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過去の私はあなたを何て呼んでいましたか?  作者: 結野杜男


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12/13

⑫ 広島の魔女

出版社の記者という仕事を通じて、過去の自分を探し求める物語です。

体育館の駐車場で7代目と待ち合わせをした。彼は食事会の場所を伝え、私の車の後をついて来てください、信号などで見失ったときにナビでこの住所を検索してください、と丁寧に説明をしてくれた。

そういうと彼は小型の国産車に乗り込んだ。会社の社長は高級外車に乗るという私の勝手な思い込みは見事に覆された。

体育館から食事をする店までは夕方の渋滞にはまった影響でおよそ45分かかった。駐車場に到着し車を止めると7代目が待っていた。隣には女将らしき着物を着た女性が立っている。

女将に案内をされ入り口横のエレベーターから移動した先は個室がいくつかある予約専用のフロアーのようだ。そこにある一室に私たちは通された。

移動中に妹は半年前と同じ場所だと言っていたので、私はこの後どのような展開になるかの想像ができた。私たちに土下座をして父に対しての6代目の対応を謝罪するのだろう。


靴を脱ぎ1段上がった畳の部屋に入り案内されるがままに席に着いた。7代目と女将が小さな声で会話をした後、ごゆっくりどうぞと言い女将は部屋から出て行った。

「本来ならばお二人に土下座をして母の行動の謝罪をするべきなんですが、半年前に美咲さんに土下座を拒否されたので今回はこの状態で失礼します」

そういうと謝罪の言葉とともに7代目は頭を下げた。その光景に不思議ではあるがこのくらいが丁度いいと私は思った。私も妹と同様に土下座は拒否するつもりだった。


予約の個室は懐石のコース料理のみなのだが今日はメニューから好きなものを頼んでくださいというので、私は広島牛100%のハンバーグ定食をお願いした。妹は神戸牛のステーキ定食を注文した。

料理が到着するのを待つ間、7代目はゆっくりと話し始めた。

6代目が高山商店の社長に就任したのは高校卒業の翌年19歳の時だった。父親である5代目は最初の奥さんを病気で亡くし、40歳で再婚した2番目の奥さんとの間に生まれたのが6代目である。

子供は彼女1人で5代目は自分の弟に会社を引き継ぐつもりだった。しかし会社の役員から猛反対を受け、ひとり娘を6代目として育てる決意をした。

5代目は50歳くらいから膝を悪くして杖を使用していたが、60歳になるころには車イスでの生活になったため自分は会長に退き、高校を卒業したばかりの娘を社長に就任させた。

6代目の就任当時の高山商店は広島でも3~4番手の普通の海鮮問屋であったが、3年前に79歳で亡くなるまでの60年間で中国地方のトップまで会社を成長させた。

6代目は早くから冷凍保存の技術に注目をして、技術向上のため広島の大学と協力して長期保存が可能なまでに進歩させて、その分野での先駆けで事業を大幅に拡大させることに成功した。

将来のより一層の事業範囲拡大を考えて、長男を福岡の大学に、次男を愛媛の松山の大学に、長女を有名企業に嫁に行けるように広島のお嬢様大学に、そして私は将来の海外進出を考え海外留学へとそれぞれ進んでいきました。

「でもこれは表の顔なんです、表があれば裏があるんです」


このタイミングで料理が運ばれてきた。7代目は食事中は話題を変えましょうと言い、自分の学生時代の話を始めた。

中学時代に3年間バトミントンをやっていたこと。高校時代は1年間休学をしてオーストラリアに留学をしたことで卒業は1学年下と一緒だったこと。

大学は岡山にある国際大学に通い、このときも1年間休学をしてニュージーランドに留学をしたこと。20年前の事故当時は岡山に住んでいたので赤穂にある病院に秀平のお見舞いに何度も通えたこと。

8年前に留学したときに知り合ったニュージーランド人の女性と結婚したこと。7代目はなんとかこの場を沈黙させないように身を削って延々と話していた。その配慮のお陰でハンバーグの味を堪能できた。


食事が一通り終わり食後の飲み物が運ばれてきたころに、6代目が亡くなる2週間前に私は病室に呼び出されました、と7代目は話を進めていく。

そこで正式に社長の就任を言い渡されました。私にとって予想していた未来とは少し違う結果でした。

私は4人兄弟の4番目で長男と次男と長女はそれぞれ2歳差で、私と長女は10歳年が離れていましたので、幼少期は2人の兄のどちらかが会社を継ぐのだろうと思っていました。

しかし長男がマレーシアに逃亡して、次男は20年前の自動車事故で他界して、長女は地元の有力企業に嫁に出て行ったので、少しずつ未来が変わっていく様子を感じていました。

6代目からは会社の業績は会社に戻って資料を見れば確認できるが、これから話すことは私の頭の中にしか存在しない裏の話だと言い、”広島の魔女”と呼ばれた金にものを言わせた数々の犯罪ギリギリの行為の説明を始めた。

