光と瘴気の衝突
巨獣が村へ向けて踏み出した瞬間、
地面がドンと震え、舞い上がった土埃が空気を濁す。
「前衛、構えろ!!」
狩人の隊長が叫ぶと同時に、
十数名の男たちが盾を前に突き出し、東門の前で壁を作った。
レオン兄さんはその一歩前に出て、剣を構えた。
僕は兄さんの背中のすぐ後ろ。
(怖い……でも、逃げない。絶対に)
◆ 巨獣の突進
巨獣の赤い目がギラリと光り、
次の瞬間――
ズドォォォォン!
黒い霧を撒き散らしながら突進してきた。
「くるぞッ!!」
レオン兄さんの声と同時に、前衛の盾が一斉に構えられる。
巨獣の体当たりは――
まるで“山”がぶつかるような衝撃だった。
ガッ……ギギギギッ!!
盾が軋み、地面が削れ、狩人たちが後ろへ押し返される。
「ぐ、うおおおっ!!」
「下がるな! 踏ん張れ!!」
兄さんが剣を振り下ろし、巨獣の前脚に斬りかかる。
だが――
ズバッ!
剣は、瘴気の膜に触れた瞬間、煙を上げて弾かれた。
「何だ……こいつ……!」
兄さんの目が鋭くなる。
「ユウト! やっぱり“浄化”が必要だ!!前脚の瘴気膜を消せば、攻撃が通る!」
「うん!」
◆ ユウトの浄化・初の“戦闘使用”
僕は胸の奥に集中し、光の膜を広げようとした。
(深く、狭く……でも“届く”距離まで)
手を前にかざした瞬間――
巨獣の前脚に触れそうな光の膜が、ふわりと広がった。
ジュウゥゥ……!
膜が瘴気を焼き、黒い霧が弾ける。
狩人たちが驚きの声を上げた。
「な、なんだあれ……光だ……!」
「瘴気が消えていく……!」
レオン兄さんが叫ぶ。
「今だッ!!」
兄さんの剣が再び振り下ろされる。
今度は、剣が瘴気に弾かれなかった。
ザシュッ!
巨獣の前脚から黒い血が飛び散る。
巨獣が咆哮し、のけぞった。
グオオオオオオオッ!!!
「やった……!!」
僕の胸に一瞬、喜びが生まれた。
しかし――その瞬間だった。
◆ 巨獣の異常な能力
ブワァァァ……ッ
巨獣から黒い霧が一気に噴き出した。
「え!? さっきより濃い……!!」
レオン兄さんもすぐに異変を察した。
「ユウト、離れろ!!」
叫ぶ声の直後、巨獣の身体の周囲に“渦”が生まれた。
黒い霧がぐるぐると回転し、まるで……“吸い込んでいる”みたいに見えた。
「……瘴気を……集めてる……?」
長老が震えた声で呟く。
「違う……“奪っている”のじゃ……!周囲の瘴気だけではない! 地面、生き物……すべての“力”を取り込んでおる!!」
その言葉の意味が脳裏に突き刺さる。
(力を奪う……!?)
巨獣の足元で、草や小石が黒く変色していく。
狩人の一人が叫んだ。
「こ、これ以上近づいたら……吸われる!!」
レオン兄さんが僕の肩を引き寄せ、必死に叫ぶ。
「ユウト! 不用意に近づくな!これはただの魔獣じゃない……瘴気核が“成長”してやがる……!」
巨獣の赤い目がこちらを向く。
その目は先ほどより、さらに濁り、深く、
まるで“誰かの怨念”が宿ったような赤だった。
◆ 村人が危険に晒される
突然――
「きゃああああああっ!!」
村の後ろから、女性の悲鳴が響いた。
巨獣の霧の一部が後方へ吹き飛び、
避難していた人たちの方へ流れていく。
「やばい……!」
僕は思わず走り出した。
「ユウト! 待て!!」
兄さんの声が聞こえたが、
脚はもう止まらなかった。
(あの霧が村人に触れたら……!)
胸が叫んでいた。
(助ける!!)
◆ “範囲浄化”の限界突破
僕は飛び込むように霧の前へ立ち、両手を広げた。
「広がれ……! もっと……!!」
胸の奥から、これまでで一番強い光が噴き出した。
バッ……!
空気が一気に押しのけられるように震え、霧が光の力で焼かれ、弾き飛ばされる。
村人たちが息を呑む。
「光だ……! ユウト君が……!」
「霧が消えていく……! 本物の“浄化使い”だ!」
僕は奥歯を食いしばりながら叫んだ。
「大丈夫……もう、誰にも触れさせない……!!」
……しかし。
光が広がりきった瞬間、
僕の視界がぐらりと揺れた。
「……っ!」
膝が崩れかける。
(まずい……力を使いすぎた……)
その瞬間――
巨獣がこちらへ向けて大きく口を開き、
ゴウッ!!!
黒い弾丸のような瘴気を吐き出した。
それは、真っすぐ僕へ向かって飛んできた。
逃げられない。
「――ユウトォォォッ!!!」
レオン兄さんの絶叫が響く。




