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世界世界世界  作者: YB


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9/20

#09 イジメをネットに晒す勇気

 闇系は重厚でケーブルやパイプや通気口がゴテゴテした壁に、キリストのように十字に壁に張り付けにされていた。1時間か‥‥もっと、浅い時間か。

 薄瞼を開けて、朧げな意識を取り戻すと学生服姿の二人の女がいた。

「お、起きた‥‥あたし、心配したのよ」

 一人は長髪の女、有栖川ハイドが唇をへの字にして口にする。

 無愛想な表情と反対に、その言葉、その瞳は‥‥闇系の身を本気で案じているようだった。

 その隣には、見慣れない女‥‥長い前髪で目元が見えない口が〰になっている、あからさまに恥ずかしがり屋の女がいた。

「‥‥‥っ」

 張り付けにされている闇系を見て、勝手に恥ずかしがる。

「あ、こっちは琴吹彩夏よ‥‥異世界ネーム、【アヤカ0602】‥‥6月2日生まれの、恥ずかしがり屋な性格な女の子よ‥‥彩夏は“目立つことが苦手”なの‥‥だから、闇系君の救出を手伝ってもらったわ」

 バスト、ウエスト、ヒップがバランスの良い曲線を描く有栖川が自慢げに口にする。

 闇系は‥‥まだ体力が回復しておらず、伊藤花火の“ただの張り手”のダメージも抜けきっていない。目をシュバシュバさせて、状況を把握しきれずにいた。

「‥‥あたし、闇系君のスマホに細工を‥‥魔法による細工をさせてもらったの‥‥簡単なGPSみたいなものよ‥‥本当はもっと早く助けてあげたかったんだけど‥‥この建物‥‥廃墟と化したボーリング場全体が魔法的な建造物に変えられていてね‥‥あたしの探知能力でさえ、ここでは無効にされるの‥‥だから、手間取ったわ」

 申し訳なさそうに話し終えた有栖川が異世界の言語を唱えると‥‥水の輪っかが宙に出現し、闇系の体をすり抜ける。

 すると、闇系の朧げだった意識がクリアになり、視界のモヤモヤがなくなった。

「んッ!‥‥頭が‥‥スッキリした」

 ようやく言葉を口にした闇系は、固定された手首足首に目をやる‥‥改めて見ると‥‥なんだ、この理不尽はッ!

 状況の全容が見えてきた闇系は‥‥ふるふると肩を震わせる‥‥紛争地域ですらない軍事力を持たない日本で‥‥俺は拘束されているのかッ!‥‥なんとゆう理不尽ッ!

「おいッ!スマホはッ!‥‥俺のスマホ‥‥アイフォンはあるかッ!」

 ガシッガシッ、と固定具の音をたてて闇系が叫ぶ。

「はいはい‥‥これがないと‥‥正気を保てなくなる‥‥でしょ?」

 有栖川がウィンクをしてアイフォンと財布を掲げる。

「うぅ‥‥すまねぇ‥‥借りは‥‥借りは、分割で返させてくれッ!」

 闇系が瞳を潤ませて頭を‥‥拘束が繋げれているため首だけを曲げて、頭を下げた。

「貸し借りの話はここを出てからしましょう。闇系君、あたしが回復したのは魔法によるダメージだけよ‥‥回復魔法は‥‥魔法による干渉しか影響しないの」

 だから‥‥と、有栖川はそのまま続ける。

「闇系君の疲労は‥‥その不健康な体は限界のはずよ‥‥手首足首の拘束具みたいな錬金魔法や、たぶん闇系君がかけられた伊藤花火の幻覚魔法は‥‥あたしの水魔法で気分爽快、スッキリ回復させたわ‥‥でも、魔法干渉のしていない単純な物理は‥‥魔法では治せないッ!‥‥覚えておいて」

 闇系はまだアゴ頬がピリピリと痺れていることに気付いた。

 そうだ‥‥俺は殴られたッ!‥‥理不尽に一方的にッ!

「お前ッ!‥‥頼みがある‥‥俺は復讐しなくちゃいけないッ!‥‥理不尽な暴力を‥‥教育機関が喧嘩両成敗で片付けるような理不尽な暴力を‥‥俺は許さないッ!」

 有栖川が「そうだった‥‥闇系君はそうゆう奴だった」と額に手を当てて首を振る。

「分かったって‥‥復讐はここを抜け出してから考えましょう」

 有栖川が闇系の固定された足首へ手を伸ばそうとした‥‥その時、闇系が吠えるッ!