私もメモを取っていたわけではないのですべての話は私の頭の中だけに入ってますが、お二人にかかわる内容だけを話します。


母は完璧主義者でした。自分の意思が絶対で、それに反することは徹底的に排除する性格でした。

長男の修一は福岡の大学を卒業して高山商店に就職しましたが、最後まで母の信頼を得ることができず5年後に会社をクビになりました。

社長の息子という立場を利用してやりたいことをやってましたから、私から見てもクビになるのはしょうがないと思います。退社後に会社の金を使い込んでいたことが発覚し、高山家から勘当されました。

次男の平次は瀬戸内海を挟んだ愛媛の松山の大学を卒業して高山商店に就職しました。長男とは真逆で仕事に関心を示さずただいるだけという存在でした。

父の遺伝子で長身でイケメンだった次男は、若い時から多数の女性問題を抱えていました。結婚すれば落ち着くだろうと思い、当時の彼女と強引に結婚させたそうです。その後双子の妊娠が判明したころ問題が起きました。

浮気相手が会社に乗り込んできて6代目に詰め寄り、子供の認知と金を要求してきました。週刊誌にこのことを話すという浮気相手に対して、母は要求に応じました。

当時は会社が急成長をしていたときでこの時期のスキャンダルは致命傷になると考え、出産予定日が近かったことから兄に子供を認知させて三つ子ということで世間を誤魔化しました。

しかしこの出来事で母は兄に対して見切りをつけたと言ってました。その浮気相手との子供を母は嫌ってましたし、自分の産んだ子供と平等に育てる兄嫁に対しても怒っていたようです。

数年後に母は弁護士や探偵を使って次男の平次の周辺調査をした結果、愛媛の松山に隠し子がいることが判明した。大学時代に交際していた女性との子供で年齢は実子よりも1歳上だった。これが決定打となりました。

このままでは自分が大きくした会社の財産が奪い取られてしまうことになる。そのために彼を家族まとめて粛清する結論に至ったようだ。

方法を探っているときに勘当した長男の詐欺行為が明るみになる。寝耳に水のこの詐欺行為をうまく利用して計画を練り、自分の手を汚さず次男家族の粛正に成功します。


ここからはすでにご存じかもしれませんが、と7代目は話を進めていく。

6代目は勘当している息子の単独犯行であることを強調し、高山商店は無関係であることを主張した。そのことを納得させて一時的に7千万円を貸し付けて、借金を返済させて被害届を取り下げさせた。

そのあとに愚息分を差し引いて半額の3千5百万円の返済を迫り、一括返済の条件として次男家族の粛清を提案し、高速道路上での事故につながっていきます。

見事に目的を達成した母は状況に満足して、最初の契約時にかけていた死亡保険の受領金3千5百万円を残された家族に小切手を送付しましたが、現時点でもそれは換金されていないようです。

「このことについては私もすべてを聞いているかどうかわかりません、6代目から聞いた内容は以上です」

「酷い、酷すぎる、人の命をモノのように扱っていますね」

「はい、それが”広島の魔女”と呼ばれた理由です」

「私たちの父は… 残された家族を想って… 死んでいったんです」

私がそう言うと7代目は頭を下げて、悲しい結果ですがこれが20年前に起きた自動車事故の真相ですと言った。その言葉の重さに誰も何も言えない空気となった。

重い空気に包まれた部屋にノックの音が響き女将が入ってきた。予約の時間が終わりのようで食事会はお開きとなった。


駐車場での帰り際に7代目から明日は有給休暇を取っていいですよと言われたが、妹はそれを断りいつも通り明日も出社しますと言った。7代目は分かりましたといい小型の国産車に乗り帰っていった。

7代目は広島の魔女の魔法にかかった世界から脱出するために一生懸命頑張っている。今日の食事会でほんの少し霧が晴れた感覚を味わっていた。

6代目が亡くなった後、婿養子である父が一人で住む家に家族で移り住んできた。その家に到着をして車を駐車スペースに入れると父が玄関前で待っていた。

「あの自動車事故の運転手の家族に会ってきたのか?」

「そうだけど、どうしたの急にそんなこと言って、何かあったの?」

「まぁなんだ、俺もあの計画に参加していたからな。福石PAで平次の車のタイヤをパンクさせたのは、俺だから…」

「そっか… もう大丈夫、全部忘れよう」

そう言って2人は家に入っていった。


食事会が終りお店の駐車場に妹と2人、立っている。

私は今日ここに来た理由の回答をすべて聞かせてもらえたのか、頭の中が少し混乱をしていて正確な判断ができていなかった。それでも今の私はなぜか気持ちが前向きである。これですべてが終わった、そう思いたかったのであろう。

私も妹と同じ考えである。有給休暇を取ってしまうと今日の食事会がいつもと違う非日常になってしまう感じがした。私たちを守って死んだ父の行動は日常の出来事として記憶に留めておきたかった。

それじゃあまたね、次は8月14日に会おうねと言い、妹と別れた。妹も彼女の日常に帰っていく。今日はこのまま広島に泊まります。

全13話構成となります。

次回最終話は、10/10(金)21:00になります。

ダメ出し、感想、何でもよいのでリアクションしてもらえると励みになります。

皆さん、よろしくど~ぞ♪

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