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聖女の夜に望まぬ別れ  作者: 打方花情
第1章 聖女の夜に消える

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1-9.金色に輝く魔力

 石は滑らかな曲線を描く楕円形で、乳白色の表面をしている。コーラムさんは私たちに石が見えるように持ち、円周近くにある等間隔の小さな凹みを指差す。


「凹みが全部で7つあるでしょう? これは各属性を表しています。右から火、水、風、雷、土、光、闇。神殿のものよりも精度は落ちますが、石の中央に一滴の血を垂らせば、その人の魔力がどの属性に適しているのかが判定可能となっています」


 コーラムの面長な顔には誇らしげな自信がありありと浮かび上がっていた。すかさずシャーロットが素直な賛辞を贈る。


「すごい! これなら気軽に魔力測定ができるわ!」

「このような発明があったとは驚きました……」


 カーティスお兄様は信じられないような様子で白い石を見つめている。常に疲労が色濃いお兄様にしては珍しく、気の抜けたような、本気で驚いた顔していた。


「こちらの測定器は魔力量を測ることもできるのですか?」

「いいえ、エルフィオネお嬢様。しかし大まかな推定は可能です」

「それはどのように?」


 胸に疑念が残って問うと、コーラムさんは口ごもる間もなく答える。


「この簡易魔力測定器は魔力に反応して光が放出されます。光が強いほど魔力量が多い証拠となるのです」

「なるほど。魔力が多い少ないは視覚で判断できるのですね」


 具体的な数値はわからないにしろ、隠れた才人を発掘するには便利な器具だ。魔物の出現数が上昇している中、魔法師の需要はどんどん増加していっている。コーラムさんの提案は現状を見据えたものなのかもしれない。


「どなたか、よろしければ試してみますか?」


 カーティスお兄様は少し躊躇った後、眉間にしわを寄せて遠慮した。


「いや、いい。きちんとした場で試させてもらいたい」

「あら、いいの? じゃあお兄さま、わたしがやってみてもいいかしら?」


 シャーロットが立ち上がって小麦色の両眼に訴えかける。チラッとカーティスお兄様が私の方を見たので軽く肩をすくめる。


「私は大丈夫です。シャルがやりたいのなら反対しません」

「そうか。ではコーラムさん、妹の魔力を測定してくれますか?」


 隣から嬉しさを堪える声がする。


「お任せください」


 コーラムさんは快諾し、トランクケースから粗目の布と透明な液体が入った瓶を手に取った。


「人差し指を出していただけますか? まずは衛生面を考慮して消毒させていただきます」

「わかったわ」


 右手の人差し指をコーラムさんの前に出し、シャーロットは動じず静かに待つ。酒に似た匂いがする液体を布に染み込ませ、コーラムさんは針を一拭きして別の布でシャーロットの人差し指を拭いた。


「……少し痛みますよ」


 針を刺した箇所から血液がぷくりと盛り上がる。シャーロットが簡易魔力測定器の真ん中に一滴の血を落とすと、瞬く間に光属性の凹みに金色の光が放たれた。神々しい光は留まるところを知らず、応接室を包み込むほどの輝きに到達していた。


「何これ? わたしの魔力はどうなっているの?」


 シャーロットが心底不思議そうに疑問を呈した。ただちに灰色の双眸に視線を移し、驚愕した様子のコーラムさんに声をかける。


「コーラムさん。シャルの魔力量はどのように推定できますか?」

「これは……正直なところ、見たことがない光の強さでして……!! 〈大魔法師〉と同等か、それ以上の才能があるかもしれません」

「そんな馬鹿な! ウォード家は代々魔法に嫌われてきたはずだ」


 簡易魔力測定器を注視し、コーラムさんは額にしわを作った。お兄様は狼狽して焦げ茶の髪を乱すように掴む。


「測定器に何か異常があったのかもしれませんが、このような誤作動は本来あり得ません。念のため神殿で正式な測定をおすすめしますとしか……」


 私含め、シャーロット以外の三人は困却して互いに顔を見合わせる。

 コーラムさんが嘘をついていないとするならば、シャーロットは光属性の魔法を扱える天才ということになる。すなわちそれは――。


「とりあえず今すぐ神殿へ向かおう。コーラムさん、本日は大変有意義な時間をありがとうございました。また後日、お会いしましょう」

「こちらこそありがとうございます、侯爵閣下。わたくしの方で測定器の破損がないか等を確認しておきます。何か急用がございましたらコーラム孤児院へご連絡を。わたくしがすぐさま対応いたします」

「わかりました」


 お兄様は執事に馬車の手配を頼み、コーラムさんは光が収まり始めた測定器をトランクケースの中に入れる。シャーロットは自身の手のひらを見つめ、歓喜が混じった顔つきになる。


「お姉さま、わたしは魔法使いになれるってこと?」

「そうかもしれないわね」


 魔法には訓練が必要なため、今すぐ魔法師になることはできない。しかしシャーロットには大いなる可能性の種が潜んでいた。

 不意にシャーロットが私の耳元に顔を寄せて囁く。


「アネモス卿とお近づきになれるかしら?」

「シャル。大した面識のない一人のために、今の生活を捨てるつもり?」


 不安や心配、呆れが複雑な胸中を形成し、叫び出したい気持ちを必死に胃の中へ押し留める。

 魔法師は魔物と命がけの戦闘を繰り返す。光属性魔法は治癒に特化しているが、負傷した魔法師のため、危険地域へ駆り出される場合があると聞く。

 シャーロットは不貞腐れた顔をして息を吐いた。


「そんな怖い表情しないで。もしかしたら〈大魔法師〉になれるほどの魔力があるかもしれないのでしょう? このまま放置しておくなんて宝の持ち腐れだと思うの」

「そうだとしても……危険が伴うのに喜ぶことはできないわ」

「平気よ、お姉さま! きっとわたしを助けてくれる人がいるわ」


 シャーロットのはにかんだ笑顔にアネモス魔法伯を暗示しているのだと気づいた。実際、ドラゴンから私たちを助けたのは彼だ。でも、毎度のごとくアネモス魔法伯がいらっしゃるわけではない。

 恋は盲目を体現する義妹に言葉が出ない。


「シャル、エルフィー。コーラムさんを見送る。お前たちは馬車の準備が出来次第乗り込んでくれ」

「はい、お兄様」

「わかったわ」


 コーラムさんは私たちに礼をしてお兄様とともに応接室を去っていく。少しして執事が馬車の手配ができたと告げてきた。私とシャーロットは馬車内でお兄様を待ち、だんだんと大きくなる足音に耳を澄ましていた。


「待たせたか?」


 お兄様は扉を開けて馬車の中で座る私とシャーロットに目線を送る。


「大丈夫ですよ、お兄様」

「さ、行きましょう!」


 テンションが高いシャーロットにカーティスお兄様は怪訝な眼差しを向けた。乱れた髪だからか、いつもより荒っぽい印象になる。


「シャル、今がどんな状況かわかっているのか?」

「何? お兄様まで険しい表情をして。別にいいじゃない! 魔法師って憧れの職業なんだから!」

「なぜ憧れになるのか理解していないようだな」

「今は急ぎましょう。焦っていては心ない言葉が飛び出してしまいます」


 養父の実子たちは同時に不服そうな顔をして沈黙した。しかし馬車は神殿を目指して出発し、同中に彼らが喧嘩して言い争う場面はなかった。

 王都の市街地から離れた場所。歴史の重みが感じられる建築物が見えた頃、私は知らず緊張して手のひらに汗をかいていた。

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