「違うッ!‥‥解いてどうするんだッ!‥‥この状況は‥‥ゆわば、証拠ッ!‥‥弁明も弁解もしようもない‥‥決定的な証拠だろッ!」

「は?何をゆってるの?」

 有栖川が訝しげに口にした。

「俺は‥‥いじめられたら、インターネットに晒すぞッ!ネットに晒すとゆう、圧倒的正当性‥‥それゆえに、暴力に勝るその手段をッ!‥‥俺はとるぞッ!‥‥全国のいじめられっ子は‥‥優しくて、想像力が‥‥豊かだッ!‥‥だから、ネットに晒すとゆう暴力に勝る手段を取らないッ!‥‥でも、俺は‥‥優しくないッ!‥‥晒す‥‥晒して‥‥社会制裁を下すぞッ!」

 ガシッガシッガシッ!

 闇系が固定具の音を鳴らすッ!

「あのね、闇系君。ネットに晒す以外の手段もあるはずよ。とにかく、ここから出ましょうッ!」

「お前は‥‥お前達【常識人】は‥‥そうやって‥‥当たり障りのない‥‥選択を取り続ける‥‥でも、でもなッ!‥‥選択肢なんてねぇだろッ!‥‥理不尽な暴力には‥‥教育機関が両成敗で片付けるような理不尽な暴力には‥‥ネットに晒す以外の手段はないだろッ!」

「闇系君‥‥敬語ね。あたし、君より歳上なの」

「そうやってすぐに‥‥話を逸らすッ!‥‥今は敬語よりも‥‥俺の態度よりも‥‥理不尽な暴力に立ち向かう方が先だろッ!‥‥俺の弱みに付け込んでる場合じゃないだろッ!」

 有栖川がムスッと唇を尖らせる。

「‥‥闇系君のことを思って‥‥あたし、ゆってるの‥‥社会に出たら‥‥理不尽ばかりよ‥‥だから、慣れなさい‥‥これも‥‥大人になるとゆうことよ」

「大人のイジメもなくならない世の中じゃないかッ!‥‥俺は晒すッ!‥‥この理不尽な状況を晒して‥‥ネット社会とゆう‥‥内弁慶たちにけしかけるッ!」

「うるさいなぁッ!」

 有栖川が「チッ」と舌打ちをして、壁を蹴り飛ばす。

 そのまま闇系に背中を向けて、一歩、二歩と離れていく。

「もういい‥‥そのまま反省しなさい」

 有栖川が右手を仰いで、薄暗い部屋のドアの方へ向かっていく。

「‥‥待っ‥‥て」

 第三者の声だった。ずっと同じ空間にいたにも関わらず、“目立つことが苦手”だった琴吹彩夏が、かぼそい声を搾り上げる。

「‥‥私は‥‥私は‥‥晒したいッ!」

 胸の前で両手を組み、祈るように前髪で見えない瞳から、大粒の涙をこぼす琴吹の言葉を聞いて、有栖川が振り返る。

「はぁ?‥‥ネットに晒すことは‥‥正義じゃないでしょッ!‥‥むしろ、いけない事よッ!」

「アリスちゃん、聞いてッ!私は異世界に行く前は‥‥いじめられていたの。Yahoo!ニュースが知らせるような、どこにでもあるとされている、イジメを受けていたの」

 当たり前に繰り返され過ぎて、日常に溶け込んでしまったイジメを‥‥。

 琴吹彩夏は涙を拭い、必死に言葉を紡ぐ‥‥手織の繊細な工芸品のように。

「私も‥‥イジメの確固たる証拠を‥‥映像を撮っていた‥‥でも‥‥晒せなかったのッ!‥‥だって‥‥普通は晒さないッ!‥‥普通は晒さないから‥‥私は晒さずに‥‥イジメを‥‥理不尽な物理と精神の攻撃を‥‥受け続けたのッ!‥‥死にたくなるぐらい‥‥」

 有栖川は普段の琴吹からかけ離れた様子に、何も言い返せなくなる。

 琴吹が‥‥長い前髪で瞳の大きさも分からない琴吹彩夏が‥‥震わせた声で言う。

「‥‥普通ってなんなの?」

 有栖川の異世界で鍛えた他人を評価する目が、琴吹の“目立つことが苦手”なユニークスキルが、イジメをやりすごために“目立ちなくなかった”少女の祈りであったと云う悲しい答えを導き出した。

