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[長編版] 魔王を倒した後、最後に勇者は死ぬ。  作者: みんと


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 アルベルの死、そして、世界の残酷な真実を知ってから、二年の月日が流れた。

 三人は、それぞれの道を、それぞれの覚悟で歩んでいた。

 ゴードンは、もはや王国騎士団最強の剣士となり、その豪腕から放たれる一撃は、城壁すら砕くと噂された。サシャは、研究室に籠もり、禁術の領域にまで踏み込んだ大魔術師へと変貌を遂げた。ハンナは、守るだけではない、悪しきものを断罪し、浄化する「戦う聖女」として、前代未聞の聖法をいくつも編み出していた。

 新たな魔王は、まだ現れない。

 彼らの心には、「もしかしたら、アルベルの死で、本当に連鎖は断ち切れたのかもしれない」という、淡い希望が芽生え始めていた。


 だが、その希望は、ある日、唐突に打ち砕かれる。

 王都に、凶報が届いたのだ。「嘆きの山脈」に、再び、巨大な魔王城が出現し、そこから、強力な魔物たちが溢れ出している、と。

 報告を受けた三人の表情に、悲しみはなかった。むしろ、その瞳には、闘志の炎が宿っていた。


「よっしゃあ!」


 ゴードンが、歓喜の声さえ上げた。


「待ってたぜ、この時を! 俺たちの力で、今度こそ、運命の根を断ち切ってやる!」


 彼の言葉に、サシャとハンナも、緊張の中にも、確かな覚悟を持って頷く。

 彼らは、希望を持って、最後の戦場へと旅立ったのだ。


 

 


 三人は、二年前とは比較にならない力で、魔物たちを蹴散らし、新たに出現した魔王城の、玉座の間へとたどり着いた。

 玉座には、一人の男が座っていた。その姿は、魔王ガヴェルのような異形ではない。人間だった。

 その男が、ゆっくりと立ち上がり、彼らの方を向く。

 

 その顔は――彼らが愛し、弔ったはずの、友人の顔だった。

 

 少しだけ髪の色が白く、瞳が禍々しい紅に染まっている以外は、紛れもなく、若き日の「アルベル」そのものだった。

 ゴードンの、戦意に満ちた顔から、表情が消えた。ハンナが、か細い息を呑み、サシャの、常に回転していたはずの思考が、完全に停止する。

 その「アルベルの顔をした何か」が、静かに、そして、感情の欠片も感じられない声で、自らの名を告げた。


「――我が名は、魔王アルグベルム。この世界の、新たなる理だ」


 その声を聞いた瞬間、ゴードンの膝が、ガクリと折れた。ハンナも、サシャも、糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちる。


「……なんで……」


 ゴードンが、絞り出す。


「アルベル……なんだよ……?」


「……嘘……」


 サシャの唇から、言葉にならない音が漏れる。


「救われた、はずじゃ……なかったの……?」


 希望、覚悟、二年間の特訓、その全てが、意味をなさなくなる、絶対的な絶望。

 魔王アルグベルムは、そんな彼らを、何の感情も浮かべない瞳で見下ろしている。そして、アルベルと全く同じ声で、しかし、機械のように冷たく、宣告した。


「世界の理に仇なす者どもよ。ここで、消えよ」


 その言葉が、引き金だった。

 ゴードンの、張り詰めていた理性の糸が、完全に断ち切れた。絶望が、一周して、純粋な、灼けつくような怒りへと変わる。

 彼は、血を吐くような声で、絶叫した。


「……てめぇ……!」


 彼は、震える足で、無理やり立ち上がる。


「アルベルの顔と、アルベルの声で……そんなこと、言うんじゃねええええええっ!」


 その叫びと共に、ゴードンは、作戦も、連携も、全てを無視して、ただ一人、魔王アルグベルムへと突進していく。それは、戦略的な攻撃ではない。ただの、悲痛な魂の爆発だった。

 アルグベルムは、その猛進を、心底つまらなそうに、片手で、軽々と受け流す。そして、カウンターとして、ゴードンに、闇の刃を放った。


「ゴードン!」


 サシャとハンナが、絶望から我に返り、咄嗟にゴードンを援護するために、魔法と祈りを発動する。

 あまりにも残酷な、戦いの火蓋が、切って落とされた。


(やめろ、ゴードン! 来るな……!)


 アルグベルムの内側で、囚われたアルベルの魂が、声なく絶叫していた。


(俺に、お前を、斬らせるな……!)


 

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