マザピ(Mother people)徐庶~Overture~
物語のはじまり的な。
「劉備殿を裏切るとは、なんたる不忠義不埒もの!」
年老いた母は、怒り狂い涙を滂沱と流し駆けだすと、自ら柱に頭をぶつけ絶命した。
「母上、ははうえ~!マ、ママン~!」
徐庶は大好きな母が目の前で命を絶ったのを呆然と見ているしかできなかった。
彼は泣き崩れ、やがて卒倒した。
徐庶の思考が巡る。
・・・・・・。
・・・・・・。
(孔明が一番ですと・・・では、この徐庶は二番ではいけないのですか)
・・・・・・。
・・・・・・。
(我が主、劉備様、民は・・・民は連れて行けません・・・この大局の見えないカッコつけバカちんがっ!)
・・・・・・。
・・・・・・。
(おのれっ!逆賊曹操っ、私の大事な母上を人質にするとは卑怯なりっ!)
・・・・・・。
・・・・・・。
(ん~母上、お母様、ま、ままん!)
「はっ!」
徐庶は目が覚めると、見知らぬ町のコンクリートジャングルの前に立ち尽くしていた。
「大丈夫ですか?」
挙動不審、顔面蒼白の彼に声をかけたのは、
「は・・・ははうえ」
徐庶の母・・・いや、母の面影を残し似た女性だった。
「?」
彼は悟った彼女が彼の母となってくれることを。
「私の母になってください」
真っすぐに見つめ言った。
「変態さんでしたか」
途端に女性は冷めた目となる。
「何故」
「初対面でそんなこと言う人、私は知りません。それにその服装・・・三国志かぶれですか?あっそうかっ!さては、コスプレイヤーさんですね」
「三国志?こすぷれいやあ?」
徐庶は聞きなれない言葉に首を傾げる。
「ははあ~ん、にわかコスプレさんでしたか、私こう見えて歴女で三国志好きなんですよ。えーと、そのコスプレは・・・ズバリっ諸葛孔明!」
「徐庶」
彼はぽつりと言った。
「あ~通ですね。マザコン軍師さんですか。いや、失礼しました。なかなかのマニアニックですね」
「ん?通?まざこん?まにあっく?それはどういう意味ですかな」
「お母さん大好き、変態軍師です」
「然り、変態以外はそれは偽りなき真実、実に聡明なお方だ・・・なので、やはり私の母親になってください」
「嫌です。どういう理屈ですか?それに私は断然孔明派なので」
「今は孔明など、どうでもいい!」
徐庶は羽扇を彼女に向けた。
「私は、あなたに母を見たのです。断固、母になれ、なります、なるべき。あなたは私の母親にな〜る、ほ〜ら、なりたくなーる、いちにさん、はいっママン~!」
「なるかっ!キモっ、断るっ!断固として」
「重顧の礼と催眠の計が破られるとは・・・そんな」
「やぶらないでか、当然でしょ」
女性はぷいと背を向けた。
「・・・・・・」
途方に暮れ佇む彼は、まるで母に叱られた息子のような目で彼女を見ている。
(これぞ、母性本能揺動の策)
じぃーっと。
女性は背中にイタイ視線を感じる。
「私、これで失礼します」
しかし振り返ろうともせず、頭を下げその場を立ち去ろうとする。
「せめて、ははう・・・あなたのお名前を」
「楓」
「楓・・・いい名だ」
「じゃ」
ぎゅるぎゅるるるる~。
徐庶のお腹がなった。
「・・・・・・」
楓は一瞬、戸惑い一歩を踏み出す。
天才軍師徐庶は、彼女の心の機微を見逃さない。
(勝機あり)
「あなたの作ったみそ汁が食べたい」
楓は立ち止まり、振り返ると怒り顔で、徐庶に向かってまくしたてた。
「はぁ!あって3分でプロポーズですか?私そんな世間知らずの女じゃありませんよ。いくらアラサーだからって、馬鹿にしないでくださいっ!」
「ぷろぽーず?あらさー?」
彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「求婚と30歳前ってことよ!なんで、解説しなきゃなんないのよっ!私のバカっ、お人好しさんっ!」
「ふむふむ。なるほど。求婚望むところです。30前ですか、そうか、だから私は楓様に母上を見たのですな」
「なんか、もの凄く失礼な物言いに聞えるけど」
「楓様」
「なんですかっ!私はもう帰ります」
「私は、あなたに母をみました。すなわち、あなたは私の母の代わりです。私の妻となり母となり、たまにはいや毎日、ばぶばぶよしよし遊戯と白髪となり共に果てるまで過ごしましょう」
「どうしようもないマザコンだけど、ちょっとぐっときた」
「これが人心掌握の策」
徐庶は思わず呟く。
「帰ります」
地獄耳の楓の前に天才軍師は墓穴を掘った。
「あ、せめて味噌汁は食べさせてください」
徐庶の一言に、楓は溜息をつき肩を揺らした。
「・・・しょうがないな、ついておいで」
「わんっ!」
徐庶は子犬のように楓の後を追いかける。
これより、天才軍師徐庶とアラサー女子楓の奇妙で愉快な同居生活がはじまるのだった。
つづ・・・かない(笑)。
多分、続かない・・・的な(笑)。