「‥‥ごめん‥‥あたしも‥‥分からない」

 有栖川はアイフォンを琴吹に手渡した。

 そうすることが、このYahoo!ニュースが知らせる、自分には関係のない不毛な議論を終わらせるための唯一の方法だと思ったからだった。

 闇系のアイフォンを受け取った琴吹が覚悟を決めて口にする。

「【闇系チャンネル】‥‥いつも、見ています‥‥その‥‥私が言いたいこと‥‥全部、言ってくれるから‥‥ファンになりました‥‥チャンネル登録も‥‥本アカとサブアカでしてます‥‥Twitterもフォローしてます‥‥だから、お手伝いさせてください‥‥私が闇系さんを‥‥闇系さんの理不尽な状況を‥‥撮りますッ!」

 思い切りあげた顔が前髪をなびかせて、隠されていた瞳が‥‥大きく宇宙のようにキラキラと輝く瞳が真っ直ぐと闇系に向けられる。

 成り行きを見守っていた闇系が、その覚悟の籠もった瞳を受け止めて答える。

「‥‥共犯者だぞ?」

 琴吹彩夏が微笑みかける。

「はい」

 キリストのように張り付けられた闇系を、その信者が崇めるように‥‥琴吹がスマホで動画を撮影する。この状況、有栖川だけが‥‥腑に落ちない。


 闇系チャンネルの時間です。

 今日は‥‥見ての通り‥‥拉致されているッ!

 やらせでも‥‥CGでもない‥‥魔法によって作られた理不尽な無機質な物体に‥‥俺は拉致されているッ!魔法‥‥【風のエルフチャンネル】のウィンドウ先輩も使っていた、あの魔法だ。あ、コラボ動画は概要欄に貼っておく。

 率直にゆって‥‥これは、犯罪だッ!‥‥おふざけでも、お遊びでもない‥‥ただの犯罪ッ!

 俺は許さないッ!‥‥絶対に許さないぞッ!

 ‥‥伊藤花火‥‥名前は伊藤花火だッ!‥‥精悍な顔立ちの自信過剰な17歳だッ!

 伊藤花火は‥‥魔法を使うッ!‥‥俺はあいつの魔法の炎で‥‥頭を焼かれたッ!

 そして、殴られたッ!思いきり‥‥電柱でも倒せるような、本気の強烈の体重の乗った一撃を‥‥人間の弱点であるアゴにッ!

 急死に一生だ‥‥俺が生きてるのは奇跡的だ。

 ‥‥こうして動画にできてるのは、俺のファンが助けに来てくれたからだ。

 だから、助けはいらない‥‥でも、伊藤花火に心当たりがあれば‥‥通報して欲しい。

 俺は‥‥理不尽な暴力を‥‥許さない。


 ──動画の最後には、誰かの鼻をすする音が入っていた。


 森川亮司32歳、小太りな体格で無精髭の清潔感のない男のシャツは汗で黄ばみ始めていた。

 8年ぶりに家を出て、徒歩30分の小さな地方都市のビジネス街に向かい、【闇系チャンネル】の少年をマグドナルドの前で発見した。

 パーカーを深くかぶっているが、不健康そうな細身で小柄な体格は見間違えようのない闇系だった。

 それは、怪獣の認知よりも遥かに重要な‥‥発見だった。

 森川が咄嗟に身を隠したのは、家から持ち出した刃渡り5センチの果物ナイフが冷静な思考を奪っていたからだった。

 目立たないように、少し離れた位置から闇系少年の様子を伺っていると、果物ナイフの反対側のポケットに入れた型の古いスマホの通知音が鳴った。

 チャンネル登録したYouTubeの新着投稿動画を知らせる通知だった。

 いつもの癖で、森川がスマホを確認すると【闇系チャンネル】が新しい動画を投稿していた。

【怪獣】ついに怪獣が目覚めた!?【咆哮】

 音声を小さくして動画を再生すると、闇系少年が人気急上昇中の【風のエルフチャンネル】とコラボをし、都市伝説である怪獣に魔法をぶっ放すと云うものだった。

 とてつもなく大きな怪獣が咆哮を上げ、闇系少年の一言で動画は終わる。

「ほらッ!‥‥怪獣は‥‥いただろッ!」

 ‥‥面白いけど、いかにも加工音声って感じが残念なんだよね。今時、アプリでももうちょいマシは音声加工できるでしょ。魔法の撮り方ももっと工夫しないと、せっかくの絵が台無しって‥‥感じ?‥‥まあ、子供にしては頑張ってるけどね‥‥ただ、子供がやってるって特殊性がなかったら、ここまで伸びてないよね?

