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 中編

 若者が、立ち入り禁止区域の廃墟に潜入すると……。 


 若者は、その光を見ると、吸い込まれる様に、ロープをくぐり抜けて、一筋の光源に向かって歩き出した。

 彼が、これから世話になろうとしている『赤鼻の親分』は間違い無く、この区域に出入りしている。その悪事が、どの程度のものなのか、自分の目で確かめてから、判断をするつもりなのであろう。


 もうすでに辺りは薄暗くなっている、小降りになった雨の音が、若者の足音を消していた。


 若者は、暗いビルに入ると腰をかがめ、手探りで光を目指した。進むにつれ異臭が漂う、やはり噂は真実であったのか。

 明かりは上下左右と、小刻みに周りを照らしている。何者かが、すぐそばにいるのだ。

 若者は一瞬、躊躇った様だが、失うものがない男の『失望感』を、遺憾なく発揮し、光源に駆け寄ったのである。


 相手も、人の気配を感じたのか、灯りを手で隠した。薄ぼんやりと指の形が、穴だらけの壁に映し出されている。


 若者が、異臭漂う薄暗い部屋で周りを見渡すと、夥しい数の人体が横たわっていた。そして山積みされた人体の陰に隠れ、震えている小柄な人影を目にしたのだ。


「何しに来たんだよ!」

 薄明りの主は、震える声ながら横柄に言った。

 若者は恐怖におののいた様に、無言でたじろいでいる。その弱々しい姿を確認したのであろう、突然一筋の光が若者に向けられ。


「要がねぇなら早く帰れ、仕事の邪魔だよ。この、冷やかし野郎が」

 明かりの主は、罵声に近い怒鳴り声をあげて姿を現し、若者を睨みつけた。


 光源ゆえに見づらくはあるが、その姿は間違いなく小学生くらいの子供であった、声からしても子供である。先程まで震えていた若者は、子供と分かった瞬間、強気になり。


「お前こそ何をしている。所詮、身寄りのない人体の、マイクロチップや、臓器の取り残しを漁っているのだろう。売った所で、いくらにもならないものを……」

 と、まくし立てたのだ。


 若者は今の今まで、犯罪グループの一員になろうとしていた。しかし子供の所業を悟った瞬間、突発的に心の底に眠る『正義感』が沸いたのであろうか。それとも単純に、現況のイラつきを爆発させただけかは不明である。


 言われた子供は、ふてくされた顔をして、舌打ちをした。完全に、小柄でひ弱な若者を、なめている。


 そして、その行為が、若者の心に火をつけた。


「このクソガキ……。お前には、人間としての慈悲は無いのか……、弔う心は無いのか……。お前の……」

 聞いた子供は、若者が話をしている途中で、食い気味に。


「ねーよ。

 体内にマイクロチップが残っていると、いつまで経っても土に戻れねぇ~事くらい、お前みたいな『バカ』でも知ってるだろー。俺は、それを取って大地に戻してやってんだよ。換金で得た金は、手数料だ!」


 とにかく生意気な子供である、しかし発言には一理あった。手強さを感じたのか、若者は眉を顰め、腕組みをして。


「お前が貧乏で食うに止む無く、している所業であれば……」


「食うに困ってねーよ。両親もいるし、何なら金持ちだ」

 子供はまた、食い気味に若者の話を遮断した。


 若者は、怒りに震えている、予測と真逆の返答と、食い気味の話出し、子供の小バカにした態度。


 若者は強くこぶしを握り締め、歯を食いしばって。


「バカヤロー……。じゃー、何でこんな盗みしてんだよー。このクソガキ……、犯罪じゃねーか」


「うるせー若造、遊びだよ……。凄く、善人ぶってるけどさー。お前、人を諭すほど善良なの」

 様相が、子供同士の喧嘩になってきている。


「遊びとは、聞き捨てならねー。人様を、なんだと思ってるんだ、コノヤロー。これで、痛い目に遭わせて、懲らしめてやろうか……」

 余程、腹に据えかねたのであろう。若者は、ポケットからスマホとICカードを取り出し、両手で掲げ。


「赤鼻の親分に貰った闇のICカードだ。挿入すると、お前の体内に格納されたチップが誤作動を起こして、えらい事になるぞー。痛てーだろな~」

 若者は左の口を少し上げ、悪そうな顔をした。


 今回ばかりは、おとなしく聞いていた子供ではあるが、話が終わったと同時に。

 薄笑いを浮かべ。


「あっ……、それね。

 そのカードなら俺も、赤鼻の親分から解除方法聞いているから、痛くもかゆくもねーよ。

 此処に出入りしている人間は『人の心を持たないクズ』かも、しれねーけど。

 みんな兄弟同然さ」

 兎に角、子供のわりに隙がない、かなり裕福な家庭なのであろう、高価な人工知能を手に入れているのだ。 


 子供の能書きを、渋い表情で聞いていた若者は、何も言えなくなった様である。


 後篇へ続く。

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