転生した
ある日の会社帰り。足元のマンホールが光り出し、やがて魔法陣となった。やがてその魔法陣は宙に浮かんで止まった。よく見たら虹色に輝いて回転している。
こんな不可解な現象が起きたら人は逃げ惑うだろう。決してその場に止まったり、近づいたりはしない。ましてや、触ったりはしないだろう。
うん。僕は触った。それが僕の義務だと思ったし、僕の人生はこのためにあったのではないかと思ったから。
虹色のマンホールに近づいて人差し指でちょんちょん。
ブルブルっといって震える。面白くなって今度は鷲掴みにしてみた。
マンホールがガタガタと揺れ始めて掴む手の間を滑る。しかし、不思議なことに僕の足が浮かんで一緒に回り始めてしまう。
普通の人ならこれに驚いて手を離すだろう。
しかし僕は違う。振り落とそうとする不思議な力耐える。負けてはいけないと思った。
もう周りの景色が見えないほどに回転している。
どうやらソニックブームが発生しているようだ。周りの建物が崩れ始めている。
これは...少しやばい。
そう思った瞬間、体が弾ける感覚の後、ぐちゃぐちゃになって死んだ。
◇◇◇
「貴様!自分がやったことを分かっているのか!」
俺は神様に怒られている。どうやら、俺は地球の魔力栓と呼ばれるものに吸い込まれてしまったようだ。
魔力栓とは人間界でいうところのお風呂の栓のようなものだという。
神様は定期的に地球に溜まる魔力を抜くために魔力栓を開けるらしい。今日がまさにその日だったようだ。
「おい!聞いておるのか!」
「...へ?」
「そういうところだ!人の話を聞かんかい!」
この神様はおじいちゃんの姿をしている。手に持っている大きい杖は一振りで世界を作ることができるそうだ。
「おい!だから話聞けって。」
「あ...ごめん。」
「はぁぁ。お前、もう元の世界には戻れないのじゃぞ?」
「でも、僕未練ないし。」
「むぅ。」
神様が困っている。僕ほど適当に人生を送った人はいないだろう。
"なるようになれ"と生きてきた。
まぁ、それでも難関大学卒、年収2000万だが。
僕が何が言いたいかっていうと、"なるようになる人生"これが最強だってことだ。
神様がやっと口を開く。
「お前には2つの選択肢がある。一つ、もう一度同じ人生を送る。二つ、違う世界で魔王になる。ただし、どちらについても今の記憶は引き継がれる。」
「...なるほど。」
急な提案に驚く。しかし、久しぶりの面白そうな選択肢に心が躍っている。マオウ?僕の想像している通りのものだろうか。
「神様、マオウって軍勢を指揮する人ですか?」
「うむ。少し違うが大体あっておる。魔王とは世界の敵となって正義と戦う存在じゃ。正義と戦うために"軍勢を指揮"するんじゃ。」
「ほう。」
もう一度人生を送る。もしくは魔王になる。
前者を選べば、今と同じ人生。
後者を選べば...予測困難。
うーむ。もう少し判断材料があった方がいいのだろうか。しかし決断をしない人生だったから決断の仕方が分からない。
「決めることができないのならわしとじゃんけんするか?」
「というと?」
「わしが勝てば魔王。お主が勝てば人生2周目。どうじゃ?」
迷った。
迷って、提案を受け入れた
「ほう。"なるようになれば良い"という考え、わしは好きじゃぞ。」
なるようになった結果、僕は魔王に転生することになった。
まぁ、なるようになればいっか。