森川は批評することで自己肯定感を充実させていた。ただ批判するのではなく、ロジカル的に、専門知識を交えて批判し、相手の優位に立つ。批評すると云う立場が相手よりも優位に立ち、そのことが自己への肯定につながっていた。

 闇系少年はマクドナルドの前を行ったり来たりして、ずっとスマホを見つめて不気味にニマニマとしている。

 マクドナルドの無料のWi-Fiは森川のスマホにも届いており、【怪獣】ついに怪獣が目覚めた!?【咆哮】の動画が100万再生を超える瞬間もYouTubeを開いていた。

 ‥‥まあ、いかにもYouTube受け狙いましたって動画だしね。でも、子供が再生数狙いましたって動画を作るのはどうなんだろ‥‥今からそんなことを考えてたら、大人になった時、一度上手くいかなっかっただけで、すぐ辞めちゃうんだよね、こうゆう子供は。

 日が沈み始めた頃になってようやく、闇系が小さな地方都市の一番大きな駅に向かって歩み始めた。森川亮司も気付かれないように、息を殺して後をつける。

 モノレールでは隣の車両の連結部分から、闇系少年をずっと監視し続けていた。

 闇系少年は誰かと会話しているようだった。

 森川はLINEかSkypeで動画の‥‥100万再生の超えた動画の自慢でもしてるんだろうと思う。自慢相手は‥‥ミルキーかも。自分の動画に『いい声ですねw』と唯一、コメントをくれたミルキーかも知れない。たかだか数千のコメントの一人‥‥そんな可能性、皆無に等しいが、森川はその皆無の可能性を捨てきれない。

