申し訳ございません。子供といえども人間ですので、お断りです。
1 まじめなサトシ君
サトシ君は、とてもまじめな男の子でした。
朝は、目ざまし時計が鳴る前に目を覚まします。
顔をあらい、歯をみがき、ランドセルの中をたしかめます。
えんぴつは、いつも六本。
どれも、きれいにとがっています。
ノートは、まっすぐ。
忘れ物者は、ありません。
学校でも、サトシ君は、まじめ。
先生のお話は、しっかり聞きます。
きまりも、約束も、ちゃんと守ります。
友だちが困っていたら、そっと声をかけます。
そんなサトシ君には、だれにも言っていない、ひとつの夢がありました。
それは、冬の森でひらかれる「きらきらパーティ」に行くことです。
きらきらパーティは、冬の夜、森のいちばん奥でひらかれる、ふしぎなパーティ。
光る雪がふり、木が歌い、動物たちが集まると、うわさで聞きました。
そして、パーティの最後には、きらきらが見つかると言われていました。
サトシ君は、一年生のころから、その話を信じていました。
でも、冬休みになるたび、お父さんとお母さんに手を引かれ、親せきの家へ行き、森へ行くことは、一度もありませんでした。
そして、サトシ君は六年生になりました。
きらきらパーティに行けるのは、小学生まで。
今年が、最後の冬でした。
「今年こそっ。」
サトシ君は、強く決意しました。
2 夜の森へ
その夜、家の中は、とても静か。
時計の音だけが、こつこつ、と聞こえます。
ふとんの中のサトシ君は、ぱちっと目をあけます。
心が、どきどきしていました。
サトシ君は、そっとふとんを出ました。
コートを着て、マフラーをまいて、音を立てないようにドアをあけます。
外は、とても寒くて、空気がぴんとしていました。息をすると、白くなります。
そうして、サトシ君は、森へ向かって歩き出しました。
雪の上に、小さな足あとがつきます。
しばらく歩くと、森の入り口に着きました。
そこにあったのは、小さな木の門。
その前には、2匹のうさぎが立っていました。
右のうさぎは、緑の目をしており、チョッキを着て、時計を持っていました。
左のうさぎは、赤い目をしており、帽子をかぶって、ステッキを持っていました。
耳は、ぴんと立っています。
「お止まりください。」
緑の目のうさぎは、ていねいに、しかし、冷たい声で言いました。
「申し訳ございません。今年から、きらきらパーティは、動物だけで行われます。子どもであっても、人間は入れません」
サトシ君は、びっくりしました。
せっかく来たのに。
さいごのチャンスなのに。
胸が、きゅっとなりました。
でも、サトシ君は、泣きませんでした。
まじめなサトシ君は、考えました。
どうしたらいいのか、ゆっくり考えたのです。
3 まじめなうそ
そうして、サトシ君は、ポケットから、小さなノートを出しました。
それは、サトシ君が、毎日つけていたノートでした。
やくそくを守れた日、がんばった日、できなかった日。
ぜんぶ、書いてありました。
サトシ君は、うさぎに言いました。
「ぼくは、人間ではありません。」
2匹のうさぎは、目をぱちぱちさせました。
サトシ君は、つづけました。
「ぼくは、まじめな気もちから生まれた妖精です。毎日、やくそくを守ってきたら、ここに来たんです。」
それは、サトシ君が、生まれてはじめてついた、うそでした。
緑の目のうさぎは、うさぎは、ノートを見て、しばらく考えました。
「申し訳ございません。やはり、子供といえども人間ですので、お断りです。」
その時でした。
責めるような眼をした緑の目のうさぎの前で、赤い目のうさぎがステッキをくるりと回し、にっこり笑って言いました。
「わかりました。真面目な妖精さん。どうぞ、お通りください。」
ギギギと音を立てて、門が、ゆっくりと開きます。
サトシ君の心は、どきどきしていました。
しかし、足は、しっかり前に出ました。
こうして、サトシ君は、森のきらきらパーティに参加することになったのです。
4 きらきらパーティ
森の中は、とても明るく、やさしい場所でした。
雪は、ふわふわと光りながらふっています。
でも、それほど、つめたくありません。
木は、そっと光り、葉のない枝から、ちいさな音。
広場のまんなかには、大きな木が立っていました。
木にかけられたランタンが、あたたかい色で、森を照らします。
まわりに、たくさんの動物たちがいました。
みんな、楽しそうに笑っています。
やがて楽しそうな音楽が、聞こえてきました。
たぬきのたいこの音、くまが雪をふむ音、冬の空気が、きしっと鳴る音。
気がつくと、サトシ君は、からだを動かして踊り始めていました。
上手におどれなくても、だいじょうぶ。
リスも、いたちも、小さな子ザルも。
動物たちは、サトシ君のそばで、いっしょに回ってくれました。
サトシ君は、ここでは、だれもせかさないことに気づきました。
だれも、くらべません。
ただ、そこにいるだけで、いいのです。
サトシ君の心は、ぽかぽかしました。
月が、山の陰に隠れようとする頃、パーティは、しずかになっていきました。
動物たちは、それぞれ森の奥へ帰っていきます。
いつのまにか、広場には、サトシ君ひとり。
もう、門の前の2匹のうさぎの姿もありません。
パーティは、いつの間にか終わっていました。
その時です。
サトシ君は、きらりと光った何かを地面に見つけました。
足元の雪の上に、小さなきらきら。
それは、氷でできた鏡のかけら。
鏡には、サトシ君の顔が映っていました。
サトシ君は、それを拾ってポケットに入れると、森の外へと一歩ふみ出したのでした。
5 朝と、これから
サトシ君は、朝の光で目をさましました。
カーテンのすきまから、やさしい光が入ってきます。
台所から、お母さんの声がしました。
いつもの朝でした。
でも、サトシ君の心は、ちがっていました。
溶けてしまったのでしょう。
ポケットに手を入れると、小さな鏡のかけらは、ありません。
湿ったポケットから手を出すと、サトシ君は、にっこり笑いました。
お母さんに気付かれぬよう、そぉっと玄関へ向かいます。
玄関を出ると、空は、冬の青でした。
雲の隙間が、うっすら光ります。
サトシ君は、森の方へと顔を向け、心の中でありがとうを言いました。
そうして、森とは反対へ歩き始めます。
いつもの道です。
でも、一歩一歩が、少し、ちがっていました。
森のは、もう見えません。
でも、サトシ君の心の中では、今も、森のきらきらが、やさしく光っています。
それは、これから先も、ずっと消えない光なのでした。




