表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

③ DNA検査

出版社の記者という仕事を通じて、過去の自分を探し求める物語です。

もしも私が刑事ならば、黒い縦開きの手帳をバッと見せて、2年前の7月20日の前後1週間の出産の記録を確認して、そこに記載されている人を全員集めてまとめてDNA検査を実行して、見事に事件解決となったかもしれない。

しかし私は地方の出版社に勤務をする、どちらかと言えばまだ駆け出しの記者である。残念ではあるがやれることに限界はある。そんなことを考えながら山陽自動車道を赤穂に向けて走らせている。

実家の稲美町から病院のある赤穂市までは直線距離でおよそ60km、少し遠回りの高速道路を使用してもゆっくり走っても2時間あれば確実に着く距離である。

赤穂ICで高速を降りてナビに従い車を走らせると、住宅街を抜けて大きな公園に向かう緩やかな長い坂を上ると目の前に大きな建物が現れた。

<番吾総合病院>に到着した、救急救命科も併設してあるとても大きな病院である。


駐車場に車を止めて病院の受付に向かった。依頼者が覚えていた取り違いの可能性のある男の子を出産した女性の旦那さんがこの病院に勤務している。

勤務しているというか、この病院の院長の息子で将来的には次の院長になるだろう人物だ。現在は救急救命科に研修医として勤務しており、きっと将来有望な医者なのであろう。

名前は番吾秀平といい、年齢は27歳。昨日インターネットで調べてみて驚いたが、私と同じ年齢だ。

敷地が広く少し迷ったが受付に到着し、救急救命の取材と称して話が聞けないかと尋ねてみたが、やはり事前にアポイントがないと今日来て今日は無理とのことだ。

運が良いことに明日ならば時間が取れるということでアポイントを取り、まずは腹ごしらえをすることにした。


敷地の真ん中を走っている道路の両側に6階建ての大きな建物がある。駐車場から見て手前が検査などの病棟で奥側が入院などの病棟になっている。

入院病棟の1階にレストランがある。建物の外側の窓に面していて横に長い構造になっていて、日の光が取り込まれ雰囲気の良いお店だ。

私は大好物のハンバーグを注文した。和風の餡かけがのっているタイプのハンバーグだ。私のベストはデミグラスソースなんだけどこれはこれで美味しかった。


病院のレストランで昼食をとり、この病院のメインであろう出入り口付近で出て来る通院者や職員に話を聞いた。

まったく有益な情報を入手できずにいたが、聞き込みを初めて3時間くらいが経過したころ、この病院で30年近く事務をしている50代の女性から答え合わせ的な情報を得ることができた。

院長の息子である番吾秀平には2歳くらいの息子がいる。3歳年上の奥さんはとにかく派手で金遣いが荒く、たまに病院に来るが香水のにおいがきつく周りに気を使えないタイプの人間とのこと。

彼女は食事会と言って家を空けることが多く、それは子供ができてからも変わらないらしい。実家は神戸で子供の出産はそっちで産んだようだ。

改めて思うが聞き込みってやつはすごく難しい。日が暮れるころまでおよそ5時間それに費やしたが有益な情報はなく、すでに収集済みの情報にちょっとプラスした程度しか得られなかった。


