好きな人がいる僕と、そんな僕に絡んでくる後輩のタマ
「好きです!付き合ってください!!」
頭を下げ、僕は誠心誠意告白する。
僕の気持ちが伝わるように、彼女に届くように。
そうすればきっと、きっと……。
「ごめんなさい。澤田君のことは友達としか見れないから」
僕は澤田 英吉。
只今告白真っ最中の……いや、バッサリ振られた人物だ。
そして僕が告白した彼女は吉田さんはクラスの人気者。
誰とでも仲良く、僕の様な陽キャじゃなくても話をしてくれる優しい女の子だ。
席替えで隣同士の席になった時は嬉しくてドキドキして、ついキョドってしまったが、吉田さんはふふって笑って場を和ましてくれた。
もうその時の笑顔だけで僕は恋に落ちたと言っても過言じゃない。
僕は臆病だ。
自分に自信が有るわけでもないし、失敗は怖い。
でも、でも今言わなければ絶対に後悔することだけはわかった。
だから、なんとか勇気をだして告白したんだ……。
僕は校舎裏から離れて待っていた友達と去っていくミカちゃんの後ろ姿を肩を落として見送った。
……あれ、なんか、目から水が……。
「先輩!こんなところに居たんですか?探したんですよ!」
暫く落ち込んでいると、僕の背中がパシンッと叩かれた。
「うっ、タマ……いきなり背中は叩くなっていつも言ってるだろ……」
叩いてきたのは後輩の玉城 多摩美。
僕の家の近所に住んでいる女の子で同じ高校に入学した。
きっと僕と同じで家から近い高校を選んだんだと思う。
「っえ~、そうですかぁ?あれ?先輩泣いてるんでか?」
「あ……いや、……背中叩くからだろ!」
ええ~、と言いつつ「ニシシッ」と笑うタマはいたずら好きだ。
昔から僕はタマにからかわれたり、弄られたりしているから慣れっこだ。
痛いものは痛いけど、注意したところで止めないのがタマだし。
「はぁ……僕は今落ち込んでるからほっといてよ」
僕は歩き出す。もう校舎裏には用はないから今日はもう帰ろう。
「じゃあ、あたしが元気出さしてあげないとですね!」
ほっといてと言ったのに絡んでくるタマ。
僕の話なんか聞いちゃいない。
いつも自分勝手で、好きかってだ。
「ねぇ、僕の話聞いてた?」
「勿論ですよ!先輩の言葉は一字一句記憶してますから!」
明らかに嘘っぽい言い方して…まったく。
まぁ、その能天気な明るさに救われることもある。
タマは能天気だから気にしてないだけだろうけれど。
無駄に明るいタマの相手をしながら帰宅したら自分が落ち込んでいることを忘れていた。
ううん、タマもたまには役に立つなぁ。タマだけに!
……って前に本人に言ったら大激怒だったんだよな。
あの子は怒らせると怖いから気をつけよ。
はぁ~、どうすれば吉田さんと友達以上に思って貰えるんだろうか。
隣の席で毎日挨拶しても、床に落ちた消しゴム拾ってもダメだった。
吉田さんが日直の時も陰ながら手伝ったけれど気づかれずに終わっちゃったし。
何か劇的に助けるようなイベントで僕が颯爽と……僕にそんな行動力があったらもっと前から吉田さんと付き合っているよね……このことは明日の僕に任せよう。
きっと何か良いアイディアを出してくれる、はず。
※※※
先輩が泣いていた。
好きな人に告白して、振られたのがとても悲しかったんだよね。
あたしだったら……絶対断ったりしないのに……。
絶対に先輩を悲しませたりしないのに。
なんであの人なんだろう。
なんであたしじゃ……ないんだろう。
あたしの方が先輩と先に出会っているのに。
あたしの方が先輩を好きなのに。
あたしも泣きたくなった。
けど、今は先輩を励ましてあげなくちゃ!
あたしは隠れていた物陰から飛び出して先輩の背中を強く叩く。
―――涙が出るように。
ほら、振り向いた先輩の目には涙が。
私が強く叩いちゃったんだから、涙が出ても仕方ないよね!
落ち込んだ時は他者から元気を貰えば良いんだよ先輩!
1人で落ち込んでたら悲しいよ。つまらないよ。
だからあたしの元気を先輩に分けてあげる!
振られて悲しい気持ちをあたしが忘れさせてあげる!
そうすれば、明日からまた大好きな先輩の笑顔が見れると信じて―――。
※※※
……朝だ。
のそりと起き上がりカーテンを開くと眩しい朝日が降り注いでいる。
うん、今日も良い天気だ。
良いことがあると良いな。
吉田さんと付き合えたり……無理か。
いや!諦めたらそこで終わりだ!!
振られたからって諦めなきゃ行けないわけじゃないもんね!
今日も頑張ろう!
教室に入り隣の席には既に吉田さんが座っていた。
「お、おはよう……」
つい声が小さくなってしまった。
「あ、澤田くんおはよう」
僕は昨日の告白を引きずっているけど、ミカちゃんはいつも通りだ。
本当にただの友達としか思われていないんだと思う。
悲しい。
そして昨日僕がミカちゃんに告白したことはクラス中にしれわたっていた。
クラスメイトが僕のことを話しているのが聞こえる。
うう……後先考えずに後悔したくないがために告白したのが逆に悔やまれる。
これじゃあ本末転倒じゃないか。
でも救いは噂するクラスメイトはいても、からかってくる人はいなかったことか。
なにか、なにかミカちゃんと話せる話題は……共通の話題とか。
あっ、昨日僕が告白したことは…止めておこう。
傷口に塩を塗る行為だよ。
だからといって他に話題があるわけでもない。
……昨日の僕、なんで今日の僕に任せたんだ!
