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灰の谷の灯火  作者:


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2/13

はじまりの努力

転生してから三日。

村の生活は穏やかだが、僕の胸の内は落ち着かなかった。


――また、制御できずに倒れたらどうしよう。


この身体に宿った“浄化の力”は、確かに周囲の穢れを祓う。

けれど同時に、使うたびに体力を大きく削り、気を抜けば意識を手放してしまう危険な代物だ。


「……鍛えないと、また迷惑をかける」


思い出すのは、初めて力が暴走した日のこと。

僕を抱えて心配そうに泣いた母さんの顔が、胸の奥に刺さっている。


だから今日は、ひっそり家の裏手にある小さな丘で、

一人で“浄化”の練習をすることにした。


深呼吸をして、両手を胸の前で合わせる。


「……来い」


静かに世界へ意識を向けると、周囲の空気がわずかに震えた。

薄い霧のような“穢れ”が、僕の掌に引き寄せられる。


「……ッ!」


胸の奥がじわりと熱を帯びた。

血が沸き立つような感覚と共に、力が膨らんでいく。


――大丈夫、焦らない。少しだけ、少しずつ。


暴れそうになる力を、押しとどめるイメージを重ね続ける。

すると、ほんのわずかだが……穢れが光へと変わり消えていった。


「や……やった……!」


成功だ。まだ微弱だけど、自分の意思で“浄化”を調整できた。

胸の奥から、じんわり温かい達成感が湧いてくる。


けれど――。


「――危ないッ!」


背後から突然声がして、驚いた僕の集中が乱れる。


ドン、と胸の奥で何かが弾けた。

視界が白く染まり、力が一気に暴れ出す。


「う、うわっ……!」


足元がふらつき――倒れそうになった、その瞬間。


ガシッ。


強い腕が僕の身体を受け止めた。


「おまえ……こんな所で何してるんだ!」


振り返ると、村の若者で狩り役のレオン兄さんがいた。

額には汗、肩で息をしている。


どうやら僕の気配の異変に気づいて駆けつけてくれたらしい。


「……ご、ごめんなさい。練習してて……」


「危なすぎる! 一人でやるなと言っただろ!」


叱る声は厳しい。けれど、それ以上にその瞳は“心配”の色で満ちていた。


「そんなに無茶するほど……強くなりたいのか?」


胸が痛くなる質問だった。


僕はうつむいて、正直に答える。


「……また、誰かを泣かせたくないんです。だから、ちゃんとコントロールできるようになりたい」


レオン兄さんは、しばらく黙ったまま僕を見つめ――

はぁ、と大きく息をついた。


「……わかった。なら俺が教えてやる」


「え?」


「力の制御は命に関わる。おまえ一人に任せられるかよ。明日から、俺も付き合う」


驚きと同時に、胸の奥に温かさが広がる。


「……ありがとうございます!」


レオン兄さんは口の端を少しだけ上げた。


「礼はいい。倒れるなよ、弟みたいなもんだろ」


その言葉が、すごく嬉しかった。


こうして――僕の“努力の一歩目”は、誰かに支えられながら始まった。


まだ弱くてもいい。

でも必ず、力を制御できるようになってみせる。


明日は、もっと強くなれる気がした。

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