病院を後にして緩やかな長い坂を下り国道を左折して町の中心を目指す。JRの駅近くのビジネスホテルにチェックインをした。

明日は13:00にアポイントを取ることができているので、今日は明日の戦略を練りつつお酒をたしなみ、相変わらずのノープランで挑む決意をした。


昨日のアルコールのほどよい影響もあり睡眠は十分である。昼食の時間に合わせて病院に行き再びレストランでハンバーグを注文した。

今日はミートソースがのっているタイプである。残念ながらこの店にはデミグラスソースののっているハンバーグは置いてなかった。

約束の時間になったので受付に行くと2階の小さな部屋に案内された。出していただいたお茶を飲みながら待っていると背の高い男性が入ってきた。

「すみません、お待たせしました。ここの救急救命科で研修医をやっています、番吾秀平です」

「はじめまして、本日は時間を作っていただきありがとうございます。播磨出版の内田美幸と申します」

とても同級生とは思えないほど落ち着いた物腰の男性で、話し方も冷静さが漂っている。

私は一夜漬けの救急救命の知識を振り絞って、救急救命の現在の状況とこれからの将来の目標を聞き取り、気が付いたら30分が経っていた。

14:00までの予定なので残りは30分、私は意を決して話の本題に入った。

「実は救急救命の取材と平行して、稲美町にある藤田クリニックで発生した赤ちゃんの取り違いの件も調査しているのです」

「藤田クリニックで赤ちゃんの取り違いがあったのですか? 私の息子もそこで生まれていますよ」

「私の会社に調査の依頼があったのです。取り違えのあったであろう日は、2年前の7月20日です」

「その日です、息子が生まれたのは…」

「依頼者から情報を聞き取りしまして、取り違いの可能性のある方たちに話を伺っている状況です」

「そうなんですか、実は…」


第一印象の落ち着きと冷静さはそのままだが、番吾先生の口から驚くべき内容の言葉が飛び出してきた。

「実は… 息子の血液型が合わないんです」

先生はB型で奥さんはO型、生まれた息子はB型とのこと。これは親子の血液型的には問題ないが、去年ケガをした際ずっとB型として育てられていたが血液型がA型と判明したとのこと。

親子の血液型的にA型とO型の親からB型の子供は生まれない。

「自分はずっとB型と思ってたんですが、それは両親の配慮だったんです。自分は養子なので…」

衝撃的な告白に私は冷静に振舞うことだけを意識した。先生の両親はともにB型、血液型的にはB型とO型しか生まれない。

養子縁組の時は7歳で自分が養子ということは十分わかる年齢であったが、両親は少しでも自然な親子関係を築きたかった一心で噓をついてしまったらしい。

その後は輸血が必要なケガなどがなかったため、言うタイミングを逃してしまったようだ。

「ちょっと待っていてください、持ってきますので」

そう言うと先生は部屋を出て行った。しばらくして戻ってきた手には透明のビニール袋が3つ、1つにはパーマのかかった茶色の長い髪の毛、1つには短い薄い髪の毛が数本入っている。

席に着くとおもむろに自分の髪の毛を1本抜き取り、もう1つのビニール袋に入れた。そして持参したマジックで<番吾秀平>、<番吾玲子>、<番吾順平>と書き記した。

「準備しておいてよかった、これを使って依頼者でもある取り違えの相手の方とDNA検査をしてもらえますか?」

ここまで準備をしているということは、番吾先生も自分の息子に違和感を感じていたのだろうか、そう思いながら私はそれを受け取り、絶対に真相を解明することを誓い、その場を後にした。


会社に戻った私は依頼者から提出のあった家族3人の髪の毛と共に、いくつかのパターンでDNA検査を依頼した。あとは結果を待つのみだ。

結果が届くまでの私は県議会の選挙の原稿書きに駆り出された。この作業をしていると4年前の新人時代を思い出す。あの時の私はただがむしゃらで汗にまみれて働いていた。

少しだけ経験を積んだ私は後輩に指示を出す余裕がある。過ぎ去る月日に思いを寄せて、自分も少しは成長したんだなと感じ、また汗にまみれて働いている。


数日後検査結果が届いた。

結果は予想通り、依頼者の両親と番吾家の息子との親子関係は、それぞれ100%だった。

そしてこちらも予想通り、依頼者の息子との番吾家の妻・玲子との親子関係も100%だった。

この結果により、何らかの理由で赤ちゃんが入れ替わったことが判明した。依頼者が言っていたように赤ちゃんの取り違えがあった可能性が浮上した。

私は検査結果を番吾先生にメールで送った。

当然次は、誰が何のためにという話になる。

全10話構成を予定しています。

3000~3500文字程度で10分くらいで読める量にしています。

次回第4話は、9/9(火)21:00頃になります。

ダメ出し、感想、何でもよいのでリアクションしてもらえると励みになります。

皆さん、よろしくど~ぞ♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