#07 効率的なおつかいゲー
異世界帰りの子供たちが幸か不幸か‥‥目覚めた先の現実世界でも、能力を引き継いでいた。つまり、アベンジャーズでマーブルな子供達がちょうど四百人‥‥日本に突如として、出現した。それは、自衛権しか持たない‥‥持ってはいけない日本において‥‥あまりにも強大な軍事力になり得た。
予想だにも望みもせず、そんな異世界の子供達を保有してしまった日本の大人たちがとった選択肢は‥‥曖昧にやり過ごすことだった。
曖昧‥‥そう、曖昧だ。できる事なら‥‥なかった事にしたいッ!なかった事にできないなら‥‥隠しておきたいッ!隠せないなら‥‥責任を取りたくないっ!
日本の大人たちは、異世界帰りの子供たちの社会復帰、文化意識の修正を目的に‥‥私立特別支援高校を創設した。
その存在を日本の大人たちは知らない事になっている。問題が起きた時に‥‥責任をとらなくていいようにッ!
そんな私立特別支援高校で、生徒会は緊急会議を実施していた。
怪獣が鳴いた翌日の放課後‥‥近代的な校舎の一室、エアコンの効いた高校生にはあり得ない高待遇環境で会議をしている。
「霧島隆聖‥‥異世界ネーム【ウィンドウ】の身柄は理事会に引き渡されました‥‥フフッ‥‥YouTube【風のエルフチャンネル】の活動は‥‥今後も監視下の元、継続されるようです」
長机の真ん中で両肘をついた生徒会長、鷲津たら子が響きの良い声で言った。
中性的で年齢不詳な顔たち、小柄な少女の体格をした鷲津たら子は、異世界では【天才たら子】と呼ばれていた。
知略に長け、応用力も高く。指揮官において非凡な能力を発揮する鷲津は、最終パーティーには入っていないが、最終局面までの盤面を描き、勝利まで導いたのは彼女の手腕によるものだった。
「怪獣の出現‥‥いえ、認知によって‥‥魔法を‥‥私たち異世界帰りの子供たちとゆう戦力を‥‥世間に認知させる腹づもりでしょう」
鷲津がニコニコと当然のように口にした。
副会長の一人、達観した冷静な和泉光平が肩で息を吐き捨てこう言った。
「溶け込む派の僕たちにとっては‥‥許し難い事実だが。怪獣がもし目覚めたら‥‥動かざる得ないだろう」
和泉の近い位置に座る会計のエルザが首を縦に振る。
「うん‥‥イズミがそうゆうなら‥‥わたしもそうする」
黒髪のボブヘアー、小動物のようなクリクリした瞳のエルザがいつものように同意する。
「ドテチンっ!」
ホワイトボードの前に立った2メートルを裕に超える坊主頭、大きな10円ハゲのドテチンが威勢よく気合を出す。ギャートルズのドテチンに似ているから‥‥ドテチン、異世界ネーム【ドテチン】。言葉を話さない彼に鷲津がつけたあだ名だった。
生徒会メンバーは、【会長】鷲津たら子、【副会長】和泉光平、【書記】ドテチン、【会計】エルザ‥‥そして、本日欠席のもう一人の【副会長】琴吹彩夏の5人で運営されている。
「現実世界に溶け込んで平穏に暮らす‥‥とゆう、私たちの目的を改めないといけないかも知れません‥‥怪獣の認知は‥‥それほどまでに‥‥終末です」
「ドテチンっ!」
鷲津の言葉に意味も分からずドテチンが返事をする。
「‥‥はぁ、やっぱりそうなるのか」
和泉が腕を組み口にする。
「とにかく情報が欲しい‥‥【闇系チャンネル】のあの少年に話を聞きに行こう」
隣のエルザが首を縦に振るが、真ん中に座る鷲巣は首を横に振る。
「それには及びません‥‥闇系と呼ばれる少年は‥‥昨日、何者かに誘拐されました」
「ドテチンっ!」
和泉は眉をひそめて‥‥尋ねる。
「‥‥過激派か?」
「決まった訳ではありませんが‥‥十中八九、伊藤花火とその仲間の仕業でしょう‥‥【現実を異世界にしたい派】はずっと‥‥敵を探していました。怪獣は‥‥世界を脅かす怪獣は彼らにとって‥‥僥倖」
鷲津たら子がどこか悲しい顔をする。
その気持ちを和泉も嫌という程、理解できてしまった。
‥‥ついに、僕たち‥‥異世界帰りの子供たちが‥‥一般人に力を使ってしまったッ!