 闇系がモノレールを降りると、そこは閑静な住宅街だった。

 オレンジから赤みがかった夕暮れに変化していく過程だった。

 ギリギリ闇系少年を捕捉できる距離も持って、後をつける。

 すると、闇系少年の前に3人組の学生服姿の男女が現れた。

 遠すぎて会話は聞き取れないが、突然、闇系少年が倒れた。

 そして、先ほどまで、そこになかったはずの近未来的なデザインの乗り物で三人組は闇系少年を連れ去ってしまった。

 急いで、闇系少年が連れ去られた場所へ向かう。そには何もなかった。

そんな光景を目の当たりにした森川は‥‥これは【闇系チャンネル】のドッキリ動画の撮影では?‥‥と、思いつく。

【いきなり誘拐してみた】‥‥タイトルはこんなところじゃないだろうか。

 中堅YouTuberにありがちな企画が過激になっていく‥‥闇系少年もその道を辿ってしまっているのだろう。森川は途端に力が抜けて、馬鹿らしくなってしまった。

 自分の貴重な一日を子供に振り回されたのだ‥‥この労力を時給に換算したら、五千円は貰わないと割りに合わない。森川は闇系少年の事を諦めて、自宅への帰路につく。


【法則性】が働く。必ず滅びる世界に向けて、収束と帰結する‥‥絶対的な【法則性】が。


 森川のスマホの電池がなくなり、近くのコンビニに向かう。

 そこで、初めてスマホの充電器レンタルと云うサービスを知る。

 コンビニの駐車場の公衆電話の前でスマホの電池が‥‥満タンになるまで待つ。

 スマホの電池マークが100%になった時、時刻はすでに22時を過ぎていた。

 ‥‥何故か‥‥森川の意識と関係のないところ‥‥【法則性】の作用で‥‥。

 森川は高校生の時にハマっていたボーリング場がどうなっているか気になってしまった。

 スマホの充電器を返却して、森川は‥‥ボーリング場へ向かう。

 しばらくかけて辿り着いた思い出のボーリング場は‥‥廃墟になっていた。

 ‥‥虚しい気持ちになった‥‥胸が‥‥心が張り裂けそうな‥‥そんな気持ちになった。

 家から出なければ‥‥味わうことのなかった虚無感だった。

 家から出たのは‥‥【闇系チャンネル】が気に食わないせいであった。

 廃墟になったボーリング場から闇系少年と制服姿の女子高生2人が出てくる。

 不健康で細身で小柄の‥‥男として魅力のない闇系少年は、2人の女子高生に肩を支えられ、寄り合うようにしていた。

 ‥‥果物ナイフをポケットから取り出した。

 女子高生のどちらかは“ミルキー”かも知れないと思った。

 果物ナイフのカバーを外し、その場に捨てた。

 ゆっくり‥‥息を殺して‥‥ゆっくり‥‥近づき。

 闇系少年の不健康な薄皮の背中を‥‥ドスり、と刺した‥‥刃渡り5センチの果物ナイフで。

「‥‥違う、これは違うんだ‥‥ドッキリッ!そう、ドッキリみたいな‥‥ハプニング動画だよッ!‥‥ハハッ‥‥また、再生数伸びるね‥‥うんうん‥‥そうだ‥‥僕もYouTuberなんだッ!‥‥コラボ‥‥コラボしよう‥‥同じ、都市伝説を扱う者同士‥‥相乗効果の高いコラボになるね‥‥きっと‥‥じゃあ、帰るよ‥‥また‥‥DM送るね」

 闇系が、背中を刃渡り5センチの果物ナイフで刺された闇系が森川をジロリと睨みつける。

「‥‥あんたは」

 森川はその言葉を待たず、不恰好なランニングフォームで逃げた。


 夜だった。星空だった。しかし、廃墟になったボーリング場に電灯はなく、暗く視界が悪かった。闇系が刺された時、有栖川ハイドは異世界で身につけた探知魔法をフル稼働させて伊藤花火達を警戒していた‥‥そのせいで、森川の存在に気付かなかった。

 闇系が刺された時、琴吹彩夏は異世界で身につけた存在を消す魔力をフル稼働させて伊藤花火達から身を隠していた‥‥そのせいで、森川の存在に気付かなかった。

 闇系は自分が刺された時「あんたは」と口にしたが‥‥思考の間も無く‥‥ショック死した。

 その不健康で細身の小柄な体格が受けるには、不意の刃渡り5センチの果物ナイフは‥‥あまりにも凶悪だった。

 ショック死した‥‥正確には、ショック死する‥‥ほんの、それは時が刻めないような、ほんの少し前に‥‥闇系の頭の中に巣食う【集団心理】が‥‥【女神】が強制的に転移魔法を使用した。

 こうして、闇系は現実世界からいなくなった。


 闇系が気が付くと、そこが白い空間だった。

 目の前には、肌の露出した際どい真っ白なローブをまとった大人の女性がいた。

「‥‥ようこそ、ここはクロノスタシス‥‥時計の針が止まって見える場所よ」

 闇系はその声に聞き覚えがあった‥‥頭の中に勝手に巣食い‥‥当然を‥‥さも当然のように‥‥当然を振りかざし‥‥俺の思考に割り込んできた【集団心理】ッ!

 闇系は不機嫌に「フンッ!」と鼻息を吐き捨てる。

「この後に及んであなたとゆう人は‥‥分かってるの?‥‥怪獣に立ち向かえる力を‥‥あなたに授けるはずだったッ!‥‥でも、あなたは【女神】であるわたしを‥‥全ての人間を愛しているわたしを拒み‥‥あろうことか、勝手に死んだッ!‥‥あなたが死んだら、わたしは寄りどころをなくし、消滅していたのよ‥‥だから、強制的に転移させた‥‥あなたに授けるはずだった、力ッ!魔力ッ!魔法ッ!能力ッ!ステータスッ!を‥‥90%以上も消費してよッ!‥‥あなたが拒み続けた上、勝手に‥‥勝手に死んだせいでよッ!」

 恐ろしい程、整った顔とスタイルをした銀色の長い髪をした女神は‥‥真顔だった‥‥ただ、真顔だった‥‥それは、本気で怒っている人、特有の‥‥真顔だった。

 闇系は母親に初めて怒られた時に刻み込まれた本能による恐怖を感じていた‥‥怖いと云うより、やってはいけないことをしてしまったと云う、あの気持ちだ。

「どうするの?‥‥世界はこのままだと‥‥また滅びてしまうわよ?‥‥もう、やり直しはできない‥‥わたしの力ももうないのよ?‥‥分かってるの?」

 闇系は不機嫌に吐き捨てる。

「俺に聞くなッ!」




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