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過去の私はあなたを何て呼んでいましたか?  作者: 結野杜男


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⑧ 母の計画

出版社の記者という仕事を通じて、過去の自分を探し求める物語です。

自動車事故の取材をしていることはまだ会社には報告をしていない。これ以上報告なしに調査を進めるのは立場上厳しいので、まずは医療ミスの記事の作成を優先することにした。

私には班長直伝の”山田式=読者が読みたくなる文章の組み立て方の3箇条”がある。これを忠実に参考にして、丸1日を費やして原稿を完成させた。最後に読み返してみるが我ながら良くできたほうである。

私の中での過去最高の自信作を班長に提出した。原稿を読んでいる班長の顔色をうかがいながら私は自動車事故の取材の件を切り出した。

「この医療ミスの原因となった自動車事故の取材をこのまま引き続いてやる予定ですが、問題ないですよね?」

「ダメだ」

「医療ミスと自動車事故は切っても切り離せない関係を持った案件です。私が引き続き取材をやるのがベストだと思います」

「ダメだ」

「医療ミスの取材の中で自動車事故の情報もたくさん集まってきてます。もう私の方で情報をまとめ始めていますので、私に取材の許可をください」

「ダメだ、それはそうと昨日社用車で220kmも移動してるが、どこまで行ったんだ?」

「えっ、それは… 医療ミスの取材で、赤穂の番吾総合病院に行ったんですけど、迷ってしまって海岸線の方をグルグルと…」

「噓をつくならもっとましな噓をつけ、社用車のETCカードの履歴を調べればすぐわかるぞ」

「すみません、岡山の備前に行ってきました。でもちゃんとした取材です」

「備前だと、誰かと会ってたのか? まさか自動車事故の件、取材を始めてるんじゃないだろうな」


私は昨日の出来事をすべて班長に話した。備前という地名がNGワードだった。班長もこの自動車事故の件で備前に住んでいるある人物を思い出していたそうである。

「杉山さんは元気そうだったか?」

「はい、私に説明するのがすごく嬉しそうで、聞いてないことまでいろいろ教えてもらいました」

「あの人は20年前、ここの第3班の班長だった。当時は第3班が自動車事故の調査をしていたんだが、あの人は必要以上にのめり込んでしまって、社長からストップが掛かったんだ」

「そうだったんですね、でもどうして社長からストップが…」

「どの業界にも開けちゃ駄目な扉があるんだが、どうしてあそこまでのめり込んでしまったのか、いまだに俺には理解できない。結局それが理由でここを退職したが再就職した岡山の出版社でも調査を継続していたらしい」

「すごい情熱ですね」

「情熱をもって取材をするからいい記事が書けるんだ、内田、おまえにその情熱はあるのか?」

「もちろんあります。この件を最後まで調べていく覚悟があります」

「そうか… よし、分かった。ちょっと待ってろ」

そう言って班長は席を立ち、フロアーの奥にある部長の部屋の中に入っていった。


私は開けっ放しのドアから部屋の中が見える位置に移動した。椅子に座った部長はどこかに電話をしている。班長はその前に立っている。

しばらくすると電話を切った部長は席を立ち、班長に何かを話しゆっくりと歩き始めた。歩きながらも2人は話をしているが内容までは聞こえてこない。

班長は部長とともにこちらに戻ってきた。少し怒っているような表情の部長は私に言った。

「もう20年も昔の話だから、向こうの組織も変わって影響はないと思うが…」

「組織ですか?」

「ああそうだ、この件は杉山さんが踏み込んではいけないところまで踏み込んでしまったようで、当時の社長が兵庫県知事に呼び出されて、直々に取材の中止要請を受けた」

「県知事が、どうしてですか?」

「広島の高山商店が裏から手を回したという噂だ。加害者のトラックの荷物はすべて高山商店が大阪港で仕入れた海産物だ。それを積んだトラックが身内を轢き殺したんだからな」

「えっ、それは初耳です。」

「杉山さんから聞いてないのか? どうやら逃げ道を準備しておいてくれたようだな。この事実を知ったら誰だって取材の意欲が増すからな、20年前の杉山さんのように」

「この事故って…」

「ああ、何か表に出てはいけない理由があった、そのために裏で金を使って真相を闇に葬ったんだろう」


非常に危ない案件に私は足を踏み入れてしまった。そうならないために杉山さんは逃げ道を作っておいてくれたのだろう。しかし私は逃げるわけにはいかない、父のため、加害者の娘として。