昨日のうちに何か考えといてよ!
むぐぐぐ……と唸っても良いアイディアが出るわけもなく昼休みを経て放課後になる。
結局全然話をすることは出来なかった。
何度も話しかけようとはしたんだ。
したんだけど……言葉がでなかった。
まるで鯉になった気分だ。
パクパクと口は動くのに声は出ない。
ははっ僕は話題を貰えないと自分で話すこともできないヘタレだから鯉がお似合いなのさ。
真っ白に魂が抜けた気分で今日のホームルームが終わりを迎えた。
1週間が経ち、結局僕は吉田さんに何も気の効いたこともいえず、助けるイベントもなく……魂が抜けた脱け殻のようになっていた。
そんな僕に放課後、吉田さんが立ち上がるなり僕に言った。
「あの…さ、澤田くん、私なんかより、もっと身近な子とか見てあげた方が良いと思うよ」
「……えっ?」
呆けていた僕はいきなり吉田さんが話しかけてくれたことに驚いてしまった。
「それじゃあ、またね」
固まる僕を残して吉田さんは友人と教室を出ていく。
その後ろ姿は綺麗で、やはり僕を魅了した。
……身近な子?
そんな女の子いたかな…。
吉田さんは何を言っているかは分からない。
分からないが、僕と距離をおこうとしているのはなんとなく感じた。
やっぱりだめか……だめなのかな。
僕もガックリとしたまま鞄を持って教室を出る。
僕にああ言ったと言うことは、僕がまだ吉田さんが好きだと言うことは分かっているんだと思う。
でも、吉田さんにはまったく僕のことを意識したような雰囲気はない。
本当に彼女にとって僕はただのクラスメイトなのだろう。
悲しい。
これが失恋か……。
もうこのまま家に帰って、布団にはいって眠ってしまいたい。
きっと枕を涙で塗らすことになるだろうけど。
「せ~んぱい!一緒に帰りましょ!!」
「……はぁ、タマ、また待ってたのか?」
君も懲りないね。
この1週間、タマはやけに俺に絡んでくる。
何がそんなに楽しいのか。
……えっ、まさか…僕が振られたのを知ってからかいに?!
いや、いや、タマは能天気なおバカな子だ。
それでもそんな酷いことをする子じゃなかったはず。
「先輩、どうしたんですか?お腹でも痛いんですか?」
「いや、ただ考え事していただけだよ」
「なぁ~んだ!あたしはてっきり落ちているモノを拾い食いしてお腹が痛くでもなったのかと思いましたよ!」
んなわけあるか!!
まったく僕をなんだと思っているのか。
さすがはタマだ。
揺るぎない。
「大人は時にはセンチメンタルになるものなんだから、そっとしてほしい時もあるの」
何ですかそれ!と笑いながら言うタマにため息をつく。
「あの、先輩……たまには手を繋いで帰りません?」
「…ん?何でだよ」
急になんだ?
また何か企んでるのか?
疑う僕にタマは目をそらす。
「いや~、えっと、昔みたいに先輩と手を繋ぎたくなって……なんて」
ああ、確かに小さい頃は手を繋いで歩いていた。
でもそれは元気すぎるタマがいつの間にかどこかに行かないようにするために、拘束する意味で繋いでいたんだ。
だから今、高校生にもなったタマとわざわざ手を繋ぐ必要はない。
俺が何も言わないでいるとタマはちょっと焦ったように続きを話す。
「べ、別に私が先輩のことがどうこうということじゃないんですよ?ただ、先輩と手を繋ぎたくなった……じゃなくって、先輩がどこかに行ってしまいそうに思えたので、私が繋ぎ止めてあげなきゃ!って思っただけで」
わたわたとよく分からないことを言うなぁ。
僕はどこにも行く用事は無いよ。
むしろ帰って涙を塗らして眠るつもりだよ。
……でもまぁ。
「……ほら、繋いでやるから手、出せ」
「……うんっ!!」
一瞬驚いた後、ぱぁっとまるで鮮やかな花が咲いたかのように、とても良い笑顔を見せるタマ。
その笑顔に僕は不覚にもドキッとしてしまった。
『もっと身近な子を見てあげた方が―――』
ふと、吉田さんの言葉が一瞬よぎった。
タマ……こんなに良い笑顔をするんだな。
…………?あっ!こら!なんで恋人繋ぎなんだよ!!
恥ずかしいだろ!!
ってガッチリ握って全然離せないし!!
どんだけ力いれてるんだよ!!
はぁ……仕方ない。
恥ずかしいけど相手はタマだ。
これが吉田さん相手だったらと思うと……いやいや。
能天気のタマだとしても、こうやって気持ち良いほどの笑顔を見せてくれるなら悪くない……かな。
「……タマ、コンビニで飲み物でも買いに行こうか」
「ゴチになります!」
奢らせる気満々か!!
まあ、たまには良いけどさ。
こうして僕たちはコンビニへと手を組んで、腕を組んで向かうのだった。
~おしまい~
如何だったでしょうか?
読んでくださりありがとうございました。