に舞い上がります。

「わっ」

 ハルは思わず体を伏せました。

 光の中で、ほこりがぐるぐる回ります。

 その中に、何かが混ざっていました。

 それは、くるくる回りながら光の中を降りてきます。

 そして。

 ぽん。

 机の上に元気よく着地しました。

「うわー! 明るい!」

 明るい声でした。

 ハルとツユは同時に振り向きました。

 そこにいたのは、小さなウイルスでした。

 体は丸く、少しきらきらしています。

 動きがとても速くて、じっとしていません。

「ここ、いいね!」

 そのウイルスは言いました。

「光いっぱいだ!」

 ハルは少し驚いていました。

「暑くないの?」

 するとそのウイルスは笑いました。

「暑い? ぜんぜん! むしろ元気になる!」

 そう言って、机の上をぴょんと跳ねました。

 ハルは目を丸くしました。

 ツユは少し後ろへ下がっています。

「わたしは、ちょっと苦手……」

 ツユは小さな声で言いました。

 新しいウイルスは、ようやくツユに気づいたようでした。

「あ、もう一人いたんだ。こんにちは!」

 とても明るい声です。

「ぼく、ナツ!」

 ナツ。

 その名前は、まるで太陽みたいに元気でした。

「ハルだよ」

 ハルは言いました。

「わたしはツユ」

 ツユは少し遠慮がちに言いました。

 ナツは机の上をぐるっと見回しました。

「この家、広そうだね!」

「ぼく、さっき風で飛ばされてきたんだ!」

 ナツは本当に楽しそうでした。

 光の中に飛び込み、くるくる回ります。

「ほら、ここあったかい!」

 ハルも光の中に入ってみました。

 確かに、体がぽかぽかします。

 でも長くいると、少しだけ重くなる感じがありました。

「ハルは平気?」

 ツユが心配そうに聞きました。

「うん……でも」

 ハルは考えました。

「ちょっと疲れるかも」

 ナツはそれを聞いて、きょとんとしました。

「そう? ぼく、全然平気だけどな」

 そしてまたぴょんと跳ねました。

 ツユは日陰のくぼみに戻っています。

 そこは少し湿っていて、光も弱い場所でした。

「ツユは暑いの苦手なんだ」

 ハルが言いました。

 ナツは少し驚いた顔をしました。

「そうなんだ」

 しばらく考えてから、ナツは言いました。

「今まで考えたことなかったけど、みんな違うんだね」

 ハルはその言葉を聞いて、少し考えました。

 ツユは湿った場所が好き。

 ナツは光が好き。

 自分は、そのどちらも少し好き。

 同じウイルスでも、みんな違うのです。

 ナツは光の中で言いました。

「でもさ、違うって、おもしろいよね」

 ハルはその言葉を胸の中で転がしました。

 違う。

 それは少し不思議で、少し楽しいことかもしれません。

 窓の外では、強い夏の光が広がっていました。

 廃屋の中に、長い光の柱が落ちています。

 その光の中で、ナツは元気に動き回り、ツユは静かな影の中で休み、ハルはその真ん中に立っていました。

 同じ場所でも、感じ方は違う。


 それでも、三人は同じ机の上にいました。


 夏は、まだ始まったばかりでした。


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