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[長編版] 魔王を倒した後、最後に勇者は死ぬ。  作者: みんと


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 管理者の「消去します」という、感情の欠片もない宣告。

 ゴードンが「させるか!」と剣を構え、サシャが防御魔術の詠唱を始める、その、ほんの一瞬。

 管理者は、指先から、一本の、細い光線を放った。それは、音もなく、空間を歪め、真っ直ぐに、三人のうち、最も守りに特化した聖女ハンナの胸を貫いた。

 

 彼女は、何が起こったのかも理解できないまま、その体は、光の粒子となって、足元から、静かに、そして、完全に消滅していった。詠唱も、祈りも、悲鳴を上げる時間さえ、なかった。

 

 あまりにも早い、一人の死。

 

 残されたのは、ゴードンとサシャの、絶句した表情だけだった。


「サシャ、アレを使え……!」


 管理者が、次の攻撃の力を、静かに蓄え始める、その僅かな時間。ゴードンが、絶望の中で、唯一の活路を叫んだ。


「で、でも……!」


「いいからはやくしろ!」


 サシャが、血の気の引いた顔で拒絶する。だが、ゴードンは、自らの鎧の隙間から、アルベルとの戦いで受けた、まだ完全には癒えていない深い傷を見せた。


「どうせ俺は、アルベルから受けたこの傷でもう長くはねえ。だったら、この命、無駄死にじゃなく、お前のために使わせろ……! あいつは、お前が倒せ……!」


 サシャの最終奥義。それは、術者が「大切」だと認識するものを、魂ごと生贄に捧げることで、その価値に比例した、無限の力を引き出す、禁断の秘術。ゴードンは、それを知っていた。そして、自分が、彼女にとって、その「生贄」たりうることも。

 その上で、彼は、自らを差し出しているのだ。


「あんたなんか、たいして大切でもなんでもないわよ!」


 サシャは、涙を流しながら、ゴードンを睨みつける。それは、彼女の、最初で最後の、弱音であり、本音だった。

 ゴードンは、そんな彼女の心を見透かすように、自嘲気味に、しかし、優しく笑った。


「お前はプライド高いからな。俺なんかのこと好きだって、一生認めねえだろうと思ってた。だから、俺も、お前の気持ちに応える気なんて、さらさらなかったさ。俺だっておめぇみたいなアクの強い女は御免だ。……けどよ」


 彼は、一歩、彼女に近づく。


「俺はいいぜ、お前になら殺されてもよ……だから、やれ」


「くそ……あんたのことなんか、ちっとも好きじゃないわよ。なにカン違いしてんの。本当に殺すわよ。こんなときに、冗談いわないでよ……!」


「冗談じゃねえ、マジだ。……さっさとやれ。もう時間がねぇ!」


 管理者の手に、世界を終わらせるほどの光が収束していく。

 サシャは、全ての覚悟を決めた。彼女は、溢れ出る涙をそのままに、憎まれ口という名の、愛の言葉を叫んだ。


「ああもう……! うるさいわね! あんたのそういう勝手なところ、昔っから、ほんっとうにだいっきらいだったわよ! ゴードン……!」


 彼女が、禁術の詠唱を始める。世界から、色が失せていく。

 ゴードンは、彼女に、最期に、悪ガキのような、不敵な笑みを向けた。

 詠唱が完了する。ゴードンの体が、眩いばかりの、純粋なエネルギーの奔流となって、サシャの体へと注ぎ込まれた。

 サシャの体から、もはや魔法とは呼べない、愛と、悲しみと、怒りの全てが込められた、純白の「想い」の奔流が、管理者に向かって放たれる。

 管理者の、感情のない瞳に、初めて「驚愕」に似た色が浮かんだ。そして、その存在は、サシャが放った光の中に、完全に消滅した。


 

 


 戦いが終わり、世界に、静寂が戻る。空の亀裂も消え、元の青空が見えていた。

 サシャは、その場に、ただ一人、立っていた。ハンナが消えた場所、ゴードンが光となって消えた場所、そして、アルベルが最後にいた場所。全てが、空っぽだった。

 彼女は、世界を救った。運命の連鎖を断ち切った。しかし、その代償は、あまりにも大きかった。

 これまで、決して人前では見せなかった、彼女の理性のダムが、完全に決壊する。

 彼女は、その場に崩れ落ち、子供のように、声を上げて泣いた。


「ゴードン……! あんたのこと、ほんとうに大好きだったわよ……! バカやろーーーー!!!」


 その絶叫は、誰に聞かれることもなく、平和になった世界の、あまりにも青い空に、虚しく吸い込まれていった。


 

 


 サシャは、一人、王都へと帰還した。

 世界は、平和の訪れに歓喜していた。人々は、勇者パーティーが、最後の脅威さえも打ち破ったのだと、新たな英雄譚の誕生に熱狂した。

 しかし、彼女は、全ての称号も、名誉も、財産も、固辞した。そして、王城の一室で、まるで抜け殻のように、ただ、静かに時を過ごし始めた。彼女の瞳から、かつての輝きは、完全に失われていた。


 だが、彼女には、一つだけ、やらなければならないことがあった。

 彼女は、机に向かい、ペンを取る。そして、アルベルと出会ってからの、全ての出来事を、詳細に、正確に、手記として書き残し始めた。

 勇者と魔王の、悲しい連鎖。アルベルの覚悟。カインの絶望。ハンナの祈り。ゴードンの愛。その全てを。

 手記の最後に、彼女は、未来の、まだ見ぬ誰かに向けて、最後のメッセージを書き記した。


「もし、いつか、この世界に、再び、勇者と魔王という悲劇が繰り返されるのなら。この手記を読む、未来のあなたへ。どうか、私たちの過ちを繰り返さないでほしい。力だけが、答えではないはず。……どうか、あなたたちは、私たちよりも、もっと幸せな最後を、見つけてほしい」


 全てを書き終えた数年後。

 サシャは、四十代という若さで、まるで眠るように、静かに息を引き取った。長年の心労か、あるいは、禁術の代償か。その理由は、誰にも分からない。


 彼女が、そして、彼女の愛した仲間たちが、その命と引き換えに、世界にもたらしたもの。

 それは、救いであったのか、あるいは、ただの、つかの間の平和であったのか。

 それは、誰にも分からない。

 ただ、事実として、それ以降、この世界に「勇者」と「魔王」が現れることは、二度となかった。





 ――Fin.














まずは読んでくださりありがとうございます!

読者の皆様に、大切なお願いがあります。


もしすこしでも、

「面白そう!」

「続きがきになる!」

「期待できそう!」


そう思っていただけましたら、

ブクマと★星を入れていただけますと嬉しいです!


★ひとつでも、★★★★★いつつでも、

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何卒宜しくお願い致します。

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