チュートリアル
無事転生が完了した僕は"ナプキン"という山にいる。
どうやらここが僕の棲家すみかのようだ。
ヴィン
目の前に半透明のボードが出てきた。
【ナプキン城】Lv.1
防御…0
攻撃…0
魔力…500
この城の情報だろうか。防御0?
僕は世界の悪なんだよな...。今攻撃されたら一瞬で負けてしまうだろうな。
「おーい!魔王出てこい!」
あ...終わった。言わんこっちゃない。
全身鎧男がこちらに歩いてくる。
「あ!お前が魔王だな?いざ勝負!」
そう言うと剣を取り出して走ってくる。まさに雑魚といった見た目だ。さすがにこんな雑魚に負けるのは嫌だ。開いているボードに何か"いいもの"がないか探してみる。
【メニュー】を押す。
【メニュー】▶︎【召喚】【施設】【配置】【その他】
ほうほう。今は命がかかっている。即戦力が必要だ。
僕は【召喚】を押した。
【召喚】▶︎【攻撃】【防御】【戦力外】
まだ選択肢があるのか。こういうの苦手なんだけどな。そう思いながら【攻撃】を押した。
【攻撃】▶︎【選ぶ】【おまかせ】
まだあるのかよ。もういい。【おまかせ】にしよう。選んでいる暇はない。
間に合うかと不安になって侵入者を見ると何故か鎧の胴の部分を外して磨いていた。
「あの、何してるんですか?」
「あぁ、ここに汚れがあったから磨いているんですよ。」
「へ?...あの、今の間に僕を殺せましたよね?」
「あぁ、言ってませんでしたっけ?俺、重度の潔癖症なんですよ。」
なんか、話していると頭がおかしくなりそうだ。さっさと殺してしまおう。
《【メニュー】▶︎【召喚】▶︎【攻撃】▶︎【おまかせ】を受理しました.魔力450を使用して【草ゴーレム】を召喚します.魔法陣作成中.》
足元に赤い円形の光が浮かび上がる。そして一本、また一本と線が継ぎ足されて複雑になっていく。
おい!早くしてくれ。
侵入者は鎧を磨き終わってベルトを結び終わるところだった。そしてこちらに目を向けて走り始めた。
おい!いつになったらできるんだ!
《お待たせいたしました.【草ゴーレム】を召喚まで...》
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1
侵入者の剣が僕の心臓まであと10センチに迫る。僕を殺そうとする目はガンギマっている。
もう、終わるのか?
何かが腕と足に巻きついて後ろに引っ張られる。間一髪のところで草ゴーレムが助けてくれたようだ。着ていた服の前面はパックリ切られている。鍛えていない胸筋が露わになる。
《【草ゴーレム】による自律攻撃を開始します.【承認】して下さい.》
息が止まった。初めて明確に死を感じた。目の前のガンギマリ男は狂ったように叫んでいる。
《【草ゴーレム】による自律攻撃を開始します.【承認】して下さい.》
分かってるよ!でも声が出ないんだ。怖い...。
目がイッてる鎧男が変な走り方をしながらまた襲いかかってくる。
《【草ゴーレム】による自律攻撃を開始します.【承認】して下さい.》
草ゴーレムがまた助けてくれる。
目の前の獣の攻撃を草ゴーレムが防ぐ。これが繰り返される。
僕を守るツルはいつの間にか短くなり、数も減っている。
俺は今こいつの召喚に魔力450を使っている。更に別の戦力を追加することは不可能だろう。
早く"承認"と言わなければ...。
突然、左腕のツルが解けた。どうやら草ゴーレムの限界が近いらしい。
前によろけた僕の心臓に剣が迫る。
早く。早く、早く!言わなければ!
《【草ゴーレム】による自律攻撃を開始します.【承認】して下さい.》
「...承認!!」
《マスターによる【承認】を確認しました.【草ゴーレム】は自律攻撃を開始して下さい.》
それからは一瞬だった。草ゴーレムは侵入者を残り少ないツルで捕まえると、硬い茶色いものを突き立てた。侵入者は最初こそ抵抗していたが、だんだんしぼんで死んでしまった。
あとで確かめたら茶色のものは草ゴーレムの根っこだった。養分を吸収していたらしい。
怖かった。足の震えが止まらない。思わず尻餅をつく。
こんなことが続くのであれば...人生をもう一周した方が良かったかな...。でも、少し楽しかったかも。
その考えが頭に浮かんだ時、神様の声がした。
「ほっほっほ。お疲れ様。ナプキン城の防衛ごくろう。勇者との戦いはどうであったかの?」
「い、今のが勇者か!?腰が抜けた僕が言うのもおかしいが、弱くないか?」
「んまぁ、今回は弱かったかの。」
神様が続ける。
「お主、また違う世界で城の防衛をするのはどうじゃ?もちろん魔王として。」
迷った。"なるようになる人生"が楽なのは当たり前だ。しかし、今回のように"決断する人生"も面白いかもしれない。
「次の世界はどんな世界なんだ?」
「ほっほっほ。お主も変わったのう。話し方もなんか勇敢になってある。して、次の世界はここよりもずっと過酷じゃぞ?」
「分かっています。」
「今更敬語にしてもむだじゃよ。ほっほ。して、その返事はわしの提案に"承認する"ということで良いのじゃな?」
僕は大きく頷いた。
「ようし。そうなれば...」
そう言うと神様が杖を大きく振る。
直後、足元にマンホールが出てきて浮かび上がった。これがこの世界の栓らしい。
「では、行って参れ。くれぐれも頼んだぞ?」
神様が右手を挙げる。
"なるようになる人生"から"決断する人生"へと舵を切った僕。この先の人生、どうなるのかとワクワクが止まらない。人生ってこんなに楽しかったのか!
相変わらずマンホールに振り回されている僕はどこにいるかも分からない神様に一言。
「行ってきます。」