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申し訳ございません。子供といえども人間ですので、お断りです。

作者: 三浦謙
掲載日:2026/01/22

  1 まじめなサトシ君


サトシ君は、とてもまじめな男の子でした。


朝は、目ざまし時計が鳴る前に目を覚まします。

顔をあらい、歯をみがき、ランドセルの中をたしかめます。

えんぴつは、いつも六本。

どれも、きれいにとがっています。

ノートは、まっすぐ。

忘れ物者は、ありません。


学校でも、サトシ君は、まじめ。


先生のお話は、しっかり聞きます。

きまりも、約束も、ちゃんと守ります。

友だちが困っていたら、そっと声をかけます。


そんなサトシ君には、だれにも言っていない、ひとつの夢がありました。


それは、冬の森でひらかれる「きらきらパーティ」に行くことです。


きらきらパーティは、冬の夜、森のいちばん奥でひらかれる、ふしぎなパーティ。

光る雪がふり、木が歌い、動物たちが集まると、うわさで聞きました。

そして、パーティの最後には、きらきらが見つかると言われていました。


サトシ君は、一年生のころから、その話を信じていました。

でも、冬休みになるたび、お父さんとお母さんに手を引かれ、親せきの家へ行き、森へ行くことは、一度もありませんでした。


そして、サトシ君は六年生になりました。

きらきらパーティに行けるのは、小学生まで。


今年が、最後の冬でした。


「今年こそっ。」


サトシ君は、強く決意しました。


  2 夜の森へ


その夜、家の中は、とても静か。


時計の音だけが、こつこつ、と聞こえます。


ふとんの中のサトシ君は、ぱちっと目をあけます。

心が、どきどきしていました。

サトシ君は、そっとふとんを出ました。

コートを着て、マフラーをまいて、音を立てないようにドアをあけます。

外は、とても寒くて、空気がぴんとしていました。息をすると、白くなります。


そうして、サトシ君は、森へ向かって歩き出しました。


雪の上に、小さな足あとがつきます。


しばらく歩くと、森の入り口に着きました。


そこにあったのは、小さな木の門。

その前には、2匹のうさぎが立っていました。



右のうさぎは、緑の目をしており、チョッキを着て、時計を持っていました。

左のうさぎは、赤い目をしており、帽子をかぶって、ステッキを持っていました。


耳は、ぴんと立っています。


「お止まりください。」


緑の目のうさぎは、ていねいに、しかし、冷たい声で言いました。


「申し訳ございません。今年から、きらきらパーティは、動物だけで行われます。子どもであっても、人間は入れません」


サトシ君は、びっくりしました。

せっかく来たのに。

さいごのチャンスなのに。

胸が、きゅっとなりました。

でも、サトシ君は、泣きませんでした。

まじめなサトシ君は、考えました。


どうしたらいいのか、ゆっくり考えたのです。


  3 まじめなうそ


そうして、サトシ君は、ポケットから、小さなノートを出しました。

それは、サトシ君が、毎日つけていたノートでした。

やくそくを守れた日、がんばった日、できなかった日。

ぜんぶ、書いてありました。


サトシ君は、うさぎに言いました。


「ぼくは、人間ではありません。」


2匹のうさぎは、目をぱちぱちさせました。


サトシ君は、つづけました。


「ぼくは、まじめな気もちから生まれた妖精です。毎日、やくそくを守ってきたら、ここに来たんです。」


それは、サトシ君が、生まれてはじめてついた、うそでした。

緑の目のうさぎは、うさぎは、ノートを見て、しばらく考えました。


「申し訳ございません。やはり、子供といえども人間ですので、お断りです。」


その時でした。


責めるような眼をした緑の目のうさぎの前で、赤い目のうさぎがステッキをくるりと回し、にっこり笑って言いました。


「わかりました。真面目な妖精さん。どうぞ、お通りください。」


ギギギと音を立てて、門が、ゆっくりと開きます。


サトシ君の心は、どきどきしていました。

しかし、足は、しっかり前に出ました。


こうして、サトシ君は、森のきらきらパーティに参加することになったのです。


  4 きらきらパーティ


森の中は、とても明るく、やさしい場所でした。


雪は、ふわふわと光りながらふっています。

でも、それほど、つめたくありません。


木は、そっと光り、葉のない枝から、ちいさな音。

広場のまんなかには、大きな木が立っていました。

木にかけられたランタンが、あたたかい色で、森を照らします。


まわりに、たくさんの動物たちがいました。

みんな、楽しそうに笑っています。


やがて楽しそうな音楽が、聞こえてきました。

たぬきのたいこの音、くまが雪をふむ音、冬の空気が、きしっと鳴る音。


気がつくと、サトシ君は、からだを動かして踊り始めていました。

上手におどれなくても、だいじょうぶ。


リスも、いたちも、小さな子ザルも。


動物たちは、サトシ君のそばで、いっしょに回ってくれました。


サトシ君は、ここでは、だれもせかさないことに気づきました。


だれも、くらべません。

ただ、そこにいるだけで、いいのです。


サトシ君の心は、ぽかぽかしました。


月が、山の陰に隠れようとする頃、パーティは、しずかになっていきました。


動物たちは、それぞれ森の奥へ帰っていきます。


いつのまにか、広場には、サトシ君ひとり。


もう、門の前の2匹のうさぎの姿もありません。


パーティは、いつの間にか終わっていました。


その時です。


サトシ君は、きらりと光った何かを地面に見つけました。

足元の雪の上に、小さなきらきら。


それは、氷でできた鏡のかけら。

鏡には、サトシ君の顔が映っていました。


サトシ君は、それを拾ってポケットに入れると、森の外へと一歩ふみ出したのでした。


  5 朝と、これから


サトシ君は、朝の光で目をさましました。


カーテンのすきまから、やさしい光が入ってきます。

台所から、お母さんの声がしました。


いつもの朝でした。

でも、サトシ君の心は、ちがっていました。


溶けてしまったのでしょう。

ポケットに手を入れると、小さな鏡のかけらは、ありません。

湿ったポケットから手を出すと、サトシ君は、にっこり笑いました。


お母さんに気付かれぬよう、そぉっと玄関へ向かいます。

玄関を出ると、空は、冬の青でした。


雲の隙間が、うっすら光ります。


サトシ君は、森の方へと顔を向け、心の中でありがとうを言いました。


そうして、森とは反対へ歩き始めます。


いつもの道です。


でも、一歩一歩が、少し、ちがっていました。

森のは、もう見えません。


でも、サトシ君の心の中では、今も、森のきらきらが、やさしく光っています。

それは、これから先も、ずっと消えない光なのでした。

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― 新着の感想 ―
サトシくんの知恵がきいていて面白かったです! きらきらパーティ、すごく楽しそうですね。心があたたまりました!
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