「後には戻れないぞ‥‥花火ッ!」
和泉が立ち上がり、拳を長机に振り落とす。ドコッ、と鈍い音。
「生徒会はこれより一般人に危害を加えた伊藤花火とその仲間の確保のため動きます‥‥校長からの活動許可もすでに得ています‥‥このミッションは怪獣に近付いたチームが勝利です‥‥第一優先は、闇系少年の救出‥‥そして、情報を引き出します」
鷲巣がわざとらしく手を組み直して更にこうつけ加える。
「ところで、和泉君。怪獣を認知した瞬間、何か既視感のような症状はありませんでしたか?」
和泉が首を傾げ答える。
「‥‥既視感?言われてみれば‥‥僕は何かを‥‥忘れてはいけない『何か』を‥‥?」
心配そうに隣のエルザが和泉のシャツを引っ張った。
「分かりました‥‥私も似たようなものです。今は不確かな既視感は忘れて、闇系少年の確保を優先しましょう」
「ドテチンっ!」
こうして生徒会メンバーは目的を共有し、動き始める‥‥それが、【現実世界に溶け込みたい派】の自分たちと、【現実を異世界に変えたい派】の伊藤花火たちと‥‥【異世界に帰りたい派】の有栖川ハイドたちの派閥闘争に‥‥いや、近代兵器をも凌駕するエネルギー量を有する戦争になっていくと予想しているのは、生徒会会長の鷲津たら子のみだった。
しかし、そんな策略家の鷲津さえ予測できない存在‥‥いち早く怪獣の存在を知り‥‥何故かYouTuberをやっている少年‥‥闇系だけは予測不能。
駆け足勇み足。パーソナリティー学園を抜け出して冒険に出かけた【勇者】リュカと幾何学的な幼女バックアップは、駆け足、勇み足で馬車道を駆ける。
すっかりと日は登り、朝露の草木の香りが草原からしていた。
「【勇者】リュカ‥‥一度に覚える必要はありません‥‥理解できなかったり‥‥忘れたりしたら‥‥その都度聞いてください‥‥不安だったらいつでも‥‥マニュアルは渡せます」
魔物の気配を気にしながら走るリュカが無言で頷く。
「冒険‥‥とゆっても、これは‥‥現代的な冒険です」
バックアップは無機質な口調で淡々と話し始める。
まずは、紡績で有名なルルスの町を目指します。そこの奴隷商会に不幸で痛ぶられている胸の大きな犬耳の亜人【名前はまだない】がいます。
道すがら魔物を狩り素材を剥ぎ取り冒険ギルドに売却し、その資金で【名前はまだない】を購入します。
購入する時に名前をつけて欲しいと、おねだりされるので考えておいてあげてください。
補足ですが、ご飯を一緒に食べる時【名前はまだない】は床で食べようとするので、テーブルで一緒に食べてあげるように促してあげましょう。
【名前がまだない】を手懐けたら、次はダンジョン都市メケドを目指します。
そこには、エルフの没落貴族で胸の大きな騎士見習いの【ディーナ】が騎士仲間から虐げられています。
助けに入ると、成り行きでダンジョン20階層の蜘蛛型の魔獣の討伐を手伝う事になります。成り行きに逆らわず、適当に‥‥肯定し続けてください。
蜘蛛型の魔獣は苦労する事なく倒せるでしょう。
討伐が完了すれば【ディーナ】が仲間になります。前衛の要になる彼女の加入により、パーティは安定期に入ります。
補足ですが、仲間にした初めての夜、【ディーナ】は寝ぼけてあなたの布団の中に潜り込んできます。
手を出してはいけません‥‥【勇者】は思わせぶりでないといけないのです。
胸の大きな犬耳の亜人【名前はまだない】と、胸の大きなエルフ族の騎士【ディーナ】を手懐けたら、次は漁港の町ベイスターを目指します。
そこには、亡国の姫で胸の大きな【シエスタ】がアースドラゴンの討伐を手伝って欲しいとお願いされます。
哀れで可愛そうな【シエスタ】は先の大戦で国を失い、共に逃げた妹が呪いに犯されてしまい、その呪いを解くためにはアースドラゴンの肝が必要です。
アースドラゴンは【シエスタ】を含めたパーティが力を合わせれば、一難ぐらいで倒せるでしょう。
妹の呪いを解いたら【シエスタ】が仲間に入ります。ついでに、妹‥‥胸の大きな妹【ヒーヤ】も仲間に入ります。攻撃魔法の【シエスタ】と回復魔法の【ヒーヤ】の姉妹加入により、パーティはより強くなります。
補足ですが、アースドラゴンの討伐の帰り、休憩中に水浴びをしている【シエスタ】の裸を覗き見してしまいます。
すぐさま後ろを振り返り、「み、見てないッ!」と見ていても弁解しましょう。
「‥‥とりあえず、仲間は以上のように揃えます」
駆け足にも関わらず、息一つ乱さないバックアップが話し終えると、リュカが足を止めて呼吸を乱して言った。
「僕は‥‥【勇者】になったばかりの僕は‥‥蜘蛛型の魔獣や、アースドラゴンを倒せるのでしょうか?」
同じく立ち止まったバックアップが淡々と答える。
「問題ありません‥‥わたしが戦闘に参加します」
「ちなみに冒険は‥‥どれぐらい続くのでしょうか?」
「本来なら半年ほどの行程ですが‥‥今回は緊急事態です‥‥五日間で終わらせましょう」
リュカが目を見開き、大顎を開ける。
「えっ!【勇者】の冒険が‥‥五日間ですか?」
「はい‥‥時間をかければ成果が得られると勘違いしてはいけません‥‥成果は結果でのみ証明できるものです」
「‥‥時間の積み重ねが人を強くすると‥‥学園では習いました」
「個性を与えられて間もない【勇者】リュカに‥‥時間の積み重ねがあるとでも?」
幾何学模様を光らせて、バックアップは心底、理解できないように首を傾げる。
「‥‥確かに、そうです‥‥僕は間もないッ!」
「最初にも申しましたが、これは‥‥現代的な冒険です。行き先も、出会いも、出来事も‥‥全てマップに印してあるのです‥‥五日間、徹夜すれば‥‥どんな冒険でも攻略できるのです」
「間もない僕には‥‥想像もできないのですが‥‥バックアップ様の御心のままに」
リュカがどこか腑に落ちないように一礼をする。
「それでは‥‥現代的な冒険を再開しましょう」
バックアップが歩み出そうとするが、リュカが慌てて止める。
「最後に教えてください‥‥僕の仲間は‥‥仲間になる予定の人たちは‥‥どうして胸が大きいのでしょうか?」
バックアップが瞬きを数回する。
「胸が大きな女性は嫌いでしょうか?」
「いいえ‥‥好みの問題でなく‥‥ただの疑問と言いますか」
「‥‥偶然です、偶然」
【勇者】リュカと幾何学的な幼女バックアップの五日間の過酷な冒険はまだ始まったばかりだった。