「さっき広島の情報筋に電話をして確認をしたが、3年前に"広島の魔女"と呼ばれた6代目の社長が亡くなり、三男へと代が変わった。その7代目は過去の闇を精査して会社の軌道を修正中らしい」

「ならば是非、私に調査の許可をください」

「過去に曰く付きの案件だ、これから何が起こるかわからない、それに立ち向かう覚悟が必要だ。その覚悟があるならやってみろ。ただし班長の山田に逐一報告を入れることが条件だ」

「わかりました、ありがとうございます。真相を究明します」

話が終わると部長は部屋に戻っていった。班長は私の原稿を持って自分の机に向かった。その場に取り残された私の手は小刻みに震えていた。グッと拳を握って震えが止まるのを待った。

数分後、その場にまだ立ち尽くしていた私のもとに、班長が赤のサインペンでいくつか修正された原稿を突き出してこう言った。

「まずはこの原稿の修正だ。ここさえ直せば無事出稿だ」

「ありがとうございます、すぐ直します」

「まあ、土日はしっかり休んで、週明けから取材を開始しろ、あまりのめり込み過ぎるなよ。それと必ず俺に報告をしろ」

「はい、了解しました」


私は原稿の修正を終わらせて土日は実家に帰ることにした。最近は取材と称して実家に帰ってきていたが、仕事ではなくプライベートで帰るのは数年ぶりである。

帰ってきた理由の1つに父の起こした自動車事故の件もある。そのことについては多くを話さなかった母としっかり話をするつもりだ。

私は自分の部屋の窓を全開にして空気の入れ替えをした。今日は風が涼しく湿度も低いためとても7月下旬とは思えない天気である。

夕方には母と近くのスーパーに夕食の買い物に出かけた。こんなに時間がゆっくり流れる平和な日常は久しぶりだ。

夕食を食べ終えた祖母はいつものようにリビングへ移動してテレビを見ながらお茶をすする。私と母はいつものように缶ビールで乾杯をする。

「とりあえず医療ミスの原稿も書き終えて、ようやくひと段落した感じかな」

「そうなの、前は自信満々だったけど記事の投稿者の欄は上司と連名になったって文句言ってたけど、今度は大丈夫なの…」

「今度は大丈夫、完璧に仕上げてきたから」

「じゃあ楽しみに待ってるわ」


近況を母に話す娘って感じで時は流れていくが、私は意を決して話を今日ここに来た理由である自動車事故に移すことにした。

「お父さんって交通事故で死んだって聞いてるけど、どんな事故だったの」

「何を今更そんなこと聞くの、20年も前のことだから忘れたわ」

「取材をした医療ミスってその事故で救急搬送された患者さんに対して起きたものだって確認が取れたから」

「車同士の出会いがしらの衝突だったかしら」

「噓だ、マミーが知らないはずはない。お父さんが運転していたトラックが路肩に停車していた車に突っ込んだんでしょ」

「…」

「その事故でたくさんの人が死んだんだよ!」

急に声を荒げた私に少し驚いた母は、何かを考えているかのように少し沈黙をしてから話し始めた。

「遅かったね、美幸。美咲は半年くらい前にたどり着いたのよ」

「えっ、遅い、何のこと…」

「美咲は順調にバトミントンで結果を出して、高山商店がスポンサーを務める"広島ラケッツ"に入れたから、中にいるといろいろ情報が聞こえてくるみたい」

「どうして高山商店が出てくるの、どういうこと?」

「美幸はバトミントンが下手だったから、少し遠回りしたけどたどり着けて良かった」

「わからない、ちゃんと説明をして…」


自動車事故の1か月後、母のもとに手紙が届いた。送り主は事故で死んだ父だった。父は知り合いに頼んで自分が死んだ場合、1か月後に手紙を投函してくれと頼んでいたらしい。

その手紙には離婚してからの2年間に起きた、父と高山商店との関係の記録が書いてあり、母はこの事故の真相を知り、私たちのために命を懸けた父の行動に涙を流した。

母は復讐を誓うが、同時に自分の無力さを痛感し、何もできない自分に代わって2人の娘に復讐を託すことにした。

姉を事故の真相を暴く記者に、妹を高山商店に潜入させるためにバトミントン選手に、2人の娘の人生に復讐のレールを敷いた。

「私が立てた計画がようやく花を咲かせたわ、今からお父さんの過去と手紙の内容をすべて話します」

全13話構成となります。

次回第9話は、9/26(金)21:00頃になります。

ダメ出し、感想、何でもよいのでリアクションしてもらえると励みになります。

皆さん、よろしくど~ぞ